3月3日は耳の日。1年を迎えたウクライナ侵攻をきっかけに、戦争とろう者について考える。

戦争でろう者が思うこと

ロシアによるウクライナ侵攻から1年を迎えた2023年2月24日。岡山・倉敷市に住むろう夫婦の井上博文さん(90)と寿美子さん(87)は、テレビから流れるウクライナに住む女性へのインタビューを見て、自身の体験を思い出していた。

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井上博文さん:
(手話で爆発を表し)バン、バン、バン。ウクライナの戦争は嫌。昔を思い出す

井上寿美子さん:
飛行機の音は聞こえずお母さんに起こされた。大きな飛行機を見て音がお腹に響いて怖かった

井上博文さん:
飛行機が爆弾を落としたようだが、聞こえないのでわからなかった。実際に飛行機を見て理解した

1945年6月に起きた水島空襲。博文さんはB29による爆撃を目の当たりにしたが、当時は詳しい説明を受けることもできず、ただ逃げることしかできなかった。

篠田吉央キャスター:
戦争の時に情報はありましたか?

井上寿美子さん:
なし

井上博文さん:
ない。手話で伝えてくれる人もいなかったので、戦争が終わったことも10日間くらいわからなかった。戦争が起きた時に私たちのように情報がなくて困る人がいることを忘れないで欲しい

意思疎通できる環境がなく混乱も

そして今、ロシアの侵攻を受けるウクライナでも同じ思いをしているろう者がいる。

地下シェルターに避難したウクライナのろう者:
きょうは飛行機が複数飛び回り爆撃してきた。ミサイルが複数飛んできた

薄暗い中、懸命に手話で訴えるのはウクライナ中央部に住む男性。家族とともに避難した地下シェルターから戦時下の様子を伝えている。

一方、ウクライナ南東部では、地元のろう学校が爆風によって甚大な被害を受け、生徒たちは軍などの指示で避難したという。キーウ在住でウクライナろう協会のイリーナ チェプチーナ会長はこのように語った。

ウクライナろう協会・イリーナ チェプチーナ会長:
最初はミサイル攻撃が全くわからなかった。スマートフォンにミサイルが来るという情報が入ると、すぐに地下シェルターに逃げた

当時、約3万7,000人いたというウクライナのろう者は、インターネットなどで侵攻開始については知ることができたが、政府からの情報や避難先などの詳しい情報については、手話による意思疎通ができる環境になく非常に混乱したという。

ウクライナろう協会・イリーナ チェプチーナ会長:
とりあえず持てる物だけをもって避難した。バスは渋滞でほとんど進まず駅も人でいっぱいだった。侵攻開始からの3日間は本当に大変な日々でした

情報を知る上で期待された手話通訳者も、避難などで223人が78人にまで減った。こうした状況を受け協会では、手話通訳者とろう者のグループを作り、効率的な通訳体制を構築し、情報伝達に務めた。

ウクライナろう協会・イリーナ チェプチーナ会長:
ヨーロッパへの避難組など、それぞれにグループを作って情報を発信した。ろう者は文章など読み書きが難しいので、手話で伝わる動画にして配信した

日本に避難したろう者は

一方、戦火を逃れて日本に避難したろう者もいる。

コバレンコ・バーディムさん(51)は、2022年9月、ポーランドを経由して大分県に避難してきた。現在は、障害者の自立支援を行う社会福祉法人「太陽の家」で週5日働いている。

見知らぬ土地での暮らしだが、手話や翻訳アプリを使い情報を得たり、周囲とコミュニケーションを取ることが、大きな支えになっているという。

翻訳アプリで「お仕事楽しいですか」と聞かれたコバレンコさんは「私は1週間働いてきた今、すべてが大丈夫です」と返答した。

「共に生きていける社会に」

戦禍の中求められるろう者の情報保障。日本のろう者たちも支援に立ち上がりました。

ウクライナろう者難民支援ボランティア有志の会・田村美歩代表:
ウクライナにいる手話通訳者に報酬が出せない。その代わりに、わずかだが寄付を謝金に充て、手話通訳をお願いし情報保障の支援をしている

ウクライナろう者難民支援ボランティア有志の会では、ウクライナとロシアのろうの子供たちが描いた絵をプリントしたトートバッグを販売し寄付を募った。

ウクライナろう者難民支援ボランティア有志の会・田村美歩代表:
2011年3月11日の東日本大震災の時に、海外からいろいろな支援を受けた。そのお礼として、しっかり支援をしたい気持ちがあった

ウクライナろう協会・イリーナ チェプチーナ会長:
やはり社会の中でろう者が孤立しないのは難しい。でも同じウクライナ人なので、聞こえる人、聞こえない人関係なく、みんなが1つになって共に生きていける社会になってほしい

ろう者に爆撃の音は聞こえていない。ウクライナ侵攻から1年が過ぎ、戦闘の長期化が懸念される中、戦禍で取り残される人たちが生まれないための取り組みが求められている。

ウクライナの手話でありがとうは、こぶしをおでこからあごの辺りに下げる動作
ウクライナの手話でありがとうは、こぶしをおでこからあごの辺りに下げる動作

篠田吉央キャスター:
ウクライナのイリーナさんは、日本の手話で“ありがとう”と言ってくれました。ちなみに、ウクライナの手話でありがとうは、こぶしをおでこからあごの辺りに下げる様子で表します

(岡山放送)

岡山放送
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