世界フィギュアスケート選手権が、3月22日からさいたまスーパーアリーナで開催される。

初出場の山本草太は「元に戻る、それ以上に成長できるというのは、想像もつかなかった」と振り返る。

彼にとって、この初舞台までの道のりには壮絶なスケート人生があった。

“どん底”から7年、手にした世界への切符

2015年、15歳で出場したジュニアの世界選手権で3位となり、山本は表彰台にのぼった。その隣には17歳の宇野昌磨の姿があった。

2015年の世界ジュニア選手権で3位表彰台にのぼった山本草太
2015年の世界ジュニア選手権で3位表彰台にのぼった山本草太
この記事の画像(10枚)

このときから山本は将来のエース候補として注目される。しかし、2016年3月に右足を骨折。世界ジュニア選手権出発の日だった。

半年間で2度の骨折と3度の手術を繰り返し、氷上から離れる日々を過ごした。そして2017年、山本は戦いのリンクに戻ってきた。

リハビリに励む山本
リハビリに励む山本

万全とは言えない中で挑んだ大会は、ジャンプはすべてシングルジャンプという、まさにゼロからのスタートになった。

復帰から5年目の今シーズン。

出場したGPシリーズ2戦で自身初の2位表彰台、GPファイナルでも2位と成績を残す。

12月の全日本選手権では5位と、本人も言うように悔しい結果となった。

2022年の全日本選手権
2022年の全日本選手権

全日本を終えた後、山本は「今シーズン成長をたくさん実感できて、成長できたからこそ、GPシリーズでも結果を出せたり、ファイナルで良い結果を残すことができた。

その後に全日本というのはシニアでは初めてで、経験のなさで自分の弱さが出てしまったのかなと思う。今回も表彰台を目標にしていましたが少し悔しい」とこぼした。

“どん底”から復活した山本は、自らの手で世界選手権の切符を手にした。

全日本の間もプレッシャーを感じていたという山本。「世界選手権を目標にしていたので、そういうプレッシャーのかかった中での演技だった。

全日本では悔しい演技になったので、世界選手権では悔しさを晴らせるように頑張る、というよりは、練習をしっかり積んで、その成果を出せたら」と意気込んだ。

“練習の虫”も苦笑するほどの練習をこなす

その言葉通り、12月31日まで練習をしていたという山本。それでも数日間は楽しい日々を過ごしたと語ったのは、初滑りとなったアイスショー「名古屋フェスティバル」のとき。

「31日に“滑り納め”をして、大阪へ帰ってゆっくり。その間、友野一希とサウナに行って年越しをしました。一緒にサウナの中で年を越しました(笑)。スケーター8人くらい集まって、みんなで楽しく年を越して、最高の、今までで一番の年越しだった」

その後、1月にはワールドユニバーシティーゲームズに出場し優勝。特別国民体育大会冬季大会やチャレンジカップにも出場し、試合を重ねてきた。

インタビューに応じてくれた山本
インタビューに応じてくれた山本

そんな彼が初めての大舞台に挑むにあたって大事なことは、「攻める気持ちがポイント。緊張すると思うので、それでも最後は『もう、やるしかない』という気持ちが大事になる。その気持ちの強さが最後に出る量は普段の練習で決まってくる」と語る。

3月上旬、山本が練習する愛知・中京大学のスケートリンクを訪れると、この日も約4時間、自分の納得がいくまで、何度もジャンプの練習を繰り返していた。

3月上旬、氷上での練習に取り組む山本
3月上旬、氷上での練習に取り組む山本

「ジャンプがプログラムの中で一つ決まるか、決まらないかでガラッと順位が変わる。僕もそこは強化していかなければいけないと思いますし、表現やつなぎも意識しながら、(今シーズン)最後の世界選手権でプログラムとして完成させられたら。

ジャンプを決めたい気持ちになると、表現やつなぎでジャンプに意識がいってしまう。表現の中にジャンプを溶け込ませられる、そんなプログラムにしたい」

同じリンクで練習していた“練習の虫”と呼ばれる宇野も「ついていくのが精一杯。まだ練習するんだって思って、つられて練習したら、もうヘトヘトです」と苦笑する。

宇野昌磨も苦笑するほどの練習量をこなす山本
宇野昌磨も苦笑するほどの練習量をこなす山本

ケガからの復活を支えた圧倒的な練習量。

伸びのあるスケーティングや高い完成度を誇る2種類の4回転ジャンプは彼の努力の結晶だ。

転んでも立ち上がってきたからこそ、今がある

ジャンプ、表現力も磨き、プログラムの完成度を高めている山本。

今シーズンのショート『Yesterday』は「僕のスケートの良さが詰まっていて、僕の人生も詰まったプログラム」だと語る。

また、フリーの『ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番』は、今回のフリーで使用するパートとは異なるが、2015年に世界ジュニア選手権のショートで滑った曲でもある。

フリーの曲はパートは異なるが2015年に“世界の舞台”で滑った曲でもあった
フリーの曲はパートは異なるが2015年に“世界の舞台”で滑った曲でもあった

このめぐり合わせに「そんなつもりはなくて、本当にたまたま。みなさんが引き込まれるような演技をしたいですね」と笑った。

世界選手権にはコーチを務める山田満知子さんも同行するという。

山田さんは山本について「草太に行っていいかな?と聞いて、(世界選手権に)行かせてもらうことにしました。(草太は)毎日攻めているよ。中京では世界選手権が2人(山本と宇野)がいて、2人で一緒に滑っているけど、どっちかが疲れていても、どっちかが頑張っていると、頑張らなきゃいけない感じがあって、いい感じ」と話した。

山田満知子コーチから指導を受ける山本
山田満知子コーチから指導を受ける山本

山本も長く見てくれているコーチの存在を「先生のスゴさは改めて実感していますし、『今回いけるよ』『今シーズンいけるよ』と言ってくれるときは、絶対にうまくいく。満知子先生が『今回はいけるよ』と言ってもらえるような練習を積み重ねていけたらと常に思っていて、先生を信じて、喜ばせてあげられるような演技をしたい」と語った。

山本にとって初めての世界選手権。これまでの自身の道のりを振り返り、こう意気込んだ。

世界選手権は「成長につながる大会に」と語る山本
世界選手権は「成長につながる大会に」と語る山本

「7年間、ケガ以外にもいろいろなことがあって、転んでも立ち上がって、常に前進し続けてきたからこそ、今がある、この世界選手権につながったと思う。頑張ってよかったなと思いますし、ここがゴールではなく、まだまだ先もっと成長していきたい。この世界選手権がまたさらに成長した自分につながれば、と思います」

3月22日から開幕の世界選手権。女子は坂本花織、三原舞依、渡辺倫果、男子は宇野昌磨、山本草太、友野一希、ペアは三浦璃来・木原龍一組、アイスダンスは村元哉中・高橋大輔組が出場する。

世界フィギュアスケート選手権2023
3月22日(水)から4夜連続で生中継
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/world/index.html

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班