国内最大の暴力団「山口組」が分裂してから8年が経った。去年も、対立抗争が相次いだが、ある幹部は、「ヤルところまで、ヤルと思う」との見通しを示した。

散髪中の組長が襲われる

山口組をめぐっては、2015年に六代目山口組から分裂して神戸山口組が結成され、その後、さらに複数の組織が独立して活動している。2つの組については、抗争が激化して、2020年に特定抗争指定暴力団に指定され、その期限は今も延長されている。

池田組の組長が、散髪中に襲われた現場(去年10月 岡山市)
池田組の組長が、散髪中に襲われた現場(去年10月 岡山市)
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組長が襲われた翌日、自宅マンションでも発砲事件が起きた(去年10月 岡山市)
組長が襲われた翌日、自宅マンションでも発砲事件が起きた(去年10月 岡山市)

さらに去年12月には、神戸山口組から離脱し、岡山県に本部がある池田組も、特定抗争指定された。これは、10月に岡山市の理髪店で、散髪中の池田組の組長が襲われ、六代目山口組系の組員が逮捕されるなど、抗争事件が相次いでいるからだ。愛知県、三重県、兵庫県、岡山県の公安委員会は、今年3月までの”指定”を決定した。

「特定抗争指定暴力団」でどうなる?

暴力団対策法に基づき、各都道府県の公安委員会から、特定抗争指定されると、暴力団の活動は大幅に制限され、警察はより厳しく取り締まりができる。指定された組織は、互いの事務所の周囲をうろつくことが出来ないほか、組織の主要拠点がある地域が「警戒区域」に設定される。

池田組をめぐる抗争事件では、暴対法に基づき意見聴取が行われた(去年11月30日) OHK放送より
池田組をめぐる抗争事件では、暴対法に基づき意見聴取が行われた(去年11月30日) OHK放送より

「警戒区域」では、構成員が概ね5人以上集まることや、既に存在する事務所に立ち入ることが禁じられ、新たに事務所を設置することも出来ない。違反した場合、警察は逮捕することができる。期間は最長3ヶ月だが、引き続き危険の恐れがある場合、公安委員会の判断で何度でも延長される

「身動きがとれない」「スマホ機種変できない」

六代目山口組トップの司忍こと篠田健市組長と高山清司若頭の出身母体であり、事実上山口組を支配している弘道会。今回、弘道会系の幹部を取材することができた。

この幹部によると、特定抗争指定をされると、「身動きがとれない」という。しかし、「人数を抑えたり、警戒区域外で集まったり、事務所は連絡所として使って、電話を転送したり、携帯で連絡を取り合う」と、”指定”の網の目をくぐって、活動を続けることは可能だという。

去年も、対立抗争から、暴力団幹部宅への銃撃や車が突っ込むなどの事件が相次いだ(大阪・豊中市)
去年も、対立抗争から、暴力団幹部宅への銃撃や車が突っ込むなどの事件が相次いだ(大阪・豊中市)

そこまでして「なぜ抗争を止められないのか?」と質問したところ、この幹部は「出て行った人をヤクザとして認めていないから抗争ではない」と反論した上で、「けじめをつけるまで終われない。ヤルところまで、ヤルと思う」と強調した。

けじめとは「神戸山口組を解散させる」ことだという。一方で、「上の意をくむのが仕事だから指示があるわけではない」とも付け加えた。

去年も、対立抗争から、暴力団幹部宅への銃撃や車が突っ込むなどの事件が相次いだ(神戸市)
去年も、対立抗争から、暴力団幹部宅への銃撃や車が突っ込むなどの事件が相次いだ(神戸市)

一方、神戸山口組二次団体の幹部は、取材に対して、「実際、士気は、低くなっている」とした上で「ヤクザをやっている以上親分を守るのが使命で、親分の意向についていくだけ」と話した。

ただ抗争について聞くと「抗争というけど、戦っているわけではない。一方的に攻められている。こちらは、『返し』はしない方針だから」と説明した。また特定抗争指定については「指定されると事務所も使えないし、携帯の機種変更だってままならず、実際、不便なことが多い」と苦しい胸の内を明かした。

神戸山口組の直系組織だった「侠友会」が解散

そんな中、もともと”分裂”騒動以降、神戸山口組の中核を担ってきた兵庫県・淡路島を拠点とする「侠友会」が解散届を提出した。去年12月、指定暴力団稲川会幹部などの仲裁のもとで、侠友会トップの寺岡修会長が、六代目山口組の高山清司若頭に正式に謝罪したという。

解散となった侠友会の構成員の一部は、六代目山口組に合流。今後も、暴力団としての活動を続けるとみられる。しかし、会長らは、暴力団としての活動をやめて、いわゆる”カタギ”になるとされる。

六代目山口組・篠田建市組長
六代目山口組・篠田建市組長
六代目山口組・高山清司若頭
六代目山口組・高山清司若頭

「解散届」を受けて、侠友会会長が住む地域については、特定抗争指定から外れるなど、警戒区域が見直されることになる。

捜査関係者によると、神戸山口組の中にも、六代目山口組に対して、”和解派”と”抗戦派”で、意見が分かれているという。侠友会解散の背景には、この対立が見え隠れする。中核組織の解散を受けて、神戸山口組の今年の動向に注目が集まる。とは言え、警察当局には、要らぬ”対立抗争”の鎮圧に向けた努力が求められる。

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社会部
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