今から約20年後の2043年には、日本から「サラリーマン」が消滅する。

国際経営コンサルタントで弁護士の植田統さんは、そう考察する。

今後、日本企業の雇用も「メンバーシップ型雇用」から、経験やスキルを重要視する「ジョブ型雇用」へと変化していくと植田さんは考えている。

激動の時代、ビジネスパーソンはどう生き抜けば良いのだろうか。今後20年における雇用の変化に仮説を立て、生き抜くヒントを記した著書『2040年「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)から一部抜粋・再編集して紹介する。

今から20年後、どんな未来?

2040年までに何が起こっていくのか。

2025年には、団塊ジュニアが50代となり、その人件費負担を避けるために「大リストラ時代」が始まる。2029年になると、若手社員は転職をまったく苦にしなくなり、「大転職時代」が到来。

2031年には、日本企業にもジョブ型雇用が浸透。スキルの高いジョブに就けた人は高給を取り、そうでない人は低い給与で我慢する「超格差社会」が到来するでしょう。

2033年には、実力のある外国人や女性が社長のポジションに就くことが当たり前に。その一方で、日本企業の中には、変われない企業もたくさん残る。

植田統さんの著書『2040年「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)より
植田統さんの著書『2040年「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)より
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2035年には、変われない企業の衰退が明らかになり、2037年には、若手社員の中から、変われない日本企業と少子化で縮小する日本市場を見限り、外国に脱出する人が数多く出てくる。

2041年には、こうした混乱の中から這い上がろうとする人が現れ、スタートアップ企業が急増。

そして2043年には、メンバーシップ型雇用に固執してきた日本企業が完全に消えてなくなり、ついに「サラリーマン」が消滅する。

つまり、日本国民はすべて何らかの専門性を持った「プロフェッショナル」に生まれ変わる。

【2037年】グローバル市場で日本市場が低下…

2037年、アクティブなオーナー経営者の率いる企業、外から外国人やプロ経営者を迎え入れ、変革を果たした企業は、勢いを持ち続ける。しかし現実には、変われなかった企業が大半を占めているでしょう。

中高年社員が多数を占める日本企業では、中高年社員の既得権益を守ろうとする声が過半数を超え、それを覆して会社を変えてやろうという経営者はあまり出てこない。

相変わらず年功序列の色彩を残したメンバーシップ型雇用が継続していくことになるだろう。

悲観的な観測かも知れないが、変われなかった企業が8割を占めているものと推測する。

植田統さんの著書『2040年「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)より
植田統さんの著書『2040年「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)より

それに追い打ちをかけるのが、日本の人口減少とそれに伴うグローバルマーケットの中での日本市場の地位の低下。

世界最大級の会計事務所・コンサルティングファームPwC が出した「長期的な経済展望 世界の経済秩序は2050年までにどう変化するのか?」というレポートは、世界のGDP(国内総生産)総額の約85%を占める経済規模上位32カ国の2050年までのGDP予測をまとめている。

購買力平価ベースでGDPのランキングを予測しているが、2030年には日本は世界4位の座を保つが、50年には世界8位にまで落ち込む。1位から7位までは、中国、インド、アメリカ、インドネシア、ブラジル、ロシア、メキシコになるという予想だ。

この予測が象徴しているように、グローバルマーケットの中での日本市場の地位は大きく下がっていく。

その結果、グローバル企業にとって日本市場の位置づけは大きく下がるだろう。グローバルにビジネスを展開する日本企業にとっても、国内マーケットよりも海外マーケットのほうがはるかに重要になってくる。

【2037年】日本の若者は活躍の場を求め、海外へ

もう一つの重要な事実は、日本企業の支払う給与は、世界の中で競争力がまったくないものとなっていること。OECDの出した「OECD加盟国の2020年の購買力平価ベースの平均賃金」で日本は35カ国中22位。

トップのアメリカが6万9391ドル、35カ国の平均が4万9165ドルあるのに対し、日本は3万8364ドル。これは韓国をも下回る。

2000年から20年の間に、多くの国が平均賃金を大きく伸ばしてきたにもかかわらず、日本の上昇率は0.4%。ちなみに、トップのアメリカは25.3%、韓国は43.5%伸ばしている。

これが現在の数字だが、伸び率から見ると、2034年には日本はOECD加盟国の最下位になっていると考えられる。若手社員の中でも、英語ができる、海外の文化がわかる社員は、海外の企業に転職し、海外市場で勝負してみたいと考えるでしょう。

2037年、海外で働く若者も増えるかも知れない(画像:イメージ)
2037年、海外で働く若者も増えるかも知れない(画像:イメージ)

国内に留まって相対的地位の低下したマーケットで小さいビジネスを展開するよりも、大きな市場、成長する市場で仕事をしたほうが、いい仕事にありつけ、はるかに充実したプロフェッショナル・ライフを送ることができる。若手社員がこう考えるのは当然だろう。

2037年は、今40歳の方が50代後半に突入し、キャリアの晩年を迎える頃、こうした状況が現実化すると、日本企業の業績が大幅に悪化するだけでなく、日本の不動産価格等の資産価値は大幅に下落してくるでしょう。

そうなると、それまでに蓄積してきた資産が紙くずになる恐れも出てくるため、こうした時代にどう立ち向かうか、今から準備が必要なのだ。

【2039年】年金が崩壊?現役世代の負担が限界に

コロナ禍により、巨額の財政出動がされたため、日本政府の債務は急膨張していく。

それ以前から悪かった日本政府の政府債務比率(対GDP比)は、2020年末には264%となった。債務残高は1216兆円、19年から101兆円の増加に。国民一人あたり970万円の借金を背負っている計算になる。

アメリカは133.6%、イギリスは111.5%、ドイツは72.2%、フランス118.6%、イタリア158.3%、カナダ115%であるため、G7の中で財政の悪化度合でダントツの1位。

日本は、個人金融資産が豊富にあり、政府の債務残高はその範囲に納まっているから財政が破たんすることはないという議論がある。しかし、個人金融資産は1900兆円であるため、このまま野放図な財政の拡大が進めば、早晩限界に差し掛かることは目に見えている。

また、日銀が国債を買い続ければ、ファイナンスできるから大丈夫だという議論もあるかもしれない。しかし、それでは日本の財政に対する信認が崩れてしまう。いつまでも今の国債購入のスピードを続けるわけにはいかないのだ。

おそらく本書執筆中の2021年から18年後の2039年頃には、日本経済がかなりおかしくなっているものと予想する。

状況が悪くなってくると、政府には債務の膨張を止めようという意思が働く。その時、起こることは、公務員の人件費の削減、インフラ投資の削減、増税等々だろう。

こうした事態になる頃には、日本円に対する信認も失われているため、ドル高となり、輸入物価が上がっていき、インフレが起きる。

2039年、現役世代の負担が増えて年金が崩壊する可能性も(画像:イメージ)
2039年、現役世代の負担が増えて年金が崩壊する可能性も(画像:イメージ)

政府債務の悪化と同時並行で進むのが、「年金財政の悪化」だ。

少子高齢化が進んでいることで、高齢者世代の数は増え、それを支える現役世代の数は減っていくため、現役世代の負担がますます重くなる。

その結果、起こってくるのは「年金支給水準の切り下げ」となる。

インフレが起きれば貯蓄が目減りし、そのうえ年金の支給水準も下がっていくと、高齢者の生活は苦しくなる。働いていれば、会社の売上もその分増え、従業員はインフレで調整された給与をもらえるのでいいかもしれない。

しかし、年金生活者はインフレで目減りしていく貯蓄に頼っているため、どんどん生活が苦しくなっていく。

こうした時代に対応するためには、「生涯現役」を貫かざるを得なくなるだろう。そのためにも、自分の手に職をつける、スキルを身に着けることが必須となる。

【2043年】日本から「サラリーマン」が消える?

2043年以降を考えてみると、いわゆる「サラリーマン」という種族は消滅しているだろう。生涯現役社会が訪れることで、会社に入り、そこで定年まで働いて、後は年金生活をするというモデルは成り立たなくなる。

普通の会社に入っても、そこはジョブ型雇用の世界。キャリアアップを考えるなら、社内で上のポジションへの昇進を考えるよりも、他社で募集しているより地位の高いポジションに移っていったほうが早く昇進できる。

なぜなら、社内では、何年か働いてアラが見えているために、かえって昇進のチャンスを手に入れることが難しいからだ。

外資系に入れば、そこはもちろんジョブ型雇用の世界だ。

特に人気の高いコンサルティングや投資銀行に入るなら、そこは「アップ・オア・アウト」の世界で昇進できないようなら、外に出ざるを得ない。

IT企業やメーカーに入って、一つのジョブをマスターし、上のポジションを目指したいと考えても、やはり他社のポジションを探したほうが手っとり早い。

海外で働く人、起業した人は、日本企業や外資系企業で働いている人に比べて、組織に守られていない分、もっと厳しい世界で仕事をしていくことになるだろう。

つまり、終身雇用、年功序列、定期異動を前提とした日本のメンバーシップ型雇用の下で生息することができた、いわゆる「サラリーマン」は消滅してしまう。

誰もが「自分株式会社」を立ち上げ、自分に投資し、スキルを身に着け、自分マーケティング戦略を考えて、自分を商品として高く売ることを真剣に考えていく時代となるのだ。

これら植田さんの仮説が、今後どういったスピードで現実化するかは、政府の政策に大きく依存するという。政府の動きや日本及び会社の改革スピードにアンテナを張り、その都度、適切なキャリア選択をしていく。それが、これからのビジネスパーソンにとって欠かせないスキルの一つかもしれない。

『2040年「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)
『2040年「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)

植田統
国際経営コンサルタント、弁護士、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授。著書に『人生に悔いを残さない45歳からの仕事術』『企業再生7つの鉄則』(共に日本経済新聞出版社)、『残業ゼロでも必ず結果を出す人のスピード仕事術』(ダイヤモンド社)、『日米ビジネス30年史』(光文社)などがある

植田統
植田統

国際経営コンサルタント、弁護士、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授。
1957年東京都生まれ。東京大学法学部を卒後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。ダートマス大学エイモスタックスクールにてMBA取得。その後、外資系コンサルティング会社ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)を経て、外資系データベース会社レクシスネクシス・ジャパン代表取締役社長。そのかたわら大学ロースクール夜間コースに通い司法試験合格。外資系企業再生コンサルティング会社アリックスパートナーズでJAL、ライブドアの再生に携わる。2010年弁護士開業。14年に独立し、青山東京法律事務所を開設。 近著は『2040年 「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)。