福岡市で2021年6月、高齢の両親を殺害し、遺体を冷蔵庫に遺棄した罪に問われている男の初公判が開かれ、男は起訴内容を認めた。
高齢の両親を業務用冷蔵庫に…60歳男の初公判
12月14日、福岡地裁。しっかりとした足取りで入廷してきた黒縁メガネの男に、裁判長が問いかける。
福岡地裁(2022年12月14日)
裁判長:
名前は?
松本淳二被告:
松本淳二です
裁判長:
職業は?
松本淳二被告:
無職です
両親を殺害し、遺体を遺棄した罪に問われている、松本淳二被告(60)。
事件が発覚したのは、2021年6月。福岡市西区横浜にある元酒店だった住宅で、松本博和さん(当時88歳)と妻の満喜枝さん(当時87歳)の遺体が発見された。遺体が見つかったのは、酒店で使用していた業務用冷蔵庫の中。電源は入っておらず、テープで目張りされていたという。
両親と同居していた次男の松本被告は、遺体発見当時、行方がわからなくなっていたが、それから5日後、事件は急展開を見せる。
警察が、逃走していた松本被告を死体遺棄の疑いで逮捕したのだ。
捜査関係者によると、松本被告は両親の遺体を遺棄したあと、電車を利用して岩手県まで移動。その後、京都府まで南下する、実に2,300kmに及ぶ逃走劇の末、潜伏先だった京都市のホテルにいたところを捜査員が発見した。
松本被告は、父親の博和さんの首を電気コードで絞めて殺害し、遺体を業務用冷蔵庫に遺棄したほか、母の満喜枝さんについても、首を絞めたうえで冷蔵庫に閉じ込め、窒息死させた罪で、その後、起訴された。
そして迎えた、裁判員裁判の初公判。
罪状認否で松本被告は、「間違いありません」と、はっきりとした声で起訴内容を認めた。
30年以上ほぼ無職…引きこもり生活で“友達なし”
なぜ、松本被告は凶行に及んだのか?事件の背景について、検察側は次のように指摘した。
検察(取材メモより):
被告人は大学中退後、30年以上は、ほぼ無職の状態を続けていた。引きこもりがちの生活を送る一方、アニメを見るなどの趣味を過ごす時間を大切にしていた
検察(取材メモより):
2021年初頭から父親は認知症を発症。母親が腰椎骨折をした。いっそ死んでくれと思うようになった。父親からトイレの介助を初めて頼まれた際、鬱積した苛立ちが爆発して殺害に至った。父親の殺害を目撃した母親についても、口封じのため殺害した。介護疲れと呼べるものではなく、同情すべき点はない
検察側は、このように松本被告を断罪。さらに検察側は事件後、松本被告が自宅に訪れた介護支援センターの職員に対して「両親はいなくなっている」「行き先はわからない」「警察への相談はまだ様子を見たい」などと語り、隠ぺい工作をしていたと指摘した。
一方、弁護側は「被告人は孤独を選ぶ人格障害があり、被告人の行動と障害には関連性がある」「事件の背景や遺族心情を考慮して量刑を判断してほしい」と主張した。
午後からは被告人質問が行われ、35年間続いた松本被告の引きこもり生活の実態が語られた。
福岡地裁(弁護側による被告人質問)
弁護側:
月々の小遣いはいくら?
松本淳二被告:
もともと3万円、最近は1万円くらい
弁護側:
35年間ずっとその生活?
松本淳二被告:
ほぼ、そんな感じ
弁護側:
部屋で何をしていた?
松本淳二被告:
漫画を読んだり、テレビやDVD観たり
弁護側:
友人と出かけることは?
松本淳二被告:
ない
弁護側:
35年間、1度も?
松本淳二被告:
ない
弁護側:
仲良い友達は?
松本淳二被告:
いない
弁護側:
35年間、1度も母親以外と会話なし?
松本淳二被告:
はい
弁護側:
35年間、父親との会話はほとんどない?
松本淳二被告:
会話と呼べるようなものはなかった
さらに松本被告は、両親を殺害したのは「勢い」と語った。
福岡地裁(弁護側による被告人質問)
弁護側:
トイレの介助だけで殺意が?
松本淳二被告:
積もり積もってきたことが爆発した感じです。母の介助で、そもそも手一杯だったので
弁護側:
なぜ殺した?
松本淳二被告:
あの時はブレーキが利かなかった。アクセルを踏み込んでしまって、勢い任せのままというか
弁護側:
両親を殺したら、いまの生活を維持できないと思うけど?
松本淳二被告:
あの時はどうでもいいかな、という気持ちもあった。このまま破綻してもしょうがない
松本被告は、淡々と質問に答え続けた。
判決は、2023年1月6日に予定されている。
(テレビ西日本)