入居者など5人が犠牲となった長崎市のグループホーム火災から、2023年2月8日で10年。スプリンクラーの設置など福祉施設ではハード面での対策が進められる一方で、施設の防火対策を担い、入居者の安全を預かる「現場」は人員の配置など様々な課題と向き合っている。

法改正のきっかけとなった死亡火災

火事でおばを亡くした飯田光一さんは、この日、火災が起きた現場を訪れ花を手向けた。

10年前の火災でおばを亡くした飯田光一さん
10年前の火災でおばを亡くした飯田光一さん
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犠牲者のおい・飯田光一さん:
10年が一区切りじゃなくて毎年が一区切り。忘れちゃいけない、生きている限りは

2013年2月8日、この場所にあったグループホームで火災が起きた。室内にあった加湿器から出火し、高齢の入居者など5人が死亡した。火災の出火原因とされたのがリコール対象となっていたTDK製の加湿器「KSー500H」で、2023年1月末時点での回収率は77.4%と、5,000台以上が回収されていない。

火災発生当時の様子(2013年2月)
火災発生当時の様子(2013年2月)

この火事などをきっかけに、2015年に消防法が改正。グループホームなどについては面積に限らず、スプリンクラーの設置が義務づけられた。現在、長崎市内の対象施設74カ所すべてでスプリンクラーが設置されている。

犠牲者のおい・飯田光一さん:
老人ホームにしろ、グループホームにしろ、お年寄りの最後の砦、ついの住みか、家族が安心して預けられる、そういう場所であってほしい

もしものとき…課題は「人手不足」

ハード面での対策が進む一方、もしものとき、初期消火や避難誘導を担うのは「現場」だ。この日行われた訓練では、高齢の入居者を実際に施設の外に連れ出したり、スプリンクラー用の水が不足した場合の対応も確認した。

訓練の様子(住宅型有料老人ホーム ほの香)
訓練の様子(住宅型有料老人ホーム ほの香)

住宅型有料老人ホーム ほの香・岩﨑久美子施設長:
マニュアルを作っていたが、実際ベルが鳴った時点で動揺してパニックになって思い通りに動けなかった

訓練を通して“大きな課題”も見えてきた。

住宅型有料老人ホーム ほの香・岩﨑久美子施設長
住宅型有料老人ホーム ほの香・岩﨑久美子施設長

住宅型有料老人ホーム ほの香・岩﨑久美子施設長:
人手不足ですね。通常の勤務は4人体制。きょうは役割分担を決めていたが、やはりどうしても避難誘導にかかる人数が手薄になる。ここからそこまで誘導するだけでも(職員が)2人必要、連れて行った先でも1人必要なので、とても足りないと思う

職員数 6割以上が「足りていない」

2020年に介護労働安定センターが行った調査では、介護職員の数が「足りていない傾向」との回答が全体の6割以上にのぼった。「他の産業と比べて労働条件が悪い」「同業他社との人材獲得競争が激しい」などの声があがった。

みぎわほーむ・鈴木稔施設長:
夜間帯は日勤帯と比べて職員が少ない。例えば新型コロナ感染などで職員が不足している状況で火災が起これば、間違いなく人手は足りなくなる

さらに、高齢の入居者や利用者の避難誘導は簡単ではない。

みぎわほーむ・鈴木稔施設長:
寝たきりの方の誘導が非常に難しい。自分で動ける場合でも転倒のリスクがある人もいるし、そういう方の避難は難しいと感じている

みぎわほーむ・鈴木稔施設長
みぎわほーむ・鈴木稔施設長

夫婦で施設を利用 伊達木信子さん(取材当時93歳):
足腰が弱く、いつも車いすを使っている。(火災が起きたら)人の助けを借りない限り、自分ではとても逃げられない

伊達木さんは「人の助けを借りないと逃げられない」と話す
伊達木さんは「人の助けを借りないと逃げられない」と話す

長崎市内のグループホームでは法律が定めた「年2回の訓練」だけでなく毎月、避難訓練を実施している。「人手不足」が続く中、効率的な避難誘導をどのように実現するのか。悲劇が繰り返されないよう「現場」での模索が続いている。

(テレビ長崎)

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