原爆で親を亡くした夫婦が営むお好み焼き店。昭和の時代から57年にわたり、多くの人に愛されてきた。小麦など材料の物価高騰に直面しながらも、お好み焼きの値段を変えず昔ながらのスタイルを守り続ける思いに迫った。
昭和40年から変わらぬ味と値段
広島市南区比治山本町。路面電車が走る通りから一本入ったところに、お好み焼き店「KAJISAN」はある。
![赤いのれんのお好み焼き店「KAJISAN」](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/1/8/700mw/img_1893c595fda7c09bb897e01b7eb08839244449.jpg)
慣れた手つきでお好み焼きを焼く店主の梶山敏子さん(81)。
![](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/9/c/700mw/img_9cb726a5f59beebc508c67b97feb64e0235620.jpg)
となりに寄り添うのは、懸命に鉄板を磨く夫の昇さん(82)。
![蒸気が立ち昇る熱い鉄板を磨くのは力仕事](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/7/d/700mw/img_7d8d46224baf8da077ac375c156c7f92141657.jpg)
店を始めたのは昭和40年。2023年2月で創業58年を迎える。
![創業当時の店舗の写真が店内に飾られている](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/1/f/700mw/img_1fc8d479dfd03be7dc3eac7efbf64427266038.jpg)
この店の一番人気は「肉玉そばのお好み焼き」1枚500円。昔から変わらない値段と味が自慢だ。
梶山敏子さん:
焼き方やら材料も昔から変わらず。だから「昔懐かしい味じゃ」って言われますわ
![「お好み焼き 肉玉そば」500円](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/1/6/700mw/img_16fffafe314be281068e840405106684250288.jpg)
客:
ワンコインでいいですからね。今どき500円のお好み焼きなんてないですよ
![](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/8/3/700mw/img_83e44b22249a31af971d48db32337643227401.jpg)
戦災孤児の施設で出会い、苦楽を共に
買い出しは夫の昇さんが担当。往復7キロの道のりを自転車で行くのが日課だという。
「いってらっしゃーい。お気をつけて」
![材料の買い出しで妻を支える梶山昇さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/f/9/700mw/img_f93c024dfe15b44072bd8f3371bb9510228880.jpg)
「うちの主人がものすごく協力的なんですよ。夫が協力的じゃなかったら、すぐ店を辞めとる」と笑って話す敏子さん。
![夫婦で協力しながらお好み焼きを焼く](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/9/0/700mw/img_908b979fdf624e5769f97a4001d6d99b204258.jpg)
二人三脚で明るく元気に店を営む梶山さん夫婦。そんな2人の出会いは戦災孤児のための施設だった。
77年前…1945年8月6日。
![77年前、広島市に投下された原子爆弾のキノコ雲](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/4/2/700mw/img_42fdc6cc44ea83f86887fa9cc1436541115566.jpg)
当時4歳だった敏子さんは、爆心地から約1.2キロ離れた現在の西区上天満町で被爆。
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一方、5歳だった昇さんは爆心地から約1.8キロの南区比治山本町で被爆した。
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梶山敏子さん:
ちょうどその日は建物疎開(空襲で火災が広がるのを防ぐために、事前に建物を解体する作業)だったみたいでね。母がどこで亡くなったかは分からない。主人の母も家で爆風によるガラスを浴びて、遺体はトラックで運ばれどこに収容されたか…遺骨もない
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親を原爆で亡くした2人は戦災孤児を支える「子供会」に入会。苦楽を共にし、敏子さんが21歳の時に結婚した。お好み焼き店を始めたのは23歳の時。それから57年間、店を続けてきた。
材料の高騰で「もうやめた方が…」
昼時、店はたくさんの客でにぎわう。
![昼時は小さな店が客でいっぱいに](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/9/e/700mw/img_9e47b933af399974aeb0400aae7debc8273654.jpg)
客:
きのうも来ましたね。4日連続で来ることもありますよ。お好み焼きの味もうまいですけど、おばあちゃんの人柄も含めて最高です
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長年、地域に愛されてきた「KAJISAN」。しかし今、新たな問題が2人を悩ませている。原料の高騰や円安の影響による物価の値上がりである。
![お好み焼きの材料でもある小麦が高騰](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/7/d/700mw/img_7d8bdaa015cc89ae68b5ef220c676a4c241317.jpg)
梶山敏子さん:
持ち帰りの容器代なんか、以前は全然もらってなかったんですよ。だけど、すごく高いんだもんね。丸皿は50円いただいているけど、原価で50円くらいするよ。それに箸と袋もつけて…
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広島経済大学の調査では、2021年9月~2022年8月の1年間で、広島県内の半数近くのお好み焼き店が値上げに踏み切った。そのうち約8割は、政府が輸入小麦の価格を引き上げた2022年4月以降に値上げを実施。今後、値上げを検討している店も多くある。
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敏子さんは「材料の高騰が目まぐるしくて、もうやめた方がいいんかねって思ったこともあります」と胸の内を明かした。
客の温かさが詰まった”募金箱”
夫婦で守り続けてきた1枚500円のお好み焼き。
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値段を変えたくない…その思いを支えているのは「KAJISAN」を愛する客たちだった。店には「かじさん支援金」と書かれた募金箱が置かれている。
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この募金箱は、ある常連客との何気ない会話から生まれた。
梶山敏子さん:
お好み焼きを食べに来ていた常連客に「儲からないし、もうやめてもいい?本当は店が好きだから続けたいけど」という話をしたら、募金箱を作ってくれました
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大好きな場所をなくしたくない…1人の常連客の熱い思いが他の客にも伝わっていった。
客:
これ、ここに置いておきます
そう言って男性客が募金箱の上に置いて帰ったのは、小銭でいっぱいのビニール袋だった。
梶山敏子さん:
ありがとうございます。まあ、すごいわー
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募金した客:
今、物価高騰で苦しいじゃないですか。お互いに苦しい時だから頑張りましょうと
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「ありがたいねって思うんですよ。お好み焼きを食べないのにわざわざ募金のために来てくれる人もいて、びっくりしました」と、敏子さんは募金箱への反響に驚いている。
原爆で親を失い、戦災孤児の苦悩を乗り越えて立ち上げたお好み焼き店。まわりの人々の温かさによって気持ちを新たにした。
梶山敏子さん:
多くの方のお世話になっているからね。金銭的にも、物資的にも、精神的にも。生きている間は値上げせずに頑張ろうと思います
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梶山昇さん:
店が元気の秘訣だね
梶山敏子さん:
これからもぼちぼちと今まで通り、長く細々とやっていきたいですね
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戦後、生活が豊かになるにつれ、肉や麺が乗るようになり…今に至る「広島のお好み焼き」。そこに梶山さん夫婦の思いを重ねた”1枚 500円”が、今日もみんなを笑顔にする。
(テレビ新広島)