福岡・新宮町の渡船場からフェリーで約20分。玄界灘に浮かぶ、1周約5kmの小さな離島、相島(あいのしま)。この島で新たな名物「棒寿司」が誕生した。島民の手で生み出された棒寿司に込められた思いを取材した。

“猫島”の過疎化が深刻に

到着するなり迎えてくれるのが、たくさんのネコたち。相島は別名「猫島」とも言われ、200匹を超える猫と島民が仲良く暮らすのどかな島なのだ。

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糸永源樹さん:
本日は、よろしくお願いいたします

出迎えてくれたのは糸永源樹さん(27)だ。奈良県生まれ、福岡・大牟田市育ちと、相島とは縁もゆかりもなかったが、趣味だった島巡りの旅で相島に出会ったという。

糸永さんが早速、島を案内してくれた。

糸永源樹さん:
この辺は雑木林になってるんですけど、雑木林になっているからこそ活用できるっていうのが、例えばアスレチックとか、考えれば考えるほどポテンシャルはあるので

島に魅力を感じた糸永さんは2019年、地域おこし協力隊として相島に移住することに。しかし、島で生活していくうちに「ある課題」が見えてきたという。

糸永源樹さん:
魅力があるのにも関わらず、担い手とかがいなくて

実は、相島は若者離れによる人口減少が止まらず、ピーク時1,300人余りだった人口は、230人を切っている状態なのだ。

島民(90代):
私たちが今、もう100歳になりよるね。私たちの年代が多かですね

島民(80代):
ものすごい過疎化よ。今はみんなお年寄り

島民(50代):
高校がないから結局、高校生になったら向こうに出るんで、そうなったら就職がもう向こうになってしまう

人口減少の原因のひとつが、「職業の選択肢」が不足していることだ。

糸永源樹さん:
60%から70%が相島では漁師なんですけど、島には仕事の選択肢が限りなく少ないので。そこを作っていかないといけないのかなとは思ってます

島では漁師以外の職業がほとんどなく、進学や就職のために島を出ていく若者が増加し、高齢化率は50%を超えた。島で唯一の小中学校も、生徒はあわせて30人ほどと存続の危機にさらされている。

地元の魚を使った「棒寿司」で島おこし

2022年2月、地域おこし協力隊の活動と並行して設立されたのが、島の活性化を目指す会社「相島クルー」だ。目指すは、島の職業の選択肢を増やすこと。まず目を付けたのは、相島産の「魚」だった。

糸永源樹さん:
これはワラサになります。ブリの子どもですね。かなり新鮮で、目も透明度が高いし、さっきまで生きてたので柔らかいです

相島の漁の特徴は「一本釣り」だ。網で大量に獲るのではなく、1本1本丁寧に釣り上げることから、魚が傷みづらく新鮮なうま味と食感が保たれるとのこと。

そんな相島の1番の資源である魚を生かした加工品を生み出し、新たな産業を確立させる。島の人々とともに、相島の名物となるものを考案した。

糸永源樹さん:
干物だったりとか、かまぼこだったりとか、加工品が色々あるんですけど、その中でも魚をダイレクトに感じられるのはお寿司っていう形の方がわかりやすいのかなと思って、棒寿司にしました

棒寿司は魚を酢締めするため、通常の寿司と比べ日持ちするのがポイント。そのため、土産品として持ち帰ることが可能となる。

製造スタッフ・樫村晴美さん:
(糸永さんは)相島を盛り上げようって一生懸命思っとるよ。だけん協力せなねって思って。みんなからそげん思われとっちゃない

製造を担うのは島の女性たちだ。スタッフは島で唯一の寿司屋に弟子入りし、魚のさばき方はもちろん、米の炊き方まで、8カ月もの間みっちり修行を積んだ。

製造スタッフ・三舩直美さん:
活性化と知名度を上げて盛り立てようっていう気持ち

製造スタッフを指導・木下禎明さん:
やっぱり皆さん島のため、これから10年後のためを思って来てくれているので、その姿勢がやっぱり違うというか。なので吸収するのも早いですし、島民自慢の1本になるんじゃないかと思ってます

「棒寿司は先がけの一歩に」

考案から約1年。棒寿司が完成した。相島産のヒジキや大葉が混ぜ込まれた酢飯には、相島近海で獲れた旬の魚が、ぜいたくにのっている。

そのお味は…。

糸永源樹さん:
すごく上品な味で、きょうもすごくおいしくできていると思います。

――猫も狙ってますね

糸永源樹さん:
あげないよ

糸永さんも納得の仕上がりの様子だった。一方、島の人々の反応は…。

島の漁師(60代):
やっぱり新鮮な魚を使っとるのと、ゴマの風味がいいね。島やけん、魚しかないけんね。それをいろんな形でPRできればいいけどね

島の中学生:
おいしいです。めちゃくちゃ魚の歯応えがあって。自分の父が漁師なんですけど、島の魚を広める機会がここにもあって、めちゃくちゃうれしいですね、ほんと

評判は上々だった。棒寿司の本格販売を前に行われた試験販売では、約3時間で17本全てが完売となった。

観光客:
お土産に買いました。やっぱり、ここは猫が有名だと思うんですけど、それ以外にもいいお魚が獲れるんだっていうのは知れて、非常に良いと思います

糸永源樹さん:
やっぱりみんなで作って、これから島を盛り上げていこうというものが売れて、島のことをみんなが知ってくれるきっかけになってるのが目に見えてわかるので、すごく嬉しいです

棒寿司は土日の数量限定で、フェリーの渡船場や新宮町の道の駅などで販売される。糸永さんは棒寿司をきっかけに島に職業の選択肢を増やし、さらには若者離れを食い止めたいと話す。

糸永源樹さん:
棒寿司だけじゃ(島の再生は)難しいなと思ってます。正直なところ。棒寿司は先駆けの一歩になっていて、ここを先駆けに動いていくと、10年後、20年後っていうのは理想のものになるのかなと信じてやっています

相島では、このほか古民家を改装した一棟貸しの宿もオープンした。観光客がネコに会いに来て、棒寿司を食べて、泊まってとなれば、それだけ仕事が生まれるのは確かなようだ。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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