自民・公明両党が2023年度の与党税制改正大綱を決定。防衛費増額について、増税による1兆円強の財源確保を明記したが、党内の強い反発を受け導入時期などの具体的な議論は来年へ先送りした。

BSフジLIVE「プライムニュース」では、いち早く異論を訴えた高市経済安保相、櫻井よしこ氏を迎え、日本の危機管理を検証した。

特定重要物資に半導体など11分野を指定、外部依存からの脱却へ

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新美有加キャスター:
政府は経済安全保障を強化するため、安定供給に向けた支援を行う特定重要物資として半導体、蓄電池、重要鉱物、抗菌薬など11の分野を指定。これらを指定した理由は。

高市早苗 経済安保相:
国民の生存・生活・経済に重大な影響がある物資の中で、外部に過度に依存していたり、依存する恐れや供給途絶の可能性があるものを重点的に選んだ。例えば半導体は外部依存度が79%。蓄電池や永久磁石に必要となるレアアースは全量外部依存。だが、南鳥島近くのEEZ(排他的経済水域)に産業用としても数百年使える量のレアアースがある。ずっと実用のための実証実験を続け、技術的には進んでいる。精錬能力も強化し、国内でレアアースを調達しようという考え。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
海にある我が国のレアアースは、中国と異なり採ることで環境汚染を起こさない。だが経済原理が優先され、世界全体が安くて便利な中国のレアアースに依存している。開発にお金がかかり技術的にも難しい中、日本に政治のイニシアチブが出てきたことは嬉しい。だが時間がかかりすぎている。

高市早苗 経済安保相:
新型コロナウイルス感染症で物資が足りず、生存に関わるサプライチェーンへの意識が共有されるようになった。日本の優れた技術が他国に持ち出され、武器に流用されて私たちを狙うかも、という危機感も出てきた。産学官で開発するための「経済安全保障重要技術育成プログラム」も始まった。一気に進み始めたところ。

セキュリティ・クリアランスは世界標準。人権侵害ではない

新美有加キャスター:
国家安全保障戦略には「セキュリティ・クリアランスを含む情報保全の強化」が明記された。これは、機密情報へのアクセスを一部の政府職員や民間の研究者・技術者に限定する仕組み。最先端技術に関する機密情報に触れる関係者に資格を付与して触れられる人を明確にし、情報の国外流出を防ぐ狙いがあるとされる。

高市早苗 経済安保相:
セキュリティ・クリアランスの重要性について総理にお話をさせていただいた。現在は特定秘密保護法に基づくもの、防衛・外交・スパイ活動・テロの4分野のみ。だが日本以外のG7の国などには、産業版セキュリティ・クリアランス制度がある。これがなければ、友好国が政府調達において民間企業に何か発注するとき、日本企業が入りにくい。共同研究もしにくい。絶対に急いで作らなければ。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長
櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
重要な機微情報を共有する人物が本当に信用できるのか。思想信条や家族の背景、友人関係も含めきちんとしたクリアランスが必要だが、人権侵害になるという誤った解釈がある。特定秘密保護法のときも、メディアで「酒場で上司の悪口を言っただけで逮捕される」など信じられない話が飛び交った。そんなことは起きていない。だが検証もなされず、一過性の議論に振り回され、日本人は世界の標準に追いつけず国益を失っている。

高市早苗 経済安保相:
特定秘密保護法も別に強制ではない。官僚の方々はいろんな身辺調査を受けるが、受けたくない人は拒否してもいい。民間企業も機微な情報を扱う上で従業員のチェックをしたいが、人権問題になることへの恐れがある。だから重要技術情報取扱資格という形で、国が法的な裏付けをつくる必要がある。

反町理キャスター:
高市さんは以前、通常国会にその法案を提出したいと言っていたが。

高市早苗 経済安保相:
今の作業状況では、通常国会にとは言い切れない状況。日本で制度を作るとき、海外の基準と全然異なっていては元も子もない。そこで各国の制度を調べるのに時間がかかった。だが総理にも十分なご理解をいただいた。時期については、これから一生懸命がんばる。

防衛増税に異論の高市氏「まず賃上げを」「総理は正直者」

新美有加キャスター:
防衛増税について、岸田総理の発言を受けた高市さんは「総理の真意が理解出来ません」「一定の覚悟を持って申し上げている」「罷免されるということであれば仕方ない」。その後、「来年もう一度議論ができることは大変ありがたい」とトーンダウンしたように見える。

高市早苗 経済安保相:
閣僚懇親会で10分間、総理と話すことができた。「2024年度以降の財源の問題なら、賃上げなどで景気がよくなりつつあるかを見定めた後で指示するのがよかったのでは。このタイミングで増税と言えば、企業の賃上げマインドがしぼんでしまうのでは」とご説明した。総理は「先のことでも安定財源が必要ならば、負担の必要があることを国民の皆様に率直にお伝えすべきと考えた」と。正直者なんでしょうね。

高市早苗 経済安保相
高市早苗 経済安保相

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
台湾・尖閣・日本はすでに中国のターゲットで、いつやるかというだけの話になっている中、軍事力について「お金がこれしかないからここまで」という財務省の発想はタブー。防衛3文書はものすごく良かったが、財源の点で財務省の路線に岸田さんが乗ってしまっているのが残念。反対意見に耳を傾け、修正を加えていくべき。

反町理キャスター:
現状のお話では、自民党が財政規律派と積極財政派で二分されているように見える。

高市早苗 経済安保相:
自民党はいつもそうやって議論してきた。必ず知恵を出し合って落としどころを作る政党だと思っている。今回、防衛力強化の内容・規模・財源の3つについて、国会でも自民党でも忌憚なく議論をしていただくのがいい。ただ、いろんな取り組みで税収が増え、そこから財源が出てくることも選択肢として考えなければ。議論が活発化するのは2023年でしょう。

高市氏は非核三原則の「持ち込ませず」に疑問。アメリカの核抑止力は?

新美有加キャスター:
先日改正された安保3文書は、外交や防衛政策などの基本方針を示す国家安全保障戦略、他国による侵攻から日本を守る方策を示した国家防衛戦略、今後10年間に配備する自衛隊の機材や人員などの目標を掲げた防衛力整備計画の3つ。ポイントは、国家安全保障戦略と国家防衛戦略に明記された反撃能力の保有。また、2027年度に防衛費と関連費合わせGDPの2%に引き上げるとしたことなど。この評価は。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
現行憲法を超えて新しい解釈に至ったと感じるところがある。例えば、中国とは書いていないが「強力な軍事能力を持つ主体が、他国に脅威を直接及ぼす意思をいつ持つに至るかを正確に判断するのは困難」とある。だから主体の意思ではなく、能力に注目して対応するのが反撃能力だと。我が国の憲法前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とあるが、事実上これを超えた中身が入っていると私は解釈している。

反町理キャスター:
それは、政府方針が憲法に違反するという理解になる?

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
憲法は国民を守ることが一番の目的。日本は中国・ロシア・北朝鮮という核とミサイルを持つ独裁政権の国々に囲まれている。憲法改正ができていないながらも、この危険な状況に置かれている日本は、国の責任として国民を守るために対処しようという精神。違反するとは言えない。

高市早苗 経済安保相:
相手国からの攻撃への反撃として相手の基地を叩くことは、現行憲法上も法理的に問題ない、という政府の答弁が大昔に出ている。反撃能力は十分、自衛の範囲内として読める。今回、技術力・情報力という言葉が入った。一義的な責任は自国にあり、その上で同盟国の支援を受けるということもはっきりしている。能動的サイバー防御という言葉も入った。防衛装備移転3原則の見直し、経済安全保障も初めて入った。自民党が掲げてきた公約、4月の自民党提言で申し上げたことを非常にうまく取り込んでいただいた。

反町理キャスター:
日本を取り巻く安全保障の環境を見たとき、「専守防衛」という言葉に我々はどこまでこだわるべきか。

高市早苗 経済安保相:
内閣に大変強いこだわりがあって入った言葉だと聞く。閣議決定の3日前に届いた文章を読み、その上で政府と何度かやりとりした。「専守防衛」はもう古くないかと申し上げたが、これはしっかり入れたいと。あと非核三原則。日本は核不拡散条約を批准しており、「持たず」「つくらず」は当然。だが「持ち込ませず」については、アメリカの核抑止力をどう考えるのかと。「非核三原則を堅持する」が入ることは了解できないというやりとりがあった。だが「核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の抑止拡大が不可欠」との文言が入ったので、現実的に捉えているものとして閣議署名をした。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
専守防衛とは守るということ。例えば、ゼレンスキー大統領とウクライナ国民には敬意を表するが、ウクライナ最大の失敗はそもそも戦争を始めさせてしまったこと。では戦争をさせない、しないためにどうするか。最終的には軍事力が抑止力となり、戦争させない力になる。きちんと国を守るという意味で、精神において専守防衛は全然外れていない。整合性は正しくとれる。

(BSフジLIVE「プライムニュース」12月20日放送)