「福岡ドーム」が完成してから30年。開業以来、開閉式のドーム球場として愛され続け、進化を遂げてきた。当時は画期的だったドームの屋根を設置するまで、どのような苦労があったのか。設計士が“誕生秘話”を語った。

モチーフはローマの“コロッセオ”

30年前の福岡市中央区。広大な敷地の中で、さまざまな重機を使った大規模工事が行われていた。

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総事業費は、760億円。高所での作業には瀬戸大橋を手がけた作業員が携わるなど、延べ1万2,000人を動員した。

2年をかけ完成した「福岡ドーム」は、1993年に福岡ダイエーホークスの本拠地として誕生した。最大収容人数5万2,000人。開業以来、パ・リーグ観客動員数1位を何度も記録している開閉式のドーム球場だ。当時設計に携わった竹中工務店の廣松賢治さんに案内してもらった。

当時設計に携わった廣松賢治さん:
当初、この計画が始まったころは、中内正さん(当時ダイエーの社長)が、コンベンションンシティという構想があって、ドームは2つ、それとホテル

今は「ヒルトン福岡シーホーク」「PayPayドーム」「マークイズ福岡ももち」が並ぶエリア。当初の計画ではスポーツドームとアミューズメントドーム、2つのドームを建設する予定だった。

当時設計に携わった廣松賢治さん:
段々、構想が傾き始めるなか、福岡ドームが決まったんで、これから着手したという、そういう流れだったんですね

ダイエーの経営が傾き、ツインドームの計画は白紙に。ドーム球場のみが建設されることになった。

当時設計に携わった廣松賢治さん:
当初から決まっていましたけど、ローマのコロッセオ。これがモチーフなんですよ

イタリア・ローマのシンボルであり世界遺産の円形闘技場、コロッセオ。西暦80年に造られ、ローマの娯楽の殿堂だったコロッセオを現代に造りたいという思いで設計が始まったのだ。

当時設計に携わった廣松賢治さん:
例えば、アースカラーでできていますよね、それとスリットがあって現代のコロシアムといったデザインで進めていったわけです

日本で最初の開閉式ドーム球場

廣松さんとドームの中へ。

当時設計に携わった廣松賢治さん:
大きいでしょ。一番の特徴は、いま、見えてますけど、この屋根が開くっていうところですよね。この開閉方式は世界でひとつだったんですよ

日本で最初に造られた開閉式ドーム球場。ホークスが勝利したときやルーフオープンデーなど、いまでは屋根が開くのはお馴染みとなったが、30年前、ドームの屋根が開くことは画期的なことだった。

3枚の屋根は、1枚4,000トンのチタン合金。新幹線で例えると270両分の重さ。作業員は実際に上まで上り、屋根の設置を進めていった。

当時設計に携わった廣松賢治さん:
最初、走行実験をしたときに、本当は音がしちゃいけないのに、ゴトンって音がして動き始めたんです。これはもう、みんなびっくりしましたね。それを短期間で修復しないと竣工に持っていけなかった

その後、修正に修正を重ねて行われた開閉式屋根の最終テスト。屋根が開くと、作業員の喜びが爆発。胴上げが始まったり、豪華な「くす玉」が割られたり、現場はお祝いムードに包まれた。

当時設計に携わった廣松賢治さん:
屋根が開くと、ひと筋の光が、すーっと入って来るんです。それを見た瞬間に涙が出ましたね。設計者、若い連中、みんな泣いていましたよ。それぐらいに感動的なシーンでしたね

王監督の一言で

そして1993年3月、日本で初めて開閉式屋根を持つ福岡ドームが完成。

それから30年間、ホークスの本拠地、そして福岡のシンボルとして親しまれてきたドームは、席を増やしたり、ビジョンを大きくしたりするなど、毎年、進化を遂げていて、廣松さんはその改修作業も担い続けている。

最も印象に残る改修工事を聞いた。

当時設計に携わった廣松賢治さん:
目の前に見えますね、昔はフィールドシートと言っていたんですけど、ソフトバンクさんになられて、これが最初の大きな改修なんですよ

2006年に誕生したフィールドにせり出した「コカ・コーラシート」。ファウルボールを追いかける選手が飛び込んでくることもある臨場感たっぷりの席だが、プレーにも関わるこの場所で、どこまで席を作っていいのか頭を悩ませたという。

当時設計に携わった廣松賢治さん:
これは最後このラインだって決めていただいたのは、当時の王監督。王監督がいらっしゃらなかったら決まってなかった。選手からすれば、ボールを追いかけて走って来るわけですよ。そうするとこんな席があったら危なくてしょうがない。それを王監督が一言、「プロだったらやれる」と。それで決まった

設計や改修など30年以上、ドームと付き合い続けてきた廣松さん。進化を続けながらこれからも福岡のシンボルとして愛され続けてほしいと話す。

当時設計に携わった廣松賢治さん:
世界に一つしかないものを造れたという誇りがありますね。世界でひとつしかないドームで、ずっと福岡市民の誇りであり、そして集客力を持った建物として存続してほしい。やはりここホークスの本拠地ですからね。ぜひ今年は優勝してほしいと思っております

(テレビ西日本)

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