自分や他人を傷つけたり、物を壊したりといった行動が、高い頻度で起きる障害を「強度行動障害」と呼ぶ。家庭だけでは十分な対応ができないため、施設やヘルパーなどから特別な支援が必要となることが多い。この障害のある男性が、福井にいる。男性を20年以上支える両親の話から、福祉制度の”はざま”を生きる家族の疲弊と葛藤が浮かび上がってきた。

強度行動障害の息子と向き合う家族

平田大悟さん:
任せる、分かった、どうぞ。ダメ!

平田大悟さん
平田大悟さん
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あわら市の障害者支援施設に通うのは、福井市の平田大悟さん(24)。施設に来ると会いたい職員を探し、挨拶をするのが日課となっている。見つけるとうれしそうに顔を近づけ、両手を握る。

大悟さんの自宅の床には穴が開き、障子は破れている。壁には多くの落書きもある。

父親の英樹さん
父親の英樹さん

父親の英樹さん:
ここはガラスだったのですが、何度も割るのでアルミの板に替えました

――何で割る?

父親の英樹さん:
電卓。投げたら一撃で割れました。大悟は割れそうなものを「割れてしまったらどうしよう」と強迫観念に一瞬にして襲われて、強迫観念から逃れるために割れる前に自分で割る。自分の手で割れば、自分のコントロールの下で現象を起こせる

大悟さんは2歳で広汎性発達障害、いわゆる自閉症と診断された。
特別支援学校に通う中、小学5年生の頃から強度行動障害の兆候が現れ始めた。学校が終わった後に通えるデイサービスの受け入れを断られたこともある。

通常の高校にあたる高等部に通っていた時、校舎から飛び降りたことがある。母親に電卓を投げつけるなど、重度の症状がみられるようになった。力が強くなり、大けがを負わせる恐れがあることから、母親と2人きりにはできなくなった。

父親の英樹さんは室内で問題行動を起こさないよう目を離さない。「寝ているとき以外はすべての時間で支援が必要」だという。

父親の英樹さん:
ここの窓は、パソコンを持って走ってきて破壊した。ヘルパーはいたが止められなかった。頭上高く持ち上げて、たたき割った

――それは重いですよね

父親の英樹さん:
重いです

施設に入れず…大きすぎる負担

大悟さんは障害者総合支援法に基づく支援区分は、最も高い「6」だ。特別な支援が必要となる。平日は二つのデイサービスを利用し、夜は両親の住む家とは別の借家でヘルパーと過ごしている。ただ送迎をはじめ、日々の内服薬や洋服の準備は母の雅恵さんが行う。

高等部卒業後には、施設への入所を希望した。しかし、その望みはかなわなかった。

これまでの6年間、複数のサービスを組み合わせて、何とか大悟さんの居場所を補ってきた。家族の負担は大きく、両親ともにうつ病を患った。大黒柱の英樹さんは一時、休職を余儀なくされた。

母親の雅恵さん
母親の雅恵さん

母親の雅恵さん:
家族は疲れ果ててしまう。福祉という言葉の中で、うちの子のようなタイプは例外となってしまう

父親の英樹さん:
障害が重度ではない。支援に手がかかる、それを理由に契約できなかった事業所がたくさんあった

存在しない“支援制度”

福井県は全国的にも施設の整備率が高い。一方、入所者の高齢化が進んでいて、施設に空き枠が出にくい現状がある。

県知的障害者福祉協会 高村昌裕会長
県知的障害者福祉協会 高村昌裕会長

県知的障害者福祉協会 高村昌裕会長:
入所施設でも高齢者が少し弱ってきて、骨折する人がいるという状況。そういう人の近くで情緒的に不安定な人が入ってくると、互いにケガが増える。高齢の人が多い施設はどうしても強度行動障害の方を受け入れにくくなる現状がある

さらに高村会長は、強度行動障害の受け入れ割合が7割以上になると、職員の負担も大きくなると話す。施設の人員は十分とはいえず、そのため受け入れが進まないのが実情だ。

福井には、強度行動障害のある人が686人いる。このうち施設に入所しているのは、全体の約6割にあたる420人にとどまっている。

父親の英樹さん:
重度障害者と、手のかかる障害者は全然別。重度の人を支援する制度はあるが、手のかかる障害者を支援する制度は日本には一切ない

母親の雅恵さん:
この子がこの世に生まれてきた意味は、いろいろな示し方がある。この子はお互い楽しいと、いろんな人に響くものを持っている。多くの人に、あの子を受け入れる社会づくりのための意識を持ってほしい

障害のある人の当たり前の日常をどう守るのか。健常者の考え方を押し付けるのではなく、多様な生き方を認める社会づくりが求められている。

(福井テレビ)

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