2024年に多発し国民を震撼させた「闇バイト強盗事件」は、複数の実行役の検挙に至ったものの、首謀者・指示役への捜査に時間がかかっている。匿名性の高いSNSなどを犯罪に悪用する「匿名・流動型犯罪グループ」=“トクリュウ”のトップの検挙が喫緊の課題とされる警察当局は、今秋、大幅な組織改編に踏み出す。

その準備は、過去の組織改編と比べても異例の急ピッチのスピードで進められた。警察幹部は「悪い連中の姿が変わったから、自分たち警察も変わらなくてはいけない」と語るが、“悪い連中”は具体的に、どう変わったのか。

トクリュウ指示役を追う「T3(仮称)」

発足組織改編の大きな柱は以下だ。

①    全国の道府県警警察から、警察官を警視庁に派遣(2026年春までに200人)。おもにトクリュウの指示役検挙につながる捜査に従事(「トクリュウ・取り締まりターゲット・チーム」の各頭文字を取って「T3(仮称)」)

②    警視庁では、暴力団対策や薬物犯罪などを捜査してきた「組織犯罪対策部」=通称「組対(ソタイ)」をなくし、それぞれの課は「刑事部」に統合。特殊詐欺事件を主に捜査する「特別捜査課」を新設。

トクリュウグループ壊滅のため集中・連携して捜査(イメージ)
トクリュウグループ壊滅のため集中・連携して捜査(イメージ)
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①    の「T3」発足の背景は、トクリュウグループの壊滅のためには、各都道府県警ごとの捜査ではなく、集中・連携して捜査することが必要との考えだ。特殊詐欺事件の場合、「受け子」や「出し子」といった容疑者の捜査は、被害者からの申告を受けて、これまでも各警察署ごとに捜査するという“ボトムアップ”型の捜査は従来から行ってきた。

しかし、指示役からはしてみれば、受け子・出し子などの闇バイトは「捕まってもいい」と“使い捨て”にされているため、指示役まで捜査の手が及ばないという実態がある。そこで、指示役の逮捕を目指す「トップダウン型捜査」に特化した捜査チームが「T3」だ。

2003年に発足した「ソタイ部」

②の警視庁「組織犯罪対策部」統合は、暴力団を代表とした犯罪スキームが変わりつつあることが挙げられる。

警視庁刑事部では、殺人や強盗などを担当する捜査1課、詐欺や贈収賄事件を担当する捜査2課、窃盗事件を担当する捜査3課などがある。しかし、そもそも歴史をふりかえれば、1958年に暴力団事件を担当する「捜査4課」が刑事部に発足した。

「組織犯罪対策部」が発足(イメージ)
「組織犯罪対策部」が発足(イメージ)

その後2003年、暴力団・薬物組織・外国人犯罪などの「組織的犯罪」が問題となり、「組織犯罪対策部」が発足。捜査4課は「組織犯罪対策第4課」と名称を変えた(2022年から暴力団対策課に名称変更)。

暴力団による事件は、いわゆる「みかじめ料」や「抗争事件」といった犯罪だけでなく、薬物・銃器取引にも関与が疑われていて、そうした事件を専門的に捜査する「薬物銃器対策課」が同じ「組織犯罪対策部」にあることがメリットとされてきた。

数字上は減少する暴力団員 

トクリュウとの線引きは曖昧に?一方で、暴力団の構成員や準構成員は減少傾向にあり、2024年末には1万8800人と、暴力団対策法施行以降最小となった。ただし、ある捜査幹部は、暴力団員が減ったから暴力団対策の必要性がなくなったというわけではないと話す。

“準暴力団”のような犯罪組織に形を変えていることもあるし、今回対策を強化した“トクリュウ”グループも暴力団とつながりがある可能性もあるという。

実際、ここ数年の暴力団対策課の逮捕会見を見ていると、「特殊詐欺事件」がかなり増えている。「詐欺=刑事部捜査2課」だと思っていた十数年前とは様相が違っている。それだけ、暴力団もしくはその周辺者の犯罪スキームと、トクリュウのスキームとの間に、明確な線引きができなくなってきているということだろう。

「数年後はまた組織変わるのでは」

組織犯罪対策部が刑事部と統合され、暴力団対策課は刑事部に戻り、「刑事部暴力団対策課」となる。このことについて、“4課”経験が長い捜査員は「また元に戻るのかという感じ。さみしさは特にない。刑事部と統合されれば、機動捜査隊のリソースも活用できるのはメリットだ」と語る。

一方で、「犯罪の形が変わるなら組織の形も変えなくてはいけない。多分、また数年後には違う組織の形に変わると思う」と冷静に話していた。

警察組織の改編は通常1年ほど準備期間がかかる(イメージ)
警察組織の改編は通常1年ほど準備期間がかかる(イメージ)

通常、警察組織の改編には1年ほどの準備期間がかかるとされているが、この構想が持ち上がり議論が本格化したのは、遅くとも2025年3月ごろだったという。それだけ急ピッチで進められる組織改編は異例だ。

「悪い連中が変わるなら我々も変わっていかないといけない」(警察幹部)との覚悟が、どこまで実効性のあるものになるのか、注視していく必要がある。
【取材・執筆:フジテレビ社会部警視庁キャップ 中川真理子】

中川 眞理子
中川 眞理子

“ニュースの主人公”については、温度感を持ってお伝えできればと思います。
社会部警視庁クラブキャップ。
2023年春まで、FNNニューヨーク支局特派員として、米・大統領選、コロナ禍で分断する米国社会、人種問題などを取材。ウクライナ戦争なども現地リポート。
「プライムニュース・イブニング元フィールドキャスター」として全国の災害現場、米朝首脳会談など取材。警視庁、警察庁担当、拉致問題担当、厚労省担当を歴任。