アメリカ全土の保守系団体が集結するCPAC(保守政治活動会議)の年次総会が、ワシントン近郊で3月1日から4日まで開催された。その最終日、大トリとなる演説にはトランプ前大統領が登場。会場にはトランプ氏の家族や忠誠を誓う議員らとともに、大勢のトランプ支持者らも集結し、さながら「トランプイベント」の様相を呈した。

トランプ氏は一時低迷していた支持率も再び上昇に転じており、根強い支持の強さを感じさせる。一方で、出馬が指摘されている有力政治家やトランプ氏と距離を置く団体の欠席も相次ぎ、イベント会場には空席も目立つなど、保守派内での対立を懸念する声もあがった。4日間のイベントで何が起きたのか追った。

“トランプファミリー”が大集結
「ウクライナにお金は出さない。あの国には調査が必要だ」

トランプ氏の側近として知られる、共和党のグリーン下院議員がそう訴えると、会場からは大きな声援が飛んだ。同じくトランプ氏に近い共和党のゲイツ下院議員も演説で「政府を我々の側に戻すか、FBI(連邦捜査局)、司法省、彼らが屈服しないのであれば排除、廃止する」と強調し、トランプ前大統領の捜査を進めている機関との対決姿勢を鮮明に打ち出した。

会場外のブースには保守系メディアや、インフルエンサーのブースが並び、2人は次々と生放送にも出演。その周辺を支持者らが取り囲み、通路が通れなくなるほどの盛況ぶりも見せた。ウクライナ支援についてメディアからグリーン氏に質問が飛んだ際には「誰がウクライナ支援を望んでいるのか?」とグリーン氏が声を荒らげ、周囲の観客が「そうだ!」と一斉に呼応していた。

さらに、会場にはトランプ氏の長男であるトランプ・ジュニア氏、次男の妻にあたるララ・トランプ氏も登壇して演説を行うなど、全米最大の保守派のイベントは「トランプ色」に染まっていた。

また、「ブラジルのトランプ」と呼ばれ、2022年末以来2カ月以上にわたってアメリカに滞在しているブラジルのボルソナロ前大統領も登壇し、復権に向けてアピールを行う一幕もあった。

トランプ支持者が集結 デサンティス知事に好意的な声も
トランプ氏が演説した最終日には多くのトランプ支持者も駆けつけた。トランプ氏の名前をあしらったTシャツを家族で着た人たちや、以前取材したドラァグクイーンのインフルエンサーでユタ州に住むレディー・マガ・USAさんも駆けつけていた。

会場でトランプ支持者に話を聞いてみると様々な声が聞かれた。

「トランプが大好きです。彼は今すぐ大統領になるべきだと思う」
「デサンティス氏は優秀な知事だと思う。今の行動は今後10年を考えてことだろう」
「私はヘイリー氏のことがとても好きですよ。彼女には大統領選挙に出る権利がある」
トランプ支持者から特に評価が高かったのは、フロリダ州のデサンティス知事だ。大統領選挙への出馬はまだ表明していないが、世論調査の数字でも野党・共和党内ではトランプ氏に続く2番手が定位置となっている。

2022年中間選挙時にトランプ氏が一時支持率を急落させた時には、逆転する数字もたたき出したほどだ。ただ、保守層支持者の第一の選択はやはりトランプ氏が多いようで、1978年生まれで44歳のデサンティス氏は「将来の大統領候補」として位置づけている声が多く聞かれた。
根強い人気のトランプ氏「バイデンを追い出す」
有力政治家や保守系の団体の一部が欠席したことで、空席も目立つ会場であったが、トランプ氏の演説の際には盛り上がりは最高潮に達した。

「これは最終決戦だ。私はあなたの正義であり、不当な扱いを受け、裏切られた人々のために、私はあなたの報復者なのだ」
トランプ氏が大統領選挙に向けた支持を訴えると、観客からは歓声が度々あがった。演説の最中には反対派が抗議し、一時中断も起きたが「USAコール」も巻き上がった。

「外国の戦争、それも終わりのない戦争、愚かな戦争を戦うために、無制限にお金を与えようとする政党にはもう戻れない」
トランプ氏は共和党内から批判の声が高まるバイデン政権のウクライナ支援の見直しも示唆し、「私なら戦争は起きなかった。第3次世界大戦を止められるのは自分だけだ」と強調。中国に対しては「最恵国待遇の撤回」を表明し、強い大統領になることをアピールした。そして最後には、お決まりのフレーズ「アメリカを再び偉大な国に」と呼びかけた。

演説後も熱気の収まらないトランプ支持者達は、会場内で「トランプコール」を繰り返し、熱烈なトランプサポーターの男性は「歴史的だ。涙が出てくるよ」と述べていた。
ヘイリー氏「世代交代」アピールも「トランプコール」が包囲
一方で、大統領選挙の出馬をすでに表明しているニッキー・ヘイリー元国連大使は、3日目に登壇して演説を行った。

ヘイリー氏は2月に地元のサウスカロライナ州で出馬表明を行った際に「75歳以上の政治家には認知能力の検査を義務付けるべきだ」と発言して物議を醸したが、今回の演説でも冒頭にこの点を繰り返した。
「75歳以上の全ての政治家に精神的な能力テストを受けることを義務付けるべきだと私は言いました。バイデン大統領からそれは始めるべきでしょう」
ヘイリー氏はこのように述べた上で、アメリカのニュースチャンネル「CNN」のキャスターが、51歳のヘイリー氏について「女性の全盛期は20代と30代」と述べて、大きな批判を受けたことを逆手にとり「検査は50歳以上でもかまわない」として、政治家などの公的な立場の人間がきちんとした精神状態であることが重要であるとの強調もした。

さらにヘイリー氏はこうも続けた。
「私たちの大義は正しかったが、大多数のアメリカ人の信頼を勝ち取ることができなかった。あなたが負けることに疲れたのなら、新しい世代に信頼を寄せ、党としてだけでなく、国として勝ちたいのなら、私と共に立ち上がりましょう」
バイデン大統領は80歳、そしてトランプ氏も76歳なだけに、名前は出さずとも暗にトランプ氏も強気に批判した形だ。

しかし、演説後に“事件”が起きた。

ヘイリー氏らが支持者らと交流していると、突然「2024年はトランプ!」との声があがった。

すると聴衆が「トランプを愛している」などと続き「トランプコール」が何度も湧き上がったのだ。

ヘイリー氏は気にしないような姿勢を保っていたが、表情は引きつりはじめ、記者の問いかけにも全く答えず会場を後にした。

デサンティス知事は欠席、他の有力候補も不在に…
会場では大統領選挙に向け、約2000人が投票した予備投票も実施され、トランプ氏は62%の支持を集め2位以下に圧倒的な差をつける結果を勝ち取った。
ただ、出馬が指摘される有力候補のフロリダ州のデサンティス知事は欠席して同州で開催された別のイベントに出席たほか、ペンス前副大統領も出席を見送った。有力者の欠席の理由についてトランプ氏は「群衆が彼らの言うことに何の興味も持たないからだ」とSNSに投稿したが、共和党を支持する保守層の対立への懸念も強まっている。実際に会場には空席も目立ち、注目度の低さも感じた。

アメリカメディアからは、これまで注目されてきた「CPAC」がトランプ氏に乗っ取られたとして、「CPACはTPACとなった」(Conservative Political Action Conferenceの冒頭のCを「Trump」の「T」に入れ替え)との声もあがっている。大統領選挙の予備選挙まで1年を切る中で、共和党の指名レースそしてその後に続く大統領選挙がどうなっていくのか、今後も取材を続けていく。
(FNNワシントン支局 中西孝介)