開国の歴史で知られる静岡県伊豆の観光地が、ユニークな取り組みを始めた。市の図書館で眠っている蔵書を喫茶店などに貸し出し、市内の至る所で観光客や地元の人に本に親しんでもらおうという計画だ。その名も、“まちじゅう図書館”だ。

図書館に眠る5万冊を活かしたい

観光の街・下田は飲食店が多い
観光の街・下田は飲食店が多い
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観光の街、静岡県・下田市。中心市街地には飲食店や観光施設などがあるが、これらの施設がもし図書館になったら…。

下田市立図書館
下田市立図書館

約10万冊の本が蔵書されている下田市立図書館。
しかし、そのうち半分の5万冊は、廃棄予定の本や市民から寄贈された本などで、スペースがないことから貸し出しされていない。

文化庁の「国語に関する世論調査」
文化庁の「国語に関する世論調査」

一方で本離れが進んでいることを示すデータがある。文化庁が2019年に全国の16歳以上の男女を対象に実施した調査(回答1960人)によると、「1カ月に何冊くらい本を読むか」という質問に対し、「1冊も読まない」と答えた人は47.3%だった。

“図書館”を示すフラッグ
“図書館”を示すフラッグ

下田市は図書館に眠っている本を活用し本離れを解消しようと、2023年4月から市民や観光客に気軽に本を楽しんでもらう取り組みを始めた。それが“下田まちじゅう図書館”だ。

協力店に本を貸し出す朝比奈さん
協力店に本を貸し出す朝比奈さん

下田市教育委員会生涯学習課・朝比奈誠さん
喫茶店などのお店や民間の施設に、図書館から本を貸して、そこのお店や施設の利用者の皆さんに本を読んでいただければ

本がきっかけの交流に期待

“図書館”に協力するワーケーション施設
“図書館”に協力するワーケーション施設

図書館の本が置かれたのは、働きながら休暇をとる、いわゆるワーケーション施設だ。
新たに本棚も設置した。

Living Anywhere Commons伊豆下田・津留崎鎮生マネージャー
本があることで街の人がどんどん入ってきてくれて、「こういう施設があるんだ」、「こういう施設でリモートワークをして下田に滞在している人がいるんだ」ということを知って、交流していただくことが、本をきっかけに生まれたら素晴らしいな

本の種類は施設利用者にあわせて
本の種類は施設利用者にあわせて

このワーケーション施設に運び込まれた本は約50冊。施設の利用者にあわせ「テレワーク」や「働き方」「起業」などの本が多くみられる。
置いてある約50冊のうち、図書館所蔵の本は貸出不可で その場で読んでもらうが、それ以外の寄贈された本の貸し出しは、それぞれの“まちの図書館”で扱いを考えてもらう。

施設利用者
図書館に行かないことが、最近 私も増えているので、こういう街中に、ちょっと行く所に図書館の本が置いてあって、そこで読めるのはすごく良いなと思います

旅先で知る“開国の街”の歴史

“図書館”に協力した喫茶店
“図書館”に協力した喫茶店

喫茶店にも図書館の本が置かれた。市内で唯一、下田産の「開国下田紅茶」をはじめ、様々な国産紅茶を楽しめる店だ。

下田市はペリーが黒船で来航するなど、幕末の開国の舞台となった街だ。
並んだ本は紅茶や下田の歴史に関する本が多く、オーナーも本を通じて新たな交流のきっかけになってくれればと、期待を寄せている。

よろずカフェ「らくら」店主・森 亨子さん
下田の歴史は私では伝えきれない部分があって、今回、“まちじゅう図書館”の話をもらった時に、歴史関連の本がここにあったらいいなと。ここでゆったりと、日常とは違う時間を過ごしてほしいと思っているので、街に人が流れることに役立てばいいなと思っています

協力店はフラッグを掲示
協力店はフラッグを掲示

下田市は今後、飲食店や公共施設などに協力を仰ぎ、2026年度までに30カ所の「まちの図書館」を設置させたい考えだ。

下田市教育員会・山田貞己教育長
いろいろな所で賛同してくれる方がいれば、多くの方々が本を手に取ることができるようになる。そういうことを期待したいと思います

“図書館”協力店の本棚
“図書館”協力店の本棚

本離れを食い止めるだけでなく、読書を通じて交流を図る場所が、市内各地に誕生していくことになりそうだ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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