全国の一流料理人から注文が殺到しているという福岡・北九州市のスゴ腕漁師集団。海の“職人”とも言われる彼らの戦いに密着した。

藍島で捕れる「世界一と言われる魚」

北九州市戸畑区の名店「照寿司」。確かな腕で美食家たちを魅了してきた店の大将の渡邉貴義さんも、その「世界一と言われる魚」を仕入れる料理人のひとりだ。

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ーー世界一と言われている魚はどこで捕れる?

「照寿司」大将・渡邉貴義さん:
北九州市小倉北区の藍島で捕れていると思います。下処理を船上で行うということが、高単価の価値ある魚に生まれ変わる技術だと思います

藍島で捕れる魚に一体どのような秘密があるのか。

取材班は響灘沖に浮かぶ離島・藍島へ。人口200人ほど、島民のほとんどが漁業で生計を立てる小さな島だ。

おばあちゃん(島民):
世界で一番うまい魚?知らーん、何ね?サワラかな?

島民の口から出た魚の具体名は「サワラ」。

おばあちゃん(島民):
漁師5人ぐらいがね、サワラを、アレしとるんじゃないのかな

島で捕れるサワラの「アレ」をするという5人の漁師。その一人にアポイントを取り、取材班は待ち合わせの船着き場へ赴いた。

桜井福大記者:
よろしくお願いします

渡された名刺に記された「藍の匠衆」「衆長」の文字。

この男性こそ、すご腕漁師集団「藍の匠衆」のリーダー・島田慎太郎さん(39)なのだ。

「藍の匠衆」とは、藍島出身の5人の漁師が究極のサワラを水揚げするために集まったプロフェッショナル集団。「料理は船上から始まる」を掲げ、鮮度を保つための独自の技術を船上で行い、出荷するサワラは「藍の鰆」としてブランド化されている。

各地の高級料理店と漁師が直接契約し、細かな要望に応えることからオーダーメード漁業とも称されているのだ。

島田慎太郎さん:
まぁ、いま、魚が少なくなってるでしょ。このままじゃダメだろうと。じゃあ一番、何かブランド的なものを目指そうというコンセプトです

「藍の匠衆」両羽勝さん:
(普通のサワラと値段の差は)そのときの相場によりますけど、大体3倍くらいはいくかな

通常のサワラと比べ3倍もの値がつくという「藍の鰆」。一体何が、特別なのか。その秘密を知るため漁に同行させてもらうことにした。

厳格な「藍の鰆」ブランドの基準

午前6時。眠そうな表情で現れた慎太郎さん。船長である父、清孝さんと船に乗り込む。

島田慎太郎さん:
釣らなきゃいけないことになったんですよ。昨夜、注文が入ったから

急遽入った注文。「藍の鰆」の基準は厳格に設定されていて、体重3kg以上、脂質10%以上と決められている。この基準を超えるサワラを見つけられなければ、匠の技術も意味を持たないのだ。

午前7時。船を走らせること1時間、漁場に到着。仕掛けを準備する。

藍島のサワラ漁は、サワラを模した蛍光板をくくり付け、船を走らせながら行われる。糸は、船に取り付けられた2本のポールによって支えられていて、ポールに付けられたゴムの揺れをいかに感じとるかがポイントとなる。あとは船を走らせながらアタリを待つのみ…。

島田慎太郎さん:
毎日、毎日、釣れたらね、みんな漁師するよ。今日は「藍の鰆」にできるのが、2本くらいは欲しいかな

3時間待つもアタリは来ず、仕掛けをもう一度セットし直す。すると…。

「なんか食ってるけどね、なんやろね」と島田さん。この日、初めてのアタリだ。

テグスを引き寄せ、捕れたのは「藍の鰆」ブランドの基準を満たさないサワラの子ども。

島田慎太郎さん:
今日5、6本釣れるやろうって思ったらさ、なんのなんの、1本が遠い遠い。釣れるときはのー、あほみたいに釣れるけどのー

ついに確信に近い感触が…!

再び「待ち」の時間に入った島田さん。すでに沖へ出て8時間が経過している。

そのとき!ゴムがきしんだ!

島田慎太郎さん:
間違いねえ、食っとる!

確信に近い感触!はやる気持ちをもはや抑えず、勢いよくテグスをたぐり寄せる。

ついに大ぶりのサワラが釣れた!
ついに大ぶりのサワラが釣れた!

釣れたのは、大ぶりのサワラ!ここから匠の技術がベールを脱ぐ。

島田慎太郎さん:
船の上でしかできない。船の中でしかできない。もう、死んじゃったらできないから。生きてるときにやるっていう

「藍の匠衆」が持つ技とは「船上放血神経締め」とよばれる技術。魚の処理の全てを船の上で行う。しかし、この技術は「藍の匠衆」の専売特許なのだ。

島田慎太郎さん:
ほぼほぼ、全部秘密なんだけど。これから、まだまだ、いろんな作業やるから

「神経締め」を終えると氷と海水を混ぜ始める島田さん。サワラをそこに放りこむ。しばらくして(時間は企業秘密)、クーラーボックスから顔をのぞかせたのは、きれいな青い色のサワラ。締める前とは色が全く違う。

島田慎太郎さん:
野締め(=通常の締め方)する人、色が黒いんだよ。おれらのサワラは青いんだよ

続いては解体作業。その前に脂質を計測。「藍の鰆」は、脂質10%以上ないと名乗れない。

島田慎太郎さん:
もうちょっと上がると思うけど、いま8%だよ。見える?

残念ながら脂質は10%に届かず、サイズも3kg以下と「藍の鰆」のブランド基準をクリアできていなかった。「藍の鰆」として契約する料理店には卸せないが、市場に出すため、内臓を抜いて丁寧に血抜きを行う。

島田慎太郎さん:
完璧な状態じゃないと出さないよ。これからは撮らないで!

血抜きを終えたサワラ。血合いひとつない真っ白なサワラの身。手間暇かけて“究極の白身”が完成した。

島田慎太郎さん:
きれいでしょ?特殊なことを丁寧にするという。もう、俺ら、あれだから、魚体に傷があったら出さないから

漁に出てから8時間。この日は1匹も「藍の鰆」を捕れぬまま帰港することになった。

島田慎太郎さん:
どうにかして釣ってやろうと思ったけど、残念だったね。「藍の鰆」は釣れなかった。お店に行って「藍の鰆」を見かけた際には、ぜひ食べてくださいね。毎日釣れるわけじゃないのでね

すご腕漁師集団「藍の匠衆」は、世界一の魚を追い求めて今日も荒海に立ち向かう。

(テレビ西日本)

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