旧統一教会=世界平和統一家庭連合から派生しつつも、対立している宗教団体がある。創設者・文鮮明(ムン・ソンミョン)氏と、妻の韓鶴子(ハン・ハクチャ)氏の7男・文亨進(ムン・ヒョンジン、通称:ショーン)氏がアメリカで立ち上げた、「サンクチュアリ教会」という教団だ。文鮮明氏の死後、亨進氏は自身が正当な後継者だと主張したものの、韓鶴子氏が教団トップに就いたという経緯があり、対立しているのだ。

FNNは一連の旧統一教会をめぐる問題を受け、文亨進氏への単独インタビューを行った。その中で、亨進氏は母親を「悪魔」と呼ぶなど対立関係を明らかにしたほか、「宗教と政治の関係」についても語った。

黄金のライフルと“銃弾”の冠

今回取材したのは、「サンクチュアリ教会」が主催する年1回の大規模イベント。会場は、教団の本拠地があるペンシルベニア州北部にある亨進氏の兄が経営する銃器メーカーの敷地だ。会場には、いくつものテントが並んでいた。中にはフードトラックもあり、一見するとアメリカ郊外でよく見る「地元のお祭り」のようだ。しかし、テントを一つずつ見て回ると、銃の関連商品、さらにはライフルが何丁も並んでいるブースもあり、ライフルの射撃体験ができる場所も用意されていた。

イベントには射撃体験ができるコーナーも
イベントには射撃体験ができるコーナーも
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サンクチュアリ教会の教義では、銃を持つ権利を強く主張している。メインステージに登壇した文亨進氏は、黄金のライフルを抱え、黄金の冠を頭につけていた。冠には銃弾の形をしたものが、ぐるりと取り囲んでいる。

この冠がどうしても気になり、単独インタビューの際に聞いてみた。

――冠についているものは、本物の銃弾ですか?

文亨進氏:
使用済みの“薬きょう”で、中に火薬は入っていません。これはアメリカ合衆国憲法修正第二条を、「楽しく祝福」するためのものだ。賛否両論はあると思うけれど。

冠を取り囲んでいるものには火薬がない、「薬きょう」だという
冠を取り囲んでいるものには火薬がない、「薬きょう」だという

「アメリカ合衆国憲法修正第二条」とは、武器保有の権利を認めたものだが、その解釈は政治理念により異なり、論争が続いていて、州によって銃の購入のハードルは様々だ。銃規制の世論が高まる中でも、サンクチュアリ教会は、銃、特に「AR15」と呼ばれるライフルを所有する権利を重要視している。

――米国では多くの人が犠牲となる銃乱射事件が相次ぎ、バイデン政権は銃規制を政策として掲げているが?

文亨進氏:
それは悪魔のような政策だ。武器を持つ権利は人間が自然に持つ権利であり、神から与えられたものだ。政府から与えられた権利ではない。

亨進氏は、銃を持つ権利は人間の「自然権」であると繰り返したほか、銃規制では乱射事件を防ぐことができないとの持論を展開した。同じく銃規制に反対しているNRA=全米ライフル協会も、今回のイベントに出展していた。

母・韓鶴子氏は「サタン(悪魔)だ」

安倍元首相殺害事件以降の、「旧統一教会」をめぐる日本での議論についても聞いた。

――サンクチュアリ教会とは別教団ではあるがお尋ねする。山上容疑者は、母親が「旧統一教会」に多額の献金をしていたと供述したことが問題となっているが?

文亨進氏: 
まず、安倍氏は共産主義と戦った素晴らしいヒーローだ。事件の詳細については、係争中だと思うので、詳細はよく知らない。(中略)一方で、事件を起こした人が責任を負うべきで、団体によって殺されたわけではない

――日本で問題になっているのは「過度の献金」によるトラブルで、献金の負担に苦しんでいる人もいる。もしあなたが父親の文鮮明氏から教団を引き継いでいたら、そのようなトラブルは起きなかったと思うか?

文亨進氏:
今の旧統一教会は、母親が父のポジションについたことで、正反対の方向に進んでいる。(中略)旧統一教会は神の祝福を受けていない。なぜならサタン(悪魔)に乗っ取られたからだ

母親の韓鶴子氏を「サタン」と呼んだほか、その後も「旧統一教会は呪われている」「宗教的に異端だ」と批判を繰り返した。しかし、「韓鶴子氏ではなく、あなたが旧統一教会を率いていればトラブルが起きなかったのか」「日本で起きているトラブルや批判は何が原因なのか」など、何度も尋ねたが、その点についての具体的な返答はなく、父の文鮮明氏がいかに共産主義と戦ったか、などの持論の展開に終始した。

FNNの単独インタビューに応じる文亨進氏
FNNの単独インタビューに応じる文亨進氏

イベント参加者に話を聞いたが、複数の信者が「サンクチュアリ教会では献金を強制されていない」と話した。一方で「ほかの人がこれだけ献金を出しているのに出さないのか、という目で周囲から見られることもあるだろうし、問題が全くないわけではないと思う。どの宗教でも起こりうる」という声も聞かれた。

「2世信者」や「元統一教会の日本人信者」も多数

イベント会場に訪れた人々を取材して、意外だと感じたことがある。「若い世代がいる」ということと、「日本語を話す人も多い」ということだった。

赤ちゃんを抱える女性は「私は親が旧統一教会の信者で、“2世信者”。なぜサンクチュアリ教会に入ったかというと、亨進氏が正当な後継者であり、キングだから。母親の韓鶴子氏は正当ではない」と話した。

また、「かつて統一教会の合同結婚式で結婚した」という日本人男性(米国在住)、「合同結婚式で日本人女性と結婚した」というアメリカ人男性もいた。こうした元統一教会信者が、のちにサンクチュアリ教会に“移った”のは、亨進氏が“正統な後継者だから”という理由によるものとのことだった。

ちなみに、サンクチュアリ教会では合同結婚式を行っていないという。夫婦のマッチングは文鮮明氏が行うもので、亨進氏は行わないのだそうだ。ただ、結婚が決まった、もしくは結婚をした夫婦を祝福するセレモニーは行われていて、白いドレスを着た女性と黒いスーツを着た男性らが出席していた。そこでも文亨進氏や出席者がライフル銃を携行する場面があった。

サンクチュアリ教会の儀式 ここでもライフルが登場する場面がある(教団のYouTubeより)
サンクチュアリ教会の儀式 ここでもライフルが登場する場面がある(教団のYouTubeより)

「宗教は政治に関与すべき」と主張

日本では、旧統一教会と政治との関わりが問題となっていることも質問した。

文亨進氏: 
アメリカを含む多くの国で起きていることだが、政治家も宗教団体も「政教分離」を本当の意味で理解していない。「政教分離」とは、国家が宗教を強制してはいけないということであり、宗教家が政治に参加したり、政治家と話してはいけないということではない。牧師は当然、政治に関与すべきだ。なぜなら、悪い人たちがキリスト教の価値観を破壊するからだ。

母・韓鶴子総裁を「悪魔」と呼びながらも、宗教は政治に関与していくべきだ、と主張した亨進氏。その政治観は、銃所持、反LGBTなど様々な事柄について、かなりの「右派」であると言ってよいだろう。

文亨進氏
文亨進氏

トランプ・サポーターと思いきや…微妙な関係?

上記の主張から、トランプ前大統領を文句なしに支持しているだろう、と、私はインタビュー前に予想していた。現にイベント会場には「トランプ」と書かれた旗は数多くあったし、写真つきTシャツも販売されていた。さらに演説者として、トランプ政権でアドバイザーを務めていた人物も登壇していた。さらに、文亨進氏自身も、2021年1月の議会襲撃事件の日、首都ワシントンでのデモに参加し、「バイデン氏が勝利した2020年の大統領選は不正だ」というトランプ氏の主張に賛同している。

しかし話を聞いてみると、トランプ氏の主張では物足りないということがわかった。

――信者はトランプ氏を支持しているようですが?

文亨進氏: 
私たちはトランプ氏のワクチン政策を支持していない。彼は大統領としてワクチン接種を推奨した。ワクチン推奨は共産国家のようで、異常なことだ。(中略)しかし、一般的に言えば、トランプ氏はワシントンの腐敗に目を向け、よく戦ったと思う

イベント会場にはトランプ氏を支持する旗が多数
イベント会場にはトランプ氏を支持する旗が多数

パンデミック開始以降、2020年から21年にかけて、どちらかというと共和党支持者がマスクやワクチンに抵抗があったのは事実だ。しかしそれでも、会場の雰囲気からして、多くの信者がトランプ氏を支持しているように見えていたため、この回答はいささか意外であった。

サンクチュアリ教会のトップ文亨進氏は、父親の文鮮明氏と同じく「反共産」を掲げているが、その度合いは父親のそれ以上かもしれない。さらに、母親を「悪魔」と評し、旧統一教会を批判しながらも、「安倍氏の殺害の責任は教団にはない」と述べたほか、「宗教は政治との関わりを持つべきだ」とも語っている。今後もアメリカの政治に積極的に関与していくのは間違いないが、その裾野や影響力が広がっていくのかどうかを注視したい。また、旧統一教会との対立軸がどう変化するのかについても、引き続き取材を続けたいと思う。

【執筆:FNNニューヨーク支局 中川真理子】

中川 眞理子
中川 眞理子

“ニュースの主人公”については、温度感を持ってお伝えできればと思います。
社会部警視庁クラブキャップ。
2023年春まで、FNNニューヨーク支局特派員として、米・大統領選、コロナ禍で分断する米国社会、人種問題などを取材。ウクライナ戦争なども現地リポート。
「プライムニュース・イブニング元フィールドキャスター」として全国の災害現場、米朝首脳会談など取材。警視庁、警察庁担当、拉致問題担当、厚労省担当を歴任。