岸田首相は11月17日、中国の習近平国家主席との首脳会談に臨んだ。経済や安全保障をめぐり日中関係が厳しい状況にある一方、2022年は国交正常化から50年の節目を迎える。BSフジLIVE「プライムニュース」では会談から見えた中国の本音を読み解き、日本がとるべき対応を議論した。

“微笑み外交”中国の狙いはとにかく緊張緩和

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長野美郷キャスター:
今回の日中首脳会談は、対面形式では2019年12月の安倍政権以来3年ぶり。外務省の発表では、台湾情勢、尖閣など東シナ海情勢、日中経済、ウクライナ情勢、北朝鮮問題、国交正常化50年の日中関係などが議題に。岸田総理は「手応えは充分感じている」「対話に向けて良いスタートをきれた」と述べたが、一番の成果は。

興梠一郎 神田外語大学教授:
中国側はとにかく緊張緩和。具体的なことは決まらなくていい。習主席が3期目に入った途端に株価が暴落し、国際的に、特に西側で好意的に見られていない。孤立したイメージがあり、まずいとわかっている。そこでアメリカ、オランダ、オーストラリアなどと次々に満面の笑みで会談した。だが変わらず尖閣には来るだろうし、それは別問題。

柯隆(か・りゅう) 東京財団政策研究所 主席研究員:
明らかに変わったのは、今までの「戦狼外交」の転換。安倍元総理が北京で習主席と握手したときは双方笑わなかった。あのままでは孤立するとして転換した。ただ気になったのが、岸田総理の「主張すべきは主張し」。我々中国人は「主張したって取れない場合は多い」と考える。取るべきものは取る、あげるものはあげるというディールの考え方に切り替え、もう少し具体的に話さなければ。

小野寺五典 元防衛大臣 自民党安全保障調査会長:
今回中国側は、岸田総理が何を表明したとか、日本側は台湾問題についてどう言ったと発表している。普通は、相手国が何を言ったかを表に言わないもの。だが、日本が中国に対してかなり近い気持ちを持ち、いい関係でいくことになるだろうという表現をしている。この意図、一つは中国側が今回の会談はいい雰囲気でうまくいったとしたい。もう一つ、そういう形で台湾問題も一定のソフトランディングをさせたいのだと感じる。

人民日報の報道 日中首脳会談は紙面の一番下に
人民日報の報道 日中首脳会談は紙面の一番下に

反町理キャスター:
人民日報の報道ぶり。習主席のバンコク到着、次にフィリピンのマルコス大統領の写真が載り、シンガポールのシェンロン首相、岸田さんは一番下。日中首脳会談の評価はどうか。中国政府の意向がにじみ出ているのでは? 

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
人民日報は時々忖度して間違った配置をしたりもするから、こういうこともあるという程度で受け止めた方が無難。むしろ中身に注目しなければ。

興梠一郎 神田外語大学教授
興梠一郎 神田外語大学教授

興梠一郎 神田外語大学教授:
今回習主席は相当いろんな国と会った。最初にアメリカと3時間会談し笑顔で緊張緩和、ここで基調が決まった。関係が悪いオーストラリアも会談に乗ってきた。オランダや韓国などと会い、最後の方に日本。近場で経済的にも一番影響力があり、しかし矛盾も一番多い存在として、ある意味で日本のことは気にしている。

「内戦はまだ継続中」が中国の考え方

長野美郷キャスター:
台湾情勢についての両首脳の発言。日本政府は、岸田総理が「台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて強調した」と発表。中国外務省は、習主席が「両国関係の政治的基盤と信義に関わり約束を守るべき」「中国の内政に干渉することは許さない」と述べたと発表。習主席の姿勢は。

興梠一郎 神田外語大学教授:
いつもの言い方。日本側も、日米がいつも言っていること。完全にずれているが、特に目新しいことではない。

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員
柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
中国にとって台湾は核心的という認識だが、台湾問題は日中でなく米中の問題。党大会で習主席がはっきり述べたのが、台湾に軍事行動をとる場合の2条件。一つは、可能性は低いが、台湾による独立宣言。もう一つが外国勢力の介入。日本は介入しないと思うのでやはりアメリカ。米中は3時間以上に渡り会談し、その話にほぼカタをつけたのでは。

反町理キャスター:
米中会談でバイデン大統領は「アメリカの『一つの中国』政策は変わっていない」。アメリカの政治家の台湾訪問自体は違法ではないが、これも外国勢力による介入と見るのか。

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
本質的な話は米中お互いの時間稼ぎ。アメリカは台湾との武器の共同生産なども議論し、軍事援助もしている。中国は中国でもっと軍事力を強化すると。競争しながら最後はどう判断するか、国力の対比になる。少なくとも今は、台湾に対する軍事行動は得策でないと見ている。

反町理キャスター:
習主席の言う「台湾は中国の核心的利益の核心でレッドライン」の意味は。

興梠一郎 神田外語大学教授:
習主席はこうした言葉が好き。絶対譲らないライン。例えば、ペロシ下院議長の訪台はレッドラインすれすれと理解している。中国が嫌がるのは、他のヨーロッパの国々もこれに追従し台湾を応援する国が出てきて、2つの中国という雰囲気ができていくこと。彼らの考え方では、まだ内戦は終わっていない。アメリカが便宜上、台湾海峡に引いたデービス線も中国は一切認めていない。見た目は戦争に見えないが、本当は戦争進行中と考えた方がいい。

小野寺五典 元防衛大臣 自民党安全保障調査会長
小野寺五典 元防衛大臣 自民党安全保障調査会長

反町理キャスター:
小野寺さん、台湾有事は台湾有事だけで留まる話か。

小野寺五典 元防衛大臣 自民党安全保障調査会長:
安倍元総理がおっしゃったように、台湾有事は日本の有事に大きく影響する。日本の与那国島は約100キロしか離れておらず、間違いなく戦域に組み込まれてしまう。ましてアメリカが台湾の支援を行うとなれば、支援を求められた場合に日本はどう対応するか。覚悟と備えをしなければ。

力を強め尖閣を脅かす中国海警 日本の海保と自衛隊の対応は

長野美郷キャスター:
尖閣諸島をめぐる日中首脳の発言。日本政府は、岸田総理が「軍事的活動は深刻な懸念」と述べたと発表。中国外務省は、習主席が「政治の知恵と責任で意見の相違を適切に管理すべき」と述べたと発表。また、両国はともに防衛当局間のホットライン運用や安保対話などの強化で一致したとしている。

興梠一郎 神田外語大学教授:
中国側は、紛争などにならないよう管理しようという言い方。だが、管理とはお互いが共有していること。全然意味がない。

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
中国の立場に立てばかなり控えめな表現。固有の領土と言わず、紛争であることは認めている。あとは衝突をどう避けるか。この問題で日本と対立したくない。首脳同士もそうだが、両政府の担当者ベースでもう少し詰めてルール化していかなければ。

興梠一郎 神田外語大学教授:
日本側はもともと領土紛争はないと言っており、当然受け入れない。中国海警局の公船が海域に来なければいいだけの話だが、今後も来るだろう。しかも人民解放軍の支配下に入り、海軍の人間がトップになっている。中国は緩和した雰囲気をつくるが動きは止めない可能性がある。

反町理キャスター:
中国の海警が数年前に軍の下部組織になったが、日本でも類似した動きがあると。

小野寺五典 元防衛大臣 自民党安全保障調査会長:
1~2年議論している。やはり海上保安庁と海上自衛隊はそれぞれ役割が異なり、法的にも中国とは事情が違う。シームレスに対応できるようにという点は自民党内でも共通認識だが、法改正で海上保安庁に軍としての性格を持たせた方がいいという考えと、警察権で対応した方がいいという考えがあり、議論している。

日中経済関係と経済安全保障のギャップのとらえ方

長野美郷キャスター:
両国経済についての発表。日本政府は、岸田総理が「中国が国際ルールの下で国際社会に前向きな貢献を行うことを期待」と述べたと発表。中国外務省は習主席が「両国は経済の相互依存度が非常に高い。相互補完と互恵を実現すべき」と述べたと発表。習主席は日本との経済関係の構築に前向きと見えるが。

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
実際期待していると思う。今大きく経済が減速している中国が日本に期待するのは技術で、対中投資をそのまま続けてほしい。また、日本国内で経済安全保障の問題がクローズアップされている。明らかに中国を封じ込めるための枠組みで、やめてほしいと。

反町理キャスター:
経済安全保障の観点から見たとき、日中の経済交流の促進は経済安全保障に抵触しないか。

小野寺五典 元防衛大臣 自民党安全保障調査会長:
交流は大事だが、日本の安全保障や国民生活に決定的に影響が出るもの、例えば薬を作るための原薬などを最低限自給できるように選んでいくのが、経済安全保障の考え方。また知財を含め、日本の技術として保つ必要があるものが外に出ないよう確保しようという考え方。

興梠一郎 神田外語大学教授:
内閣府が出した報告書では、日本の「集中的供給財」(輸入先上位1位の国でシェアが5割以上を占める財)での中国に対する依存度は、ドイツよりも高いとされている。真剣に考えなければ。また、経済関係と安全保障のずれの調整がものすごく難しい。

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
安全保障の問題がなければ、日中の産業構造はとても補完性が高く協力しやすい。日本のハイテク技術の高さと、中国の大きなマーケット、安い人件費。だが今までの経緯で信頼が崩れた。重要なポイントは、日本はゼロチャイナではなくウィズチャイナをどうするかということ。コロナと同じ。日本の生命線は何か、もう一度日本人自身が考えなければいけない。

(BSフジLIVE「プライムニュース」11月18日放送)