2023年3月11日で東日本大震災の発生から12年。岩手県沿岸を走る三陸鉄道では、発生の翌年から震災学習列車が運行されている。小学6年生で震災を体験し、この列車でガイドを務める女性社員の思いを取材した。

自身の経験や考えを共有できるいい機会

ガイドをする千代川らんさん
ガイドをする千代川らんさん
この記事の画像(14枚)

三陸鉄道・旅客営業部 千代川らんさん:
(震災の)1週間後くらいにやっと初めて街の方に下りたときに、最初はもうショックというか、どこに来たんだろうと、考えが止まってしまうくらい変わり果てた姿になっていて

沿岸を走る三陸鉄道の車内で東日本大震災当時の状況を語っているのは、山田町出身の千代川らんさん(23)だ。

三陸鉄道・旅客営業部 千代川らんさん:
乗客が列車から降りるときに「良かったよ」って、「頑張ってね」って次につながるような言葉をかけてくれる時が一番やりがいを感じる

千代川さんが短大を卒業後、三陸鉄道に入社したのは、東日本大震災から8年後の2019年だった。

千代川らんさん(当時20):
楽しみな気持ちでいっぱいです。心で対応するような思いやりをもって対応できればいいなと

宮古駅で業務を行う千代川さん
宮古駅で業務を行う千代川さん

千代川さんは普段、宮古駅で電話での予約受付などの業務にあたっている。それと並行する形で、入社2年目から震災学習列車のガイドを始めた。

三陸鉄道・旅客営業部 千代川らんさん:
自分自身も震災を経験して入社しているという目線で、何か自分の経験や考えたことを共有できるいい機会なのではと考えた。自分もやってみたいと

2011年に図書室で開かれた卒業式に出席する千代川さん
2011年に図書室で開かれた卒業式に出席する千代川さん

12年前は、山田南小学校6年生だった千代川さん。家族は無事だったが、自宅は津波で被災した。体育館が使えないため、図書室で開かれた卒業式。2011年当時の取材映像に千代川さんの姿があった。

三陸鉄道・旅客営業部 千代川らんさん:
体育館が避難所になったり、みんなバラバラになってしまっていたが、図書室の中で小さい卒業式を開いてもらって、周りの人の支えがあって卒業式に参加することができて、すごくうれしかった

その後の中学校の入学式にはジャージで出席。避難所や仮設住宅での生活も経験した。

三陸鉄道・旅客営業部 千代川らんさん:
自分が実際に体験した、経験したからこそ、おそらく皆さん知らなかったであろう細かい部分まで伝えられるというところが、三陸鉄道に実際に乗って、実際に街の景色を見ながら伝えるという部分でも、自分の経験はすごく強みになっている

マイナスイメージ持ってほしくない

三陸鉄道自体も津波で大きな被害を受けたが、徐々に復旧。震災学習列車は、2012年から定期的に運行されている。2014年度からの5年間は、年間8,000人~1万人前後の利用があるなど、沿岸の観光資源として定着してきた。

千代川さんが作成したメモ
千代川さんが作成したメモ

しかし、新型コロナウイルスが影を落とす。2020年度には、それまでのピークの約半数の5,613人にまで減少した。千代川さんは、その厳しい時期にガイドを始めた。この2年間は利用者の回復を願いつつ、常に話の構成を練り直すなど改良を重ねてきた。

三陸鉄道・旅客営業部 千代川らんさん:
震災について学ぶ、知る列車だけど、つらい・大変・悲しいというマイナスイメージを持ってほしいわけではない。震災を経て、街がこう復興してきた、頑張ってきたというプラスの明るい部分を知ってほしいと普段は話をしています

乗客は、2021年度から少しずつ回復。2022年度は1万人を超え、すでに過去最多に達していて、千代川さんは月に10回ガイドをすることもあった。熱心に業務にあたってきたその姿に、上司も次の時代を担う存在と期待を寄せている。

三陸鉄道・旅客営業部 橋上和司部長:
震災から年月がたってきていることをきっちり伝えることができるガイドなので、このまま多くの皆さんにわかりやすい説明ができるガイドとして頑張ってほしい

防災を考えるきっかけに

2月24日、震災学習列車には県の内外から訪れた7人が乗った。千代川さんは、鵜住居駅から宮古駅まで約1時間をかけて、東日本大震災当時の状況や自身の思いを伝える。

三陸鉄道・旅客営業部 千代川らんさん:
震災を振り返ってみると、失ったものとか、もう二度と戻ってこないものもたくさんある。それ以上に人の優しさ、人の温かさ、そういったものを知ることができて、絆・人と人とのつながりに支えられて、この12年間生活することができた

乗客は、千代川さんの話に真剣な表情で聞き入っていた。

当時 愛知県に住んでいた人:
直接体験した方の声を聞くと、その時にいなかったので、もっと違う思いがあるんだなというのをつくづく感じました

九州から訪れた人:
すごく勉強になりました。しっかり備えていかないといけないと、あらためて思いました

三陸鉄道・旅客営業部 千代川らんさん:
今後、いつどこで起こるかわからない災害。防災を考えるきっかけにちょっとでもなればいいなと。1人でも多くの人が考えられるような、来てよかった、聞いてよかったと思えるようなガイドをこれからも続けていきたい

東日本大震災からまもなく12年。当時は子どもだった若者が、全国から訪れる人たちに教訓を伝えている。

(岩手めんこいテレビ)

岩手めんこいテレビ
岩手めんこいテレビ

岩手の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。