プロからアマチュアまで九州のスポーツを厚く、熱く報じてきた「西日本スポーツ」が2023年3月31日を最後に、新聞発行を休刊し、デジタル版に移行した。

創刊68年 愛され続けてきた「西スポ」

福岡市博多区で宝飾店を営む嶋田高幸さん(82)。西スポが創刊した頃から購読している愛読者だ。

「西スポ」60年来の読者・嶋田高幸さん:
20歳前後から読んでるからね。新聞を見ないと具合が悪いっちゃん。タブレットとか見るばってん、それは、いかん

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そんな嶋田さんが一番印象に残っていると話す紙面がある。

「西スポ」60年来の読者・嶋田高幸さん:
ホークスが、こっち(福岡)に来て初優勝したじゃない? (当時の紙面を指し)これこれ、朝6時ぐらいから早く起きて、新聞を待っていたよ。何回見ても、良かぐらい、あったね

うれしそうに話す嶋田さん。まさに西スポとともにあった半生だった。その西スポが休刊する。紙面がこころなしかにじむ。

「西スポ」60年来の読者・嶋田高幸さん:
休刊は、残念どころじゃなかよ。涙が出るごたある(=出るようだ)

1955年2月21日に九州初のスポーツ新聞として誕生した西スポ。当時、紙面の中心を飾ったのはホークスではなく、野武士軍団と呼ばれていた西鉄ライオンズだった。

創刊1年後には、ライオンズ日本一の記事が踊る。その後、ライオンズは日本シリーズ3連覇を達成。平和台球場は連日超満員になるほどの、まさに黄金期を迎えていた。

しかし、ライオンズは西鉄から太平洋クラブ、クラウンライターを経て1979年、西武へ身売りされる。フランチャイズ球場も福岡から埼玉・所沢へと移ったが、それでも西スポの1面は、やはりライオンズだった。

厳しい言葉の背景に…“王監督”の思い

そして、1988年、紙面の主役がホークスに変わる。福岡ダイエーホークスの誕生だ。現在は、毎日1面から3面までホークス一色。そのほか地元スポーツも掲載し、他社を寄せ付けない情報量で読者に親しまれていた。

そんな西スポで長年、ホークスを取材してきた、西日本新聞社・スポーツ本部長の富永博嗣さん。当時、富永さんが取材していたのはホークスが低迷していた頃。紙面には「また連勝逃げた ダイちょんぼ」、「停滞打線 工藤見殺し」、「連勝ダイ無し」などの厳しい言葉が並んだ。

西日本新聞社 スポーツ本部・富永博嗣本部長:
また負けたか(という感じ)。本当に優勝するようなチームじゃなかった。

実は、そうした記事の背景には、ある人とのやりとりがあったという。

西日本新聞社 スポーツ本部・富永博嗣本部長:
(当時の)王監督から、「君たちは、選手の尻をたたく記事を書いてくれ。ちやほやしていたらローカルスターで終わってしまう(と言われた)」王さんが福岡に来られて、「勝つんだ」と選手たちに説き続けた。

西日本新聞社 スポーツ本部・富永博嗣本部長:
最初はね、やっぱり熱さについていけないところもあったりして、それがだんだん、選手たちに浸透していった。僕らもそういう気持ちになっていくことがあった

当時の王監督の言葉に刺激を受け、時には厳しい言葉でホークスに発破を掛けた西スポ。そして、王さんの言葉が現実になったのは、1999年だった。

西日本新聞社 スポーツ本部・富永博嗣本部長:
ずっと王さんも「勝つんだ。勝つんだ」とおっしゃっていて、本当に優勝するもんなんだって思いました

最後の紙面も「西スポ」らしく…

最後の紙面編集会議が始まる。編集会議では「正木(2021年ドラフト2位選手)に40打席のチャンスって、どういう意味ですか?」、「正木を見出しに取るってわけじゃなくてー」などと、最後まで熱い議論が繰り広げられていた。

西日本新聞社 スポーツ本部・富永博嗣本部長:
特別な考えとか特にない。普段通りじゃないと、逆にいけない

編集部内を慌ただしく動く1人の男性。1面の見出しを担当する佐藤泰輔さんだ。1面はまさに新聞の顔。開幕戦を迎えるホークスをどう伝えるか…。

西日本新聞社 スポーツ本部・佐藤泰輔さん
WBCの「侍ジャパン」をほうふつさせるような打線に。藤本さんが、そう言っているので。それをぱっと見てわかるように

新聞ならではの1面。佐藤さんの案を元に編集幹部で議論する。

最後の紙面編集会議の様子
最後の紙面編集会議の様子

編集会議やりとり:
「侍」型の打線って言った方がイメージしやすくはあるんですよね。あのヌートバーから始まる打線。「世界一仕様?」、「世界一仕様超攻撃型打線」かな

編集会議やりとり:
「漢字ばっかり」、「世界一仕様って何ですか?なんかイマイチ…」

議論は締め切り間近まで続いた。

デジタルになっても思いは変わらず…

今回、最後の紙面は、通常の紙面に加えて特集のページが付いている。ライオンズやホークスの優勝の記録、さらには往年の選手へのインタビュー記事。そしてメインは、王さんへの取材記事だ

西日本新聞社 スポーツ本部・富永博嗣本部長:
地元紙として役割を果たせたのかなと。自分たちも王さんに育ててもらった

そして、いよいよ、最後の紙面が輪転機にかかる。

西日本新聞プロダクツ・黒川隆富士さん
寂しいが、また次につながる1日だと思う

最後の紙面が印刷され、全員で刷り上がった新聞に目を通した。

最後の1面は「藤本ホークス侍型打線」左上には西スポらしく、読者の目にとまるようにV奪還した「侍ジャパン」と比較した写真が並ぶ。

西日本新聞社 スポーツ本部・富永博嗣本部長:
いまは、ホッとしたというか、やり遂げた感じじゃないですけど。もう永久保存版で取っていてもらいたいです

西日本新聞社 スポーツ本部・富永博嗣本部長:
よそよりも九州のスポーツに関しては熱く、熱意を持って追いかけてきた。そこが一番の魅力だと思うし、デジタルになってからも変わらない。これからも追いかけていきます

これまで発行すること2万4,000号以上。デジタルに移行しても記事を作る情熱と原点への思いは変わらない。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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