2021年2月に大分市で起きた交通死亡事故。時速194キロで車を運転したとされる元少年に危険運転致死罪を適用するよう求める署名を、亡くなった男性の遺族が10月11日、大分地検に提出した。
大分地検は元少年を危険運転致死ではなく、法定刑の軽い過失運転致死の罪で起訴。
「あまりにも間違っていると思う。加害者だけが守られて、被害者はこうやってずっと苦しむのか」
地検がこのような判断に至った背景と、遺族の思いなどを取材した。
元少年「何キロ出るか試したかった」
2022年10月11日、大分地検に署名を提出したのは亡くなった男性の母親と2人の姉。

事故で亡くなった男性の遺族:
ここまで(署名が)集まるとは思ってなかった。たくさん賛同してもらって、本当に感謝している
遺族は感謝の気持ちを述べた。
この事故は、2021年2月9日午後11時ごろ、大分市大在の交差点で当時19歳の元少年が運転する車が、対向車線から右折してきた車と衝突し、右折した車を運転していた小柳憲さん(50)が亡くなったもの。

元少年は時速約194キロで運転していたとされていて、捜査関係者によると「買ったばかりの外車で何キロ出るか試したかった」などと話していたという。
警察は、元少年を「危険運転致死」の疑いで書類送検したが、大分地検は法定刑が軽い「過失運転致死」の罪で起訴。

「危険運転致死罪」の法定刑は20年以下。それに対し、「過失運転致死罪」では7年以下となっている。また、危険運転致死罪は裁判員裁判の対象となる。
地検のこの判断について、遺族は8月の会見で苦しい胸の内を明かした。
小柳さんの遺族:
あまりにも間違っていると思う。加害者だけが守られて、被害者はこうやってずっと苦しむのか
遺族によると、元少年を過失運転致死で起訴したことについて、検察からは衝突する直前までまっすぐ走り、車を制御できていたなどと説明されたという。
時速194キロ…安全確認もできないスピード
では、194キロとはどんなスピードなのだろうか。
犯罪被害者の支援を行う団体「ピアサポート大分 絆の会」が、時速194キロでの走行を再現したイメージ映像。
時速194キロでの走行は、運転手の視点では辺りの安全確認がよくできないほどの猛スピードであることが映像から分かる。

また、右折しようとする車の視点で見ると、現場の法定速度60キロの車は近づいてくるのがしっかり確認できるのに対し、194キロの車はあっという間に通過してしまう。

法の解釈と世間の感覚にズレ
こうした状況での過失運転致死での起訴について、長崎総合科学大学の柴田守准教授は過去の交通事故の裁判の判例が影響したのではと話す。

長崎総合科学大学 柴田守准教授:
三重県津市のケースが、起訴の判断に影響した可能性が高いと考える
2018年、三重・津市の国道で時速146キロで走っていた車がタクシーと衝突し、5人が死傷。検察は危険運転致死傷罪で起訴。
しかし、「片側3車線の直線道路を走行していて、146キロを超える速度でも制御困難な速度とは言えない」などとして、判決では過失運転致死傷罪による懲役7年が言い渡された。

危険運転の条文には「進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」という一文があり、柴田准教授はこの法律の解釈と世論の感覚にズレがあると指摘。
長崎総合科学大学 柴田守准教授:
危険運転致死罪は裁判員裁判だから、一般国民も加わって公判と評議がされる。仮に大分地裁が危険運転致死罪の成立を否定したとしても、一般人の感覚との乖離を表面化させることができる。
起訴せずに悪しき前例をつくるという懸念よりは、法的ルールの設定上の問題点をあぶりだすことに意義を見出すべき
2万人以上の署名集める
10月、亡くなった小柳さんの母親が事故現場を訪れ、花を手向けていた。

小柳さんの母親:
病院に着いたときにね、遺体を触ったらあったかいんですよ。
遺族はこの1か月間、元少年に地検が適用する罪を変える訴因変更を求め、署名活動を行ってきた。この活動には、危険運転致死傷罪が制定されるきっかけとなった1999年の東名高速の事故の遺族など、全国各地から支援者が参加した。

そして、10月11日までに集まった署名は2万2141人分。
遺族は11日、この署名を大分地検に提出した。
署名を提出した遺族によると、大分地検は「過失運転致死罪と危険運転致死罪、どちらを適用するか検討する」と回答したという。

小柳さんの遺族:
声を上げなければそのままの罪名(過失運転致死罪)で裁判は終えているから、再度検討してもらえるのは良かった。ただ、まだ罪名が(どうなるか)分からないので安心しているわけではない。
遺族の思いに対し、大分地検がどのような判断をするのか、注目される。
(テレビ大分)