10月16日に開幕した中国共産党大会。党の総書記も務める習近平国家主席は、演説で過去5年間の自らの実績を誇示し、「法治国家であることを全面的に推進し、社会主義の先進文化を発展させ、国民の生活を改善させ、脱貧困に力を集中した」と述べた。

ゼロコロナ政策を評価、台湾にけん制も

多くの犠牲者を出した新型コロナについても、事実上のロックダウンを行って徹底的に感染を抑え込む「ゼロコロナ政策」を「感染抑え込みと経済社会発展の大きな成果に導いた」と評価した。

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台湾については「平和統一に最大限努力する」と前置きした上で、「武力を使わないなどとは決して約束せず、必要な一切の措置を取る選択肢は残す。祖国の完全統一は実現しなければならないし、必ずや実現できる」と述べ、強くけん制。

これに対し、台湾総統府の報道官は声明で「台湾の主権は譲歩しない」と反発し、中国との統一に反対する立場を表明し、平和と安定を守るための対等な対話を中国に呼び掛けた。

なぜ? 5年前と比べ短くなった演説

2期10年という慣例を破り、3期目の続投が確実視される習主席の演説に込められた思惑について、中国問題に詳しいジャーナリストの近藤大介氏に聞いた。

Q. 近藤さんは今回の演説を「短い」と感じたとか

ジャーナリスト 近藤大介氏:
習主席のこの10年間の演説は、ほぼ全て見てきました。これまでの最長は前回、5年前の共産党大会で3時間20分しゃべったんです。キューバのカストロ議長のように右手を振り上げて、強烈な演説をぶちました。今年はもっと長いと思っていたのですが、1時間44分で終わったのが意外でした。

Q. 演説が短かった理由について、「3期目が確実なので自信の表れでは」といった声も聞かれたようだが

ジャーナリスト 近藤大介氏:
私もそれはあると思います。非常に余裕を感じました。5年前はとても緊張して緊迫した感じがあったんですが。3期目を確実視して、向かうところ敵なしという余裕があったんだと思います。

「2035年」を重視する習主席の目指すもの

習主席は演説の中で、強国を築くための区切りを「2035年」とした。これについて近藤氏は、「建国の父・毛沢東氏を強く意識したもの」であると指摘する。習主席は2035年に82歳となるが、毛沢東氏は82歳のときに国家主席のまま死去した。

Q. 習主席は自らも“終身国家主席”となることを狙っている?

ジャーナリスト 近藤大介氏:
この10年のスピーチを見ていると、21世紀の毛沢東氏を目指しているんだな、ということが顕著です。今回の演説で習主席は、これからの中国社会は2つのステップで進んでいくと言っています。第1ステップは2035年、第2ステップは21世紀の中ごろで、恐らく2049年の建国100周年を考えているんだと思います。それまでの間にある“2035年”について、習主席は2015年の国連総会からずっと言い続けています。毛沢東氏が共産党主席のまま亡くなった82歳というのを意識しているのではないかと思います。そこまでやりたいんだと。

「台湾問題は中国人が決める」選挙見据えた発言か

そして、台湾については「台湾問題を解決するのは中国人であり、中国人が決める。平和的な統一に最大限努力し取り組むが、武力行使を放棄することはない」と、「武力行使」という言葉を使って強くけん制した。

この発言について、台湾の実質的な総領事にあたる台北駐大阪経済文化弁事処の向明徳処長は「台湾に対する脅威、威嚇を強めている」と危機感を強めている。

武力行使をちらつかせる習主席だが、近藤氏は今回の発言を「台湾の選挙を見据えたもの」とみている。台湾には現在の与党「民進党」と、中国に比較的近い野党「国民党」という2つの大きな政党があり、習主席の脅しともとれる発言の裏には、「親中派の国民党を支持すれば平和的に解決できる」と台湾の人々へ呼び掛ける狙いがあるのでは、ということだ。

Q. 中国の狙いは、ソフトパワーで親中政権を誕生させること?

ジャーナリスト 近藤大介氏:
孫氏の兵法にもあるように、戦わずして勝つのが最大の上策です。台湾では11月26日に統一地方選という、総統選挙に匹敵するような大事な選挙があります。4年前、蔡英文の民進党は22の選挙区で6勝16敗と大敗を喫していて、台北市も台中市も高雄市も取られました。支持率15%まで落ち込み、レームダックと言われた時代がありました。中国はそのときと同じような状況にしたい。今は国民党の広報を応援しながら、どう脅せば台湾2300万の有権者に効くかと考えて発言していると思います。

Q. 国民党が勝った場合、親中政権が誕生して民主主義の一角が崩されることになるが、台湾有事は遠のく可能性がある。日本に住む我々は、どちらの勝利を望めばよいのか?

ジャーナリスト 近藤大介氏:
2024年1月に次期総統選挙があります。そこで国民党が勝つと、中国と台湾の関係は一時的に収まると思います。むしろ日本が気を付けなければいけないのは、中国と台湾が手を組むこと。例えば、中国と台湾が組んで尖閣諸島を取りにくるとか、そういったことが前にもあったんです。逆に、選挙で民進党の蔡英文総統の後継者が勝つと、中国と台湾の関係は荒れ出すと思います。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年10月17日放送)

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