深夜の国分町で、17歳の少年はなぜ命を落としたのか
2024年8月1日午前5時ごろ、仙台・国分町の裏路地で、17歳の男子高校生Aさんが2人の男に暴行を加えられ、倒れた。Aさんはそのまま意識を取り戻すことはなかった。
Aさんは友人4人とラーメン店を出て、帰路につこうとしたときの出来事だった。
検察が法廷で示した構図は、次のように整理されている。
多田康二被告(当時25)がAさんのあご付近を殴打し、Aさんは後頭部から路上に転倒。
続いて佐藤蓮被告(当時26)が、倒れたAさんに対して殴打や蹴りを加えた。
Aさんは、転倒の衝撃によって、急性硬膜下血腫などの頭部損傷が生じ、死亡したとされる。
被告の2人は、こうした罪に問われている。
・多田康二被告:Aさんへの傷害致死
・佐藤蓮被告 :Aさんへの傷害致死、Aさんの友人Bさんへの暴行
事件当時、2人は飲酒していた。
未明の繁華街で、偶然行き交った高校生グループとのあいだで、視線や言葉の受け止め方をめぐる行き違いがあり、その場の緊張が徐々に高まっていったと、検察は説明している。
ただし、どのように緊張が増していったのか、被害者側にどのような意図があったのかについては、証人の証言や防犯カメラ映像などから丁寧に位置づけられることとなる。
初公判 起訴内容と食い違う二人の主張
11月10日午前10時。仙台地裁102号法廷の扉が開くと、静かな緊張がゆっくりと広がった。被告人席には、事件の激しさとは対照的な、落ち着いた装いの2人が座っていた。
グレーのスーツに青いネクタイを締めた多田康二被告と、黒のスーツに長い髪を後ろで束ねた佐藤蓮被告だ。
裁判長が着席し、検察官によって起訴状が読み上げられる。
多田被告は罪状認否が「殴っていない、蹴っていない」と全面否認。
佐藤被告は「倒れたAさんへの暴行はした」と述べながら、致命傷につながった最初の暴行は自分ではないとした。
同じ法廷に並んで座る2人だが、語ろうとする出来事の筋書きは大きく異なる。
その食い違いがすでに、この裁判の難しさを示していた。
高校生たちが証言した“転倒の瞬間”

翌11日、証人としてAさんの友人BさんとCさんが法廷に立った。
彼らは事件当時、高校3年生。深夜のアルバイトを終えてラーメンを食べた直後に、偶然にも、そして不運にも、被告2人の一行と遭遇した。
証言は次のように一致していた。
「半袖、短パンの男が、右の拳でAの左あごをフックのように殴りました」
「Aは受け身を取れず、背中からまっすぐ倒れて、後頭部を打ち付けました」
検察官が証拠調べで示した当時の二人の服装は、黒のキャップを被り、白の半そでシャツと黒の短パンを着用した多田被告の写真と、長袖長ズボンのジャージを着た佐藤被告の写真だった。
友人が示した、最初に暴行を加えた男とは、多田を指していると思われる。
友人の証言は続いた。
Aさんが倒れたとき、「ゴツッ」という音がはっきり聞こえたという。
倒れたAさんは、両手足を数センチ浮かせたまま硬直し、痙攣していたとふたりは証言した。
続けて、佐藤による行為についてもこう述べた。
「倒れているAに向かって『起きろよ』と言いながら殴ったり蹴ったりしていました」
「足の甲でサッカーボールを蹴るような感じでした」
その後、佐藤はBさんにも近づき、左頬を殴った。証人席で語る彼らの声は、その場にいた恐怖と混乱が今も残っていることを静かに示していた。
医学的に裏付けられた“致命傷の原因”

18日には、解剖医が証言台に立った。医師は淡々と、しかし明確に述べた。
「後頭部には線状骨折があった。暴行によってAさんは、びまん性軸索損傷を引き起こした」
「顎には骨折の所見がなく、主な損傷は転倒時の頭部打撲によるものと考えられる」
「受け身を取った形跡はなく、殴られた時点で意識を失っていた可能性がある」
法廷で積み重ねられてきた証言と医学的知見が、同じ一点。
“転倒の瞬間”が致命的だった可能性を指し示していた。
多田被告が語った“自分の記憶”
翌19日、被告人質問で多田被告が証言台に立った。
多田被告は、Aさんと接触があったこと自体は認めた。
「胸ぐらを掴んだり、首を掴んだりしました」
しかし、その一方でこう繰り返した。
「殴っていません。蹴っていません」
転倒については、「Aが倒れる音がして、佐藤が殴ったのだと思いました」とも述べた。
さらに、Aさんに暴行を加えていた佐藤の姿を詳細に語りながら、自分は止められなかったと話した。
「佐藤の剣幕が怖かった。怒り方がいつもと違って、硬直して動けなかった」
ただその反面、多田は佐藤の暴行について、それ以上語りたくないと口を閉ざす場面もあった。多田は最後に小さな声で述べた。
「胸ぐらを掴んだことが、きっかけになってしまい…申し訳ない気持ちです」
しかし、殴打や蹴りについては一貫して否認したままだった。
法廷では、傍聴席に座っていた男性が、「ふざけるなよ、この野郎」と叫ぶように声を上げ、裁判長が退廷を命じる緊迫した一幕もあった。

Aさんの友人が見た“まっすぐ倒れていく姿”、
解剖医が語った“受け身を取れないままの転倒”、そして多田の「殴っていない」という主張。
同じ瞬間を語っているはずなのに、その景色は大きく異なる。
あの夜、国分町で何が起きていたのか。
次の後編では、佐藤被告の被告人質問、量刑論、そして遺族の言葉を追う。
