小屋を建てる人が増えてきている。目的は、趣味のためのスペース、二拠点居住の拠点、ゲストハウス、なかには住居にするなどさまざまだが、別荘よりも手軽で、自分でDIYすることもできるから、建てる人の個性が際立っているのが大きな魅力だ。

そんな、小屋の楽しさ、そして気になるお金のことを、ムック『小屋を建てる』(扶桑社)から紹介しよう。

小屋は小さな建物だ。キッチンやトイレ、浴室がないものも多い。そんな、一見不便そうに見える小屋だが、自分が小屋を持つことを想像すると、なんだかわくわくしてくるから不思議だ。

小さいからこそ「やりたいこと」を実現しやすく、その制約をどう楽しむかという想像力が働き、好奇心が刺激される。頑張ればDIY初心者にも建てることができるから、安く建てられ、建てる人の好みを反映できるという楽しさがある。

自然木と廃材で建てたドーム型ゲストハウス

緑豊かな斜面に立つ、檜の皮が張られたワイルドな見た目のドーム型の小屋。これが、自然素材や廃材などで暮らしや遊びの道具を創作するネイチャークラフト作家、長野修平さんが建てた小屋だ。

住宅地の裏山の斜面に立つドーム型の小屋(写真:高橋郁子)
住宅地の裏山の斜面に立つドーム型の小屋(写真:高橋郁子)
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「DIYの手伝いに来る仲間が多く、泊まっていく人もいるので、ゲストハウスはずっと欲しかったんです。どうやって建てようかと思案していたのですが、ドーム製作用の金具があるのを知り、これならちょっと面白い小屋ができるなと」と長野さん。

そうして建てられたこの小屋は、ドーム制作用のパーツと防水シート以外の材料は、すべて自然素材と廃材だけなのだとか。

「ものづくりの材料って身のまわりにたくさんあるんですよ。丸太にしても、木の枝にしても、素材の形や特性をどうやって生かすか想像を膨らませて、コーディネートしてやるんです。自然素材や廃材ってお金がかからないのもいいところです」と長野さんは笑う。

小屋にはたくさんの窓とドームの頂上には天窓があり、中は明るく心地よい。窓からは近隣の山々が見える(写真:高橋郁子)
小屋にはたくさんの窓とドームの頂上には天窓があり、中は明るく心地よい。窓からは近隣の山々が見える(写真:高橋郁子)

製作には丸々3カ月を要した。いまはゲストハウスとして訪れる人を招き入れている。ときに、長野さんの書斎として、また、娘さんの勉強部屋としても使われる。ここで昼寝をするのも気持ちがいいそうだ。

「僕が歳を重ねたら、ほぼこの小屋も使われなくなる。そしたらまた、だれかがこの小屋の材料を使って何かをつくるかもしれないし、薪にしたっていい。そのまま朽ちたとしてもいずれ土に還っていく。ごみを残したくないから。それも自然素材のいいところかもしれないね」(長野さん)

【長野さんの小屋の建築費】約10万円

森に佇む親子で建てた靴職人の工房小屋

別荘地の森の中に立つ、ブルーグレーに塗装された端正な小屋。

カラマツの森に立つ小屋。木々の間には小屋に先立って作ったツリーデッキがある。電気は母屋から引いている(写真:高橋郁子)
カラマツの森に立つ小屋。木々の間には小屋に先立って作ったツリーデッキがある。電気は母屋から引いている(写真:高橋郁子)

建てたのは、若き靴職人、菱沼 乾さんと父親の英輔さん。別荘地に脚を踏み入れないほど茂っていた笹を刈り、不要な木を切り倒しDIYしたという。

「本当はツリーハウスを建てたかったんですけど、それよりもDIYをするための工房が必要になって、小屋を建てることにしたんです」と菱沼さん。

そのつくりは丁寧で、床、壁、天井は断熱や通気がきちんと考えられており、快適性も高い。壁も普通の家と遜色のない、本格的なつくりになっていて、DIYでもここまでできるというよいお手本だ。

菱沼さんの小屋の内部。壁には工具が並び、部屋の中心には作業台が置かれている(写真/高橋郁子)
菱沼さんの小屋の内部。壁には工具が並び、部屋の中心には作業台が置かれている(写真/高橋郁子)

腰板と漆喰で仕上げられた室内は、薪ストーブやアンティークの品々が飾られ上品で落ち着いた雰囲気。現在はDIYの道具置き場兼作業場としても使われ、菱沼さんの靴づくりの作業の一部もここで行われている。

「この小屋には自分のやりたいことのすべてがあります。ここに来ればDIYのための道具も、靴づくりのための材料もそろっていて、安心できるというか、自由でいられるというか、ここには何でもあるんですよ」(菱沼さん)

【菱沼さんの小屋の建築費】約150万円

楽しみがつまった週末を過ごす三角形の小屋

MIGRANTという設計事務所を営む小穴真弓さんは、「スキーを思い切り楽しみたい」という願いを抱き、週末の活動拠点となる「テント以上・別荘未満」の小屋、「HATHUT」をDIYで建てた。

屋根が壁を兼ねる三角形の小屋は、中は広くはないもののDIYしやすい。急こう配の屋根は雪が溜まらず積雪地帯にも向いている(写真/高橋郁子)
屋根が壁を兼ねる三角形の小屋は、中は広くはないもののDIYしやすい。急こう配の屋根は雪が溜まらず積雪地帯にも向いている(写真/高橋郁子)

DIYしやすい形状を考えてたどり着いたのは、「A」字型のフレームを並べて空間をつくるかたちだった。

窓のそばやデスクには、小穴さんのお気に入りのものが並ぶ。動物をモチーフとした日用品、調理器具、照明器具など、色とりどり。

広くはないが、小穴さんの楽しみがいっぱいつまった室内(写真/高橋郁子)
広くはないが、小穴さんの楽しみがいっぱいつまった室内(写真/高橋郁子)

「本当にいいと思えるものを置きたくなりますね。好きなものに囲まれるのが小屋の楽しみのひとつだなと改めて気づきました」と小穴さん。冬はスキーのあとに温泉に入り、小屋に戻ると鍋を仕込みながらピアノに興じる。

「夏は友人を呼んで、料理や焚き火を楽しみたいですね。隣にももう一軒、小屋をつくりたい」と小穴さん。

【菱沼さんの小屋の建築費】非公開

DIY初心者みんなで建てたハーフビルドの小屋

小屋はDIYしやすいとはいえ、躊躇する気持ちもあるだろう。そんなときにおすすめなのが、構造部分は大工さんに依頼して、仕上げなどを自分たちでDIYする「ハーフビルド」という方法だ。

ワークショップでの内装と外装が完成したときの記念写真。この小屋を拠点に森の開拓が続いている(写真/廣田賢司)
ワークショップでの内装と外装が完成したときの記念写真。この小屋を拠点に森の開拓が続いている(写真/廣田賢司)

南房総市の地域プロモーション事業でつながった仲間によるチーム「N35°プロジェクト」はハーフビルドにワークショップを組み合わせ、小屋を建てたことのある経験者に教わりながら大勢で内外装をDIYした。

DIYについては、メンバーはほとんどが素人だったが、慣れると材料を切る人、運ぶ人、張る人と役割分担ができて、チームに一体感が生まれたという。

これからもウッドデッキやハンモックの製作、周辺の整備などやることはいっぱいあるが、メンバーのひとり、蟻川幸一さんは、「きっと完成しないほうがいいんだよ。次は何をつくろう、あそこはこうしようって、新しいことを考えている時間が一番ワクワクするから」と話してくれた。

【N35°プロジェクトの小屋の建築費】約250万円

究極の小屋ライフ、小屋に暮らすYouTuberも現る

生活をシンプルにしてランニングコストを抑え、YouTubeで生計を立てるかずひろさんが選んだ住まいはDIYした小屋。

猫と一緒にDIYした小屋に暮らすかずひろさん(写真/星 亘)
猫と一緒にDIYした小屋に暮らすかずひろさん(写真/星 亘)

小屋を建てる様子をYouTubeで配信すると、リアルタイムで視聴者がコメントしてくれ、役立つアドバイスももらえたという。

「視聴者にはDIYや廃材利用、ブッシュクラフトに詳しい方が多く、たくさん助言をもらっています」とかずひろさん。視聴者が工事に協力してくれたり、不要になったものを譲り受けたりすることもあったそうだ。

かずひろさんの小屋の外観。単管パイプを組んでガルバリム鋼板の壁を張っている(写真/星 亘)
かずひろさんの小屋の外観。単管パイプを組んでガルバリム鋼板の壁を張っている(写真/星 亘)

そんなかずひろさんが直面したのが、木材価格の高騰「ウッドショック」だった。

「10平米未満の面積でロフト付きの小屋を計画していたのですが、予算では20万円だった材料費がウッドショックで60万円に跳ね上がりました。木材以外も値上がりしていたので、建築費用を合計すると80万円ほどになってしまいました」とかずひろさん。

それならば木材を使わない方法を考えようと、行き着いたのが、単管パイプで小屋を建てることだった。単管パイプは直径48.6mmの鋼材で、建築の工事現場で建物の周りにつくられる足場などでよく使われている。その結果、約20万円で小屋を建てることができたという。

かずひろさんの小屋の内部。中古で購入した3,600W分の太陽光パネルで、電気はほぼ自給できているそう(写真/星 亘)
かずひろさんの小屋の内部。中古で購入した3,600W分の太陽光パネルで、電気はほぼ自給できているそう(写真/星 亘)

かずひろさんがすごいのは、太陽光発電をしたり、雨水をためたり、生活のためのインフラを自力で構築している点だ。「思いつきで、そのときどきで遊んでいる感覚です」というが、竹やビニールシートで新しい小屋を建てたり、ロケットストーブを自作したりと、生活のためのものづくりを楽しんでいる。

【かずひろさんの小屋の建築費】約20万円

気になる小屋のお金の話

小屋の値段は完成品だと300万円~、キットだと安いもので70万円前後~といったところ。しかし、材料を工夫してDIYすれば大幅に安く建てることができるのも大きな魅力だ。

ただし、建てた後にお金がかかることもあることも知っておきたい。その代表格が固定資産税だ。小屋が家屋とみなされると固定資産税が課税される。家屋にみなされる条件は以下の3つが満たされる場合だ。

1:土地への定着性があるか
2:外気の遮断性があるか
3:住居、作業、貯蔵などに利用できるか

物置ではなく人が中で過ごす小屋の場合、2と3の条件は満たされるので、課税の分かれ道は1の条件となる。

小屋はコンクリートブロック上に建てられていることが多い。(写真/星 亘)
小屋はコンクリートブロック上に建てられていることが多い。(写真/星 亘)

小屋の基礎を一般住宅のようにコンクリートでつくると「土地に永続的に定着している」固定資産とみなされる。コンクリート製であってもブロック状の簡易なものや、石の上に小屋が置かれている状態であれば、固定資産税の対象とならない場合が多いが、税務署や自治体の納税課などの窓口で、事前に相談しておくのがよいだろう。

なお、固定資産税は、同一所有者の物件すべての合計の課税標準額によって決められる。一般家庭の場合、家屋が20万円未満であれば「免税点未満」として税金はかからない。

また10平米を超えると、建築確認申請が必要になる場合もあるので、建てる前に自治体に相談しておこう。

『小屋を建てる』(扶桑社)
『小屋を建てる』(扶桑社)

<写真/山田耕司 取材・文/加藤 純>

扶桑社ムック
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