韓国政府が「元徴用工」問題の解決策を公表。岸田首相はこれを評価するとし、日本政府は韓国に対する輸出管理厳格化解除に向け協議を進めると発表。戦後最悪と言われ続けた日韓関係改善に向けた動きが加速しようとしている。

BSフジLIVE「プライムニュース」では櫻井よしこ氏と飯島勲氏を迎え、今回の解決策を徹底検証。今後の日韓関係のあり方について議論した。

中国への対抗を考え解決策は許容せざるを得ないが、問題も多い

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新美有加キャスター:
韓国政府が発表した「元徴用工」問題の解決策の概要。日本の最高裁にあたる韓国の大法院が被告の日本企業に命じた判決金を、韓国政府傘下の財団が肩代わりして支払う。判決金の原資は韓国企業からの寄付で賄われ、一般の日本企業には寄付を期待する、とする。日本の被告企業には資金拠出を求めていないが、のちに被告である日本企業に判決金を請求できる「求償権」の放棄については明確にされていない。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
すごく大きな枠組みからは、日本はこれを受け入れざるを得ない。本当の脅威である中国が非常に危険な動きを示しており、日米韓が力を合わせなければいけない。だが個々の内容を見れば、非常に多くの深刻な問題がある。冷静にやらないと韓国の思うつぼ。

反町理キャスター:
「受け入れざるを得ない」という言葉に正直驚いた。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
問題を日韓関係だけで見ても、日米だけでもだめ。私たちの共通の敵は中国。アメリカの中国専門家の話を見ても、中国は本当に台湾有事に踏み込む準備をしている。北京郊外に野戦病院のようなものを多く作ったり、地下施設をすごく充実させるなど。習近平国家主席は第2のプーチンになりかねないと感じる。台湾有事となれば、戦場になるのは台湾と日本。なにがなんでも抑止を働かせなければいけない。それが今の日本、アメリカ、台湾も含めて目指すべき最大の目標。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長
櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領自身は、彼の経歴を見ると信用できない。今回約束をしてもまたひっくり返ると思う。反対している野党の李在明(イ・ジェミョン)氏は、国民世論の半分の支持を持つ。韓国との付き合い方では、変わることを大前提に考えなければいけない。だが今のところ、目の前の中国の脅威を止めるために現実的に一番いい方法として、今回の韓国との一種の仲直りを許容せざるを得ない。ものすごく問題はあるが。

新美有加キャスター:
飯島さんは。

飯島勲 内閣官房参与 松本歯科大学常務理事・特命教授:
今日は内閣官房参与としてではなく、私個人の見立てを話させていただく。まず韓国が大統領が変わるたびに全く違ってしまうのは、任期が5年で再選がないため。尹錫悦大統領が誕生したが、国会の3分の2は野党が握っている。次の大統領が全く違うことを言うかもしれない。また今回、日本はちょっとのめりこみすぎ。官邸も外務省も経産省もけしからんと思う。岸田総理は国会で「輸出管理において韓国をホワイト国から外したのは報復措置ではない」と何回も言ってきている。それがなぜ、尹大統領が解決策を発表したらすぐ解除する方向になるのか。これはものすごく危険。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
日韓両国政府は、輸出管理に関する懸案事項について「2019年7月以前の状態に戻すべく、2国間の協議を速やかに行っていく」とした。この「協議」という言葉は非常に韓国が望んでいる表現で、日本がワナに陥っている。2019年当時に安倍総理が言ったのは、我が国が輸出するのだから、輸出管理の問題は協議ではなく対話をすればよいのだということ。協議となれば、交渉で向こうが有利になるようにできる。だから韓国はこの言葉を使いたかった。韓国が不正のない貿易管理をきちんとして実績を示せば、もとの待遇に戻せる。これは我が国が一方的に決めること。世界中どこでもそう。協議という言葉を入れたこと自体、認識が間違っている。

反町理キャスター:
経産省の認識がおかしいと。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
西村経産相はすぐに訂正を出し、政策対話を行うと言い換えた。最初に全然ここに気づいていないのは、つまり経産省が前のめりになっているということ。官邸もたぶん前のめりになっている。もっと注意して足元を見なければいけない。

アメリカの中国への危機感は非常に高い。日本ももっと危機感を

新美有加キャスター:
「元徴用工」問題の解決策について尹大統領の発言。ポイントは「韓日両国の共同利益と未来発展に符合する方策を模索してきた結果」という点。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
大きな意味では日本にも利益はあるが、やはり日本が譲らされている。ただし大事なことは、韓国の財団に日本企業のお金を一切入れない、韓国の中で完全に解決してもらうということ。安倍政権・菅政権も、韓国が日本企業からお金を取ることや日本企業の資産を現金化することは絶対に許さないとして、企業とも連携ができていた。今もそうだと信じたい。また例えば、未来青年基金という日韓の未来を創造、豊かにするための奨学金を作ろうという話が出ている。結構なことだが、今やれば違う形で日本が妥協したとの印象を与えてしまう。だから結びつける形にはしない。求償権の放棄に触れておらず、明記されても守られる保証はない以上、それが私たちのできること。

反町理キャスター:
韓国における政治の連続性は、もう最初から諦めているように聞こえる。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
冷徹に歴史を見ると、そこまで考えておかなければいけない。だが尹大統領にはまだ4年間の任期がある。特に台湾有事のことを考えると、この1〜2年はものすごく大事。

飯島勲 内閣官房参与 松本歯科大学常務理事・特命教授
飯島勲 内閣官房参与 松本歯科大学常務理事・特命教授

飯島勲 内閣官房参与 松本歯科大学常務理事・特命教授:
2022年に岸田総理がニューヨークの国連に行ったとき、日程にない中で突然、尹大統領が会いに来た。対面外交になり、すごくいい顔をして帰っていった。日韓間にはいろいろな懸案があるが、この大統領とじっくり理詰めでいろいろな議論をやっていけば、この5年間で結構解決できるのではという期待があった。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
尹大統領が検事総長になったのは、検事として朴槿恵(パク・クネ)元大統領の弾劾の理屈を考えたことで、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領に評価されたため。だが文氏が検察から権力を取り上げようとして、ものすごい対立になった。そして尹氏に人気が出て大統領になった。左か右かわからない。権力闘争を勝ち抜く道を選んできたのであり、思想信条は全くない。だが、何かやるときは破壊力が強い。今の大変危険な状況を突破するのに、この短期間で一つの役割を担うことがあり得るかも。わからないが。

新美有加キャスター:
韓国政府が元徴用工問題の解決策を出した後、アメリカのバイデン大統領は直ちに「両首脳の取り組みが完全に実現すれば、自由で開かれたインド太平洋という私たちの共通のビジョンを守り、前進させる助けとなるだろう」と声明を発表。アメリカから韓国へのプレッシャーはあったか。

飯島勲 内閣官房参与 松本歯科大学常務理事・特命教授:
プレッシャーかどうかはわからないが、ホワイトハウスとの報告は常にやっているはず。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
アメリカは中国に対して相当な危機感を感じており、2030〜35年までに中国に対抗するための軍事力増強をできないという認識は、少なからずアメリカ国内で共有されている。だからこそ急いで体制を作ろうとしており、極東の日米韓は台湾有事に対しても欠くべからざる仕組み。アメリカ自身のためにも、彼らはものすごく真剣にやっている。私たちの危機認識も、本当はもっともっと厳しくないとだめ。私たちのこの国が、あと数年のうちに戦場になるかもしれない。

レーダー照射問題の背景は「韓国政府が北朝鮮政府の手先だった」?

反町理キャスター:
日韓間の未解決の懸案事項について。中国を意識しての安全保障の観点からは、2018年のレーダー照射問題がある。韓国の軍艦が、日本の自衛隊の航空機に対して射撃を前提としたレーダーを当て、日本の自衛隊の航空機が本当に撃たれるのでは、となった件。いまだ未解決。このままで、日韓・日米韓での信頼ある安全保障上の連携があり得るのか。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
このレーダー照射問題は、北朝鮮のものと思われるオンボロの船が日本のEEZ内に来て、韓国の駆逐艦がそこにいた。日本の海上自衛隊の対潜哨戒機がおかしいと思って入っていったときに起きた。そのおんぼろの船には3人が乗っていた。韓国軍はこれを捕まえ、2日で北朝鮮に帰した。

反町理キャスター:
北に戻したという話は聞きましたね。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
ちょうどその時、北朝鮮で金正恩(キム・ジョンウン)の暗殺未遂事件が起き、90人くらいが逮捕されたと言われている。恐らく漁民ではなく、暗殺未遂事件に関連した人たちが逃げてきたのでは。すると、なぜここに韓国の駆逐艦がいたのかという点が疑問。私の推測に過ぎないが、青瓦台に連絡があって指示もしくは依頼があったのではないか。文在寅前大統領は北朝鮮の言うことを何でも聞く大統領だった。韓国政府が北朝鮮政府の手先だったという構図が浮かび上がるかもしれない。それぐらい重要なことだった。解決すべきだが、解決するにはあまりにも大きな問題かもしれない。

(BSフジLIVE「プライムニュース」3月7日放送)