鹿児島市は2022年、待機児童の数が全国ワーストとなったことが明らかになった。その要因の一つが保育士不足。資格を取得しても、現場で働かない選択をする人が多くいる。保育士不足の課題が解決しない背景を見つめた。

働き手が集まらない“保育士”

2022年12月、鹿児島市役所に、市内の保育園で働く保育士が集まった。

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ある男性保育士は「保育士不足は本当に深刻です。次年度も本当に厳しい状況です」と、下鶴隆央市長に訴えた。保育現場の人手不足。働き手が集まらない上、仕事量のあまりの多さに、辞める人も少なくないという。

厚生労働省が明らかにした保育士の登録者数と従事者数の推移をみると、保育資格を持ち保育士として登録されている人は増えている一方、実際に保育士として働く人は伸び悩んでいることが分かる。

退職した元保育士が鹿児島テレビの電話取材に応じ「時間の縛りですかね。朝早い時間や延長保育の時間に入れる先生が少なくて」と語った。

保育士のせわしない一日

現場の保育士はどんな一日を過ごしているのだろうか?鹿児島市の幼保連携型認定こども園・錦ヶ丘で見せてもらった。

1歳児・つくし組を担当する森恵理先生。朝8時すぎ、続々と子どもたちが登園し、教室はあっという間に18人に。8時30分には段ボール遊びが始まる。森先生は「一日の中で、忙しい時間の一つです」と話す。

その後もイベントが息つく暇なくやって来る。9時30分にはおやつの時間、10時には絵本の時間…。教室が子どもたちでにぎわうころ、事務室では「○○(園児の名前)さん来てるかな?」と、やり取りが行われていた。

保育園の主任・迫田昌子先生と副主任の後藤史江先生が、来園した園児を2人でチェックする。2022年、各地で園児置き去りがあって以降、確認する回数を増やして対応するようになったという。しかし、メインの仕事はここから。

主任・迫田昌子先生:
1歳児のつくし組が落ち着かないということで

迫田先生が電話連絡を受け突然走りだした。向かったのは読み聞かせが始まった1歳児のクラス。担任の森先生のサポートのためだ。細やかな保育のためにはチームワークが欠かせない。

正午。子どもたちはスヤスヤお昼寝。先生たちはその間に昼食を済ませ、保育についての勉強会が始まった。先生たちは研修会、保育日誌作成、保育計画作成、教室の掃除と、子どもとのふれあい以外にも多くの業務を抱えていて、時間はあっという間に過ぎてしまう。

主任・迫田昌子先生:
助け合わないと保育はできないと思う

副主任・後藤史江先生:
行政もそうだし私たちもそうだし、それに伴って保護者にも協力いただくこともセットだと思う

見直されない「保育士の配置基準」

保育学が専門の玉川大学・大豆生田啓友教授は、この仕事量に加え、国の「ある基準」が見直されていないことを問題視する。

玉川大学・大豆生田啓友教授:
戦後、日本はこれだけ保育園のニーズが高まったにもかかわらず、量は増やしてきたが、1人の先生が子どもを何人見るかに関しては、何も変えてこなかった

大豆生田教授が指摘するのが保育士の配置基準。保育士1人が子どもを何人まで保育できるかを国が年齢ごとに定義している。それによると1歳児だと、1人の保育士で子ども6人をみることになっている。

この配置基準は適切なのか?保育施設向けのアプリの開発企業が2月、全国の保育施設に「最適だと思う保育士1人あたりで受け持つ子どもの数は?」というアンケートを実施した。その結果、1歳児の場合、最も多かったのは保育士1人あたり園児3人までという回答。国の基準6人の半分だ。

その他の年齢を見ても国の基準は、現場の声をはるかにオーバーしているといえそうだ。

さらに大豆生田教授は「日本の保育はとても長時間の保育です。最近では11時間とか13時間とか、国際的に見ても非常に長時間」と指摘する。

社会全体で支えることが重要

膨大な仕事量に、時代が進んでも変わらない基準。そんな中、この園では保育士の残業時間を減らすため業務内容の見直しを進めている。

例えば、教室の窓。保育園でよく見る季節ごとの飾りがない。後藤史江先生は「飾り一つにしても、外を見れば『木の芽が出ている。もうすぐ春が来るんだね』とか、今までやってきた当たり前を、ぐっと見直したのが大きいと思います」と語った。

業務の見直しと労働時間の短縮。多くの求職者がこの2点を求めている。

保育資格を持つ人と保育園のマッチングを行う、鹿児島市の保育士・保育所支援センターの新村公美センター長は「残業時間がないところ、仕事の持ち帰りがないところを希望する人が多い」と話す。

人手不足にあえぐ保育業界だが「保育士自体はすごく楽しいと思う。1日笑っていないことはないと思うので」と、魅力的な仕事であることを熱く語る保育士もいる。

玉川大学・大豆生田教授は「地域の真ん中に園が位置づく。保育の日々の営みに対して、もっと社会全体で支えていくことが重要になってくるのではと思います」と地域全体、社会全体での取り組みの重要性を指摘している。

子どもの成長を見守ることができる環境づくり。保育の現場だけでなく行政も、社会も、保育を取り巻く認識を共有することが、保育士のなり手を増やす一つのカギと言えそうだ。

(鹿児島テレビ)

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