G7は、外相会合の共同声明で改めて中国とロシアに厳しい姿勢を示した。中国は強烈な不満を表明し、ロシアとの軍事協力を協議する動きも。G7広島サミットを控える中、BSフジLIVE「プライムニュース」では識者を迎え、深まる西側諸国と中露の溝について議論した。

G7の厳しい姿勢に中露は反発 日本は米欧をつなぐ役割を

新美有加キャスター:
G7外相会合の共同声明では中国とロシアに対する厳しい姿勢が示された。ウクライナ侵攻を続けるロシアには、「無責任な核のレトリックおよび威嚇は受け入れられない」「第三者に対してロシアへの支援停止を求める」など。中国には「力および威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対」「台湾海峡の平和と安定の重要性」。外務審議官時代にサミットで小泉元総理の補佐役を務めた藤崎さんの評価は。

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藤崎一郎 元駐米大使 日米協会会長:
当時に比べ同志国連帯の部分が大きくなっており、米欧間を議長国の日本がつなぐ大きな役割を果たせたのでは。共同声明は去年からどこが変わったかが重要。今回は北朝鮮に関する記述が中国と並び前に出たこと、中国の核の透明性の問題により踏み込んでいること。議長国の日本が原案を書いたからアジア重視。我々の関心事項がG7の関心事項として盛り上がっていると感じた。

新美有加キャスター:
ロシアのメドベージェフ前大統領がSNSで反発。「なんというウソつき野郎たちだろう。核兵器を使いながら悔い改めようともしない。(略)日本の指導者はアメリカに殺された同胞の墓に唾を吐きかけているも同然」と非常に強い表現。

藤崎一郎 元駐米大使 日米協会会長:
激しい言葉使いや全く論理が一貫しないことをやってくれている限り、あまり他の国はついていかない。

廣瀬陽子 慶應義塾大学教授
廣瀬陽子 慶應義塾大学教授

廣瀬陽子 慶應義塾大学教授:
ロシアからの公式見解はなく、このメドベージェフの個人的な発言のみである点が特徴的。G20も決して一枚岩ではなく、結束して世界を動かせる可能性が唯一あるG7を恐れているのは間違いない。

反町理キャスター:
共同声明の「第三者にロシアの支援停止を求める」。ロシア産原油を買っているインドや中国への批判と想像できる。だが、ヨーロッパの国もまだ天然ガスを買っており、日本もサハリン2に多くの対価を払っている。

廣瀬陽子 慶應義塾大学教授:
確かに都合のいい論法。ヨーロッパでは隠した形で買うこともある。インドや中国、その他の経済的な小国に対して説得力はないと思う。

新美有加キャスター:
中国外務省の汪文斌副報道局長は、「中国に乱暴に内政干渉し侮辱して恥をかかせた」「中国は強烈な不満と確固たる反対を表明、開催国の日本に誤りを正すため要請」「台湾は不可分の領土、いかなる台湾の独立にも明確に反対」などと発言。

江藤名保子 学習院大学教授:
既定路線だが、特に対米批判の主張をまとめて強く出してきた。被爆国でありながらアメリカを止める気がないと日本も批判。日米批判が明確な一方、ヨーロッパ諸国は名指しせず。

反町理キャスター:
日米とヨーロッパの間にくさびを打ち込む狙いか。

江藤名保子 学習院大学教授:
くさびまでは難しいと思うが、ヨーロッパとは経済的にうまくやる必要性を感じており、ケンカしたくない。

江藤名保子 学習院大学教授
江藤名保子 学習院大学教授

反町理キャスター:
台湾について、台湾独立を進めるなどとはG7外相会合の中で誰も言っていない。勝手な被害妄想では。

江藤名保子 学習院大学教授:
中国の台湾問題に対する理解は「全てアメリカが悪い」。アメリカが台湾内部の独立派を支援して独立運動を煽り、武器を渡して東アジアの安定と平和を損なっていると。だからこういう文言になる。

反町理キャスター:
先日、中国李尚福国防相がモスクワでプーチン大統領と会ったのが、ロシア正教の復活祭の日だった。プーチン大統領にとって大切な人だという中国へのメッセージ、という見方はありか。

廣瀬陽子 慶應義塾大学教授:
ありだと思う。国防相という格下の存在に特別な日に会うというのは非常に強いメッセージ。

反町理キャスター:
ロシア大統領府は、プーチン大統領の発言として「中露の軍事協力は両国家の戦略的関係と信頼を強化」。新華社通信は「中露の軍事的な総合信頼は日増しに強固に」。会談の成果は。

廣瀬陽子 慶應義塾大学教授:
3月の習・プーチン会談ではプーチン大統領の望む結論が出なかったと言われ、軍事面で中国から引き出すため水面下で話が続いていた。その一つの結論がこの会談との見方がある。だが対米関係が厳しくなる中、今の中国は慎重。特にロシアが求めるような殺傷能力ある兵器はまだ出せないと思う。

反町理キャスター:
中国の懸念は何か。

江藤名保子 学習院大学教授:
最大の懸念は経済制裁。経済が上向き始めた中、西側の制裁で打撃は受けられない。1年ほどは経済優先で進むと思う。

米欧が離れた上での多極化を望む中露に対し、G7の結束は?

新美有加キャスター:
波紋を広げる仏マクロン大統領の発言が外相会合でも議論に。4月7日、訪中から帰国する機内でインタビューに答えた発言。「最悪なのはヨーロッパが台湾をめぐる問題で、アメリカのペースや中国の過剰反応に追随しなければいけないと考えることだ」。

藤崎一郎 元駐米大使 日米協会会長:
中国に厚遇されて帰る機内で言ったのが上手くない。大統領個人としては戦略的自立の主旨だったろうが、中国側に丸め込まれ「台湾」を入れてしまったと思えるタイミングと物言い。だが今までにもあったことで、大きく捉える必要はない。フランスも「我々はG7として一体だ」とフォローの発信をし、中国に誤解させないようにしている。

藤崎一郎 元駐米大使 日米協会会長
藤崎一郎 元駐米大使 日米協会会長

反町理キャスター:
しかし、中国は喜んで受け止めるのでは。

江藤名保子 学習院大学教授:
経済的利益のため中国と付き合いたい本音があったとしても、安全保障の問題に関してはそれを上回る国益を見出している、というメッセージ。中国にぐっと寄ってきたとは捉えきれない、と結論づけられるよう修正を図っている。世界中からものすごく批判を受けているので。本人は失敗したと思っているのでは。

反町理キャスター:
ロシアはマクロン発言をG7の穴と見るか。

廣瀬陽子 慶應義塾大学教授:
もちろんそう。ロシアは欧米の結束が揺らぐことが嬉しい。ロシアではマクロン氏が味方かのような報道も増えている。開戦前にもマクロン氏は戦争を止めるのはフランスだという姿勢だったが、ロシアは完全に無視して戦争を始めた。御しやすい存在という思いもあると思う。

新美有加キャスター:
アフガニスタン問題に関するイラン・ロシア・中国・パキスタンの4カ国会合があったが、中露の今後の動きは。3月の首脳会談の共同声明に「多極化」という言葉が出てきたが。

江藤名保子 学習院大学教授:
強いアメリカ一極のもとで国際秩序が運営されてきた状況に反対するため、中国が出した言葉が多極化。反米の意味で使っている部分がある。経済的にも地政学的にも、アメリカ、ヨーロッパ、中国の三極もしくはロシアを含め四極が中心となるイメージだと思う。最終的には米中の、それも中国がやや有利な二極にしたい。そのために、自分たちは自由な経済活動の擁護者であり、西側の国々が勝手に国際秩序を作り上げる世界ではダメだと、非常に綺麗な言葉で宣伝している。

反町理キャスター:
ロシアのいう多極化も同じか。中国のジュニアパートナーになることはもう覚悟している?

廣瀬陽子 慶應義塾大学教授:
全く同じ。2018年から事実上そうなっており、ウクライナ戦争が始まってからは認めざるを得ない。とにかくアメリカ一極を避けたい。

藤崎一郎 元駐米大使 日米協会会長:
みんなの本心はどうか。本当に中国やロシアが世界のリーダーになってほしいか。中国の指導者も皆、アメリカに子どもを出している。だが、アメリカが一国で支えきれなくなっているのも事実。同盟国がもう少し力を入れて民主主義を引っ張っていくべきで、そこに日本の役割がある。アメリカ型よりも包容力のある民主主義でやっていこうと言うところではないか。

核軍縮の提起は日本の役割 中国の言行不一致を指摘し続けよ

新美有加キャスター:
G7外相会合では核軍縮・不拡散についても議論された。共同声明には「核兵器のない世界という究極の目標に向けたコミットメントを再確認」など。岸田総理提唱のヒロシマ・アクション・プランは、「核兵器不使用を継続させる重要性の共有」などの5本柱だが、核の傘のもとにある日本が率先していく難しさは。

藤崎一郎 元駐米大使 日米協会会長:
現実を見ればただちにできるわけではないが、方向性を出していかなければ。大きいのは広島でやれること、ウクライナ問題でロシアが核をちらつかせているタイミングということ。メインテーマの一つとして打ち出すことは日本の役割。

反町理キャスター:
ロシアと中国はこれをどう見るか。

廣瀬陽子 慶應義塾大学教授:
ロシアは通常兵器が非常に弱い国で、核でアメリカとの均衡を保とうとしている部分があり、触れて欲しくないのは間違いない。ウクライナ戦争でも、核をちらつかせ欧米諸国を抑止している。

反町理キャスター:
中国外務省の汪文斌報道官は、記者会見で「先制不使用の方針を中国は堅持」「最小限の核戦力のレベルを今後も維持していく」。だが今後、増やすのは確実だと思われている。

江藤名保子 学習院大学教授:
アメリカと対等な軍事力を持つことを目指しているだろうと思う。中国は核を持ち続けていき、周辺国が備えなければいけない原因を作っているのだが、その部分をさておいてアメリカを批判し、日本の軍事力増強も批判する。だから、中国の実態はこんなに違うと指摘し続けなければいけない。

(BSフジLIVE「プライムニュース」4月19日放送)