新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、日本に留学する外国人が激減している。アジアやヨーロッパ地域からの留学生は復活の兆しも見えてきているが、特にアメリカからの留学生は減少したままで、最新の統計では2020年から21年にかけて日本に訪れた留学生は、わずか124人。かつて1年で8900人以上いた留学生が約99%も減少した形だ。

世界一厳しいと言われた水際対策を行ってきた施策の影響ではあるが、今後の対策は急務となっている。アメリカからの留学生は、高度人材の育成や、日本のソフトパワーを生かすためにも必要であり、何より日米間の相互理解の草の根的な部分でもあり、日本にとって重要なことだ。

日米両国で留学生呼び込みキャンペーン開催

こうした中、日米の大使館が協力し、留学経験者や現在両国に留学している人たちに魅力を発信するキャンペーンが行われた。

イベントを盛り上げようと、インスタへの投稿の呼びかけも行われた
イベントを盛り上げようと、インスタへの投稿の呼びかけも行われた
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11月1日から30日まで開催されていた「日米間留学促進キャンペーン」は、日米の大使館などが主催し、「#USJapanStudyAbroad」または「#JapanUSStudyAbroad」というハッシュタグを付け、アメリカと日本に留学中の様子をインスタに投稿するものだ。

留学生や留学経験者がインスタに自らの経験を投稿
留学生や留学経験者がインスタに自らの経験を投稿

投稿者は留学中の学生や、過去に留学した人などで、期間中に数百件の投稿がなされ、「日本への留学が私の人生を変えた」と語る人もいたほか、それぞれの人たちが自身の留学の経験や、それが人生にどのような影響を及ぼしたのか、熱い思いを動画や画像で紹介していた。

日本大使館に勤めるサラ・モリスさん(隣の絵画は2023年にワシントンDCで開催される「全米桜祭り」公式アート)
日本大使館に勤めるサラ・モリスさん(隣の絵画は2023年にワシントンDCで開催される「全米桜祭り」公式アート)

ワシントンDCの日本大使館に勤めているサラ・モリスさんもその1人だ。関西外国語大学に留学した後、JETプログラムで石川県に6年滞在した彼女に、投稿への思いを聞いた。

日本は「良い意味で異質な国」

――キャンペーンに投稿した理由は?

日本への留学は私の人生を変え、日本で別のキャリアを歩みたいと思わせるものでした。だからインスタでそれを共有したいと思いました。

――日本への留学はあなたの人生にどのような影響を与えた?

大阪での留学生活で、日本がいかに素晴らしい国であるかが分かりました。留学の経験があったからこそ、JETプログラムに参加することができました。そして、そのことが私の人生を変えました。

サラさんがインスタ投稿した留学中の様子
サラさんがインスタ投稿した留学中の様子

――日本は留学先として魅力があるか?

日本にはずっと興味があったのですが、実際に行ってみるまでこんなに素晴らしい国だとは思っていませんでした。テクノロジーと伝統文化が見事にミックスされていて、アメリカにはない。しかし、良い意味で異質なんです。日本への留学はとてもユニークな体験なので、どこに行こうか迷っている人にはぜひおすすめしたいです。

――留学を考えている人、悩んでいる人へのアドバイスは?

もし留学をしたいのなら、それが将来的にどう役立つか、あるいは後の人生でどう役立つかはわからなくても、留学をすることです。異文化に適応するために必要な経験、人との出会いは、想像を絶するほど自分を変えてくれるはずです。人として成長するだけでなく、グローバル社会の一員としても成長することができるのです。
最初は大変かもしれない。でも、学校との出会いや留学のサポートは、何も心配することはないです。日本が第二の故郷であるかのように感じさせてくれるはずです。

99%も減少した日本への留学生

一方で、このような取り組みが行われる背景には2020年以降に世界的に拡大した新型コロナウイルスの影響がある。

各国間の往来に大きな支障が出たことで、留学生は激減。特に日本は世界一厳しいと言われた水際対策を行い、2022年にこの対策は緩和されて以降も、その回復には各国と比べ大きく遅れを取っていて、3年間の「留学生空白期間」とも言える隙間ができてしまった。

2020年から21年にかけては、アメリカから日本に留学した人はわずか124人。日本からアメリカに留学した人が1万人を超える中で、100分の1と大きな差が出ている。3年の間、留学生を事実上受け入れない状況になった結果、経験者から話を聞く機会も限定され、日本に興味を持つ学生自体の数も減少し、日本留学の説明会の参加者や日本語学習者も大幅に少なくなっている。

アメリからの留学生は、大学や大学院を卒業するような高度人材も多いため、日米両国間の政府中枢で働く要人や、企業幹部として活躍する人材も多くいる。何よりも同盟関係にある両国において、日本の国民性や文化をよく理解し、両国の草の根交流の礎となってきた部分でもあるため、こうしたアメリカからの留学生の減少は、日本の将来に向けても非常に深刻な状況とも言えるだろう。

「3年間の空白」の影響 大使館担当者は…

今回のインスタキャンペーンを主催した、ワシントンDCの日本大使館に文科省から出向している金城太一氏にも話を聞いた。

インタビューに答える日本大使館の金城太一参事官
インタビューに答える日本大使館の金城太一参事官

――イベントの開催理由と目的を教えてください。

2020年からのコロナ禍で、日米の学生の交流が途絶えてしまいました。こうした現状から東京のアメリカ大使館と我々、ワシントンDCの日本大使館は、すぐに手を打たないと取り返しのつかないことになるとの危機感を共有しました。
特にアメリカの主要大学では、2022年中の日本留学のプログラムを今年の早い段階で中止にしてしまったこともあり、日本にアメリカ人留学生が戻って来ていません。また交換留学など、来年の計画を考える時期でもあります。そこでインスタを使って留学経験者の色々な思い出をバーチャルな空間でシェアする企画を考えました。

――留学生99%減少の影響は今後どのように出てくるのでしょうか?

この3年間の空白はかなり深刻で、学生にとって日本に留学したことのある先輩や友人が周りにおらず、口コミの情報も含め生きた日本留学の情報が全く得られていないんです。そのため、2023年から留学プログラムが再開しても、日本留学の希望者が集まらない可能性もあります。日本の大学の内なる国際化や、日本人学生が留学生と交流する機会も失われてしまい、これまで培った草の根の交流が途絶えてしまうということになりかねず影響は深刻です。

――大学からどのような声が出ている?

日本の大学関係者からは、ヨーロッパやアジアからの留学生は戻ってきているが、アメリカ人の学生は非常に少ないと聞いています。言うまでもなく日米両国は非常に重要なパートナーですが、草の根の交流が停滞しているのは非常に問題だと思っています。

日本は世界の若者に選ばれる国になれるのか?

また、金城さんは、「コロナ禍で日本が外国人に対して厳しい国だ、との印象をもつアメリカ人学生が少なからずおり、日本に留学して温かく受け入れてもらえるのか不安に感じ、留学先を他国に変更する留学生もいると聞いている」と話す。コロナ禍の水際措置で“外国人に厳しい国”というイメージが定着したことも、留学先として日本を敬遠する遠因にもなっているという。

金城さんは今後のさらなる取り組みとして、文部科学省とも連携して、アメリカ人の学生の関心が高い短期留学や英語で専門が学べるプログラム、インターシップを組み合わせたプログラムなどの情報の効果的な発信を行い、将来的な長期の留学やJETプログラムへの参加につなげていきたいとしていた。

アメリカからの留学生は日本に再び戻ってくるのか
アメリカからの留学生は日本に再び戻ってくるのか

パンデミックから、日本も徐々に日常の生活に戻りつつある一方で、これまで培ってきた留学生の受け入れなど、時間をかけて取り戻して行かなければならない事柄も多く起きている。日本が海外の学生から選ばれる国になるためには、日本の学校なども、さらなる魅力的なカリキュラムや仕組みを考えていく必要があるだろう。日本にアメリカからの留学生が来られなくなっている間に、隣国の韓国などは日本を上回るアメリカ留学生を受け入れている現状もある。

国際的な留学生の囲い込みが今後激化する中で、日本政府のさらなる取り組みの必要性も感じた。

【執筆:FNNワシントン支局・中西孝介】

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。