激闘の北京五輪シーズンを終え、新たなシーズンが幕を開けたフィギュアスケート。
12月の全日本選手権出場を目指し、間もなく地方ブロック大会から予選がスタートする。
2023年3月に日本で開催される世界選手権を目指す選手、全日本選手権を自身の集大成として挑む選手、日本最高峰の舞台で力を最大に発揮したい選手…、今年も様々な選手たちの思いがぶつかり合う時がやってきた。
全日本選手権の予選、地方大会も残り2大会。
10月8日から東北・北海道選手権と近畿選手権が開幕し、東西選手権への切符を争う。

今回は近畿選手権に出場する三原舞依の今季への思いに迫る。
昨季、誰よりも悔しい思いを噛みしめた三原。今季は8月の初戦で優勝を飾り、幸先の良いスタートを切った。
6年ぶりの世界選手権代表へ、この大会でさらに勢いをつけたい。
わずかに届かなかった夢への切符
2021年12月25日、北京五輪代表最終選考会の全日本選手権。
表彰台に乗れば代表の座も確実視される中、三原はフリーの舞台に立った。
ショートプログラムは5位スタート。3位とはわずか0.61点差だった。
言葉では表せない緊張感がリンクを包んでいた。

そんな中、演技をスタートさせた三原は、音楽の鳴り始めから指先まで意識の行き届いた繊細な表現を見せる。
フリーは2シーズン滑りこんできた自信作。美しくも芯の強さを感じる演技に観客が惹きこまれていくのを感じていた。
しかし、後半に思わぬミスをしてしまう。
得点源の連続ジャンプで2回転半が1回転半になり、その後もリズムが乱れ、得点を重ねられなかった。
終盤、力強くステップを刻み、巻き返しを図るもフィニッシュに三原の笑顔はなかった。
結果は表彰台に届かず、4位。

翌日、北京五輪代表発表の場で三原の名が呼ばれることはなかった。
どれだけ悔しかったことだろう。
それでも、涙を見せることなく、三原は気丈に振る舞った。
こんな時でも周りの人に気を使わせたくない、そんな優しさと芯の強さが彼女にはある。
その姿に心が締め付けられる思いだった。
応援に支えられて掴んだ“金メダル”
全日本選手権から約1カ月後、三原はエストニアの首都タリンにいた。
四大陸選手権の日本代表として、シーズン最後の国際大会へやってきたのだ。
そんな三原へ、大会前に話を聞く機会があった。

――全日本が終わってから、どんな練習をしてきましたか?
落ち込むこともたくさんあったんですけど、いろんな方から「もっと自信持って滑って」や「すごい感動した」という言葉をいただけて、すごく嬉しくて。
まだまだレベルアップしていきたいという自分の思いが強かったので、落ち込むことは落ち込んだんですけど、自分の演技に対する落ち込みは試合でやり抜いて、納得いくものをして克服するしかない。それには練習が必要だと思って。
本当にたくさんの方々のサポートのおかげでなんとか持ち直して練習してこれた。練習でノーミスはできているので、あとは本番で出し切る強さをしっかり発揮できたらいいなと思います。
気持ちを切り替えることは容易ではないはずだ。
それでも、この与えられたチャンスを無駄にはしたくない、と練習を重ねてきた。
演技に対する落ち込みは「自分でやり抜くしかない」と。

そして、三原は有言実行の演技を見せる。
ショートプログラムでは、すべての要素に加点が付く最高の出来栄え。
最終滑走で迎えたフリーでも、プレッシャーの中、全日本でミスのあったジャンプをすべて成功させ、練習の成果をタリンの地で見せた。

得点を待つ三原に、表示されたのは自己ベストのスコアと最終順位1位の文字。その瞬間、力強いガッツポーズが飛び出し、目から大粒の涙が溢れた。
四大陸選手権優勝でシーズンを締めくくった翌日、率直な思いを口にした。
「すごくうれしいというのが一番大きくて。全日本の後のいろんな方からのメッセージやお手紙でここまで来ることができました。すごくサポートしていただいたので、その方々のおかげで優勝という結果を持ち帰ることができましたし、自分のショート・フリーの演技につながっているので感謝の思いでいっぱいです」

――「自分の演技に対する落ち込みというのは自分で克服するしかない』と試合前おっしゃっていましたが、それは達成できたと思いますか?
1番不安要素だった全日本のアクセルのミスは、得意なジャンプとして全日本前は練習できていたので。不安やフラッシュバックとかいろんなことで悩んでいたんですけど、なんとかそこを乗り越えて。フリーの前はすごく泣きそうで足も震えていたんですけど、最後まで滑り切れたのはよかったなと思います。
今回は緊張が尋常じゃなくて。自分の中でたくさんプレッシャーもかけてしまっていたり、本当に不安がいっぱいだったんですけど、たくさんの方々からメッセージをいただいたり、寄せ書きもいただいたり。
ファンの方々や応援してくださる皆さんのおかげで、最後まで滑り切ることができたと思うので、優勝がすごくうれしくて、いろんな方が笑顔で喜んでくださっていたので、すごくうれしいです。

支えてくれた方への感謝を口にする三原に、「色々なものに打ち克った自分にどんな言葉をかけたいか」と質問を投げかけた。
すると、間髪入れずにこう答えた。
「『あなたは幸せ者だよ』って言いたい。
すべて含めていろんな方のサポートのおかげで“三原舞依”がいるので、本当に感謝とうれしさしか今はないです」
「もっと強くなりたい」カナダ短期留学へ
激動の1年を終え、新たなシーズンへと歩みを進めていた今年5月。
三原は1人、カナダ・トロントにいた。

「(昨季は)悔しい部分もありつつ、納得できた部分もあって。昨シーズンのレベルよりもっともっと上げていくためには、もっともっと練習が必要だなっていうのを実感できた年でもあった。
このオフシーズンからレベルアップの第1歩になればと思って、カナダのスケート留学を考え始めて。『まだまだ出来る』って信じてこれからも頑張りたいので、昨シーズンの良かったところも悪かったところも含めて三原舞依なので、ベースを底上げしていけるようにもっともっと強くなっていきたい」
「もっと強くなりたい」と、かつて羽生結弦さんも在籍した名門・クリケットクラブへ約20日間のスケート短期留学にやってきたのだ。

リンクへの連絡も飛行機・ホテルの手配もすべて三原自身。食事も自炊し、さらに練習の合間を縫って、今春進学した大学院の勉強もこなしていたから驚きだ。

ホテルとリンク間の移動は、バスと地下鉄を乗り継いで通った。
スケート靴の入ったスーツケースを引いて1人歩く姿は、これまで以上に頼もしさを感じた。

「(自分は)結構弱いので。特にこうだから弱いっていう事でもなくて。昔から体も弱かったのもあり、いろんな場面でちょっと弱さが自分の中で出てきてしまうことがあるかなって感じます。その弱さの上に強さを乗っけていけたら良いなって思っていて…」

「すごくコンディションが良かったり、調子が上向きの時はそのまま強くいけるかなって思うんですけど、ちょっと落ち込んだりとか、何かアクシデントがあった時に弱さが出てきたりして、“もっと強くあるべきかな”と思ったので。トップアスリートの人たちは、そこも含めて“強い”と思うので、トップアスリートを目指して頑張りたいです」
これまで様々なことを乗り越えてきた三原。それでもまだ現状に満足していない。
自分の思い描く“トップアスリート”へ、歩みを止めることはない。
リスタートの今季「日本代表の選手にもう一度なれたら」
今シーズン、三原はショートプログラムとフリーを2つとも一新した。
ショートは、坂本龍一作曲の「戦場のメリークリスマス」。
ドラマチックでエモーショナルなナンバーは、三原が近年磨いてきた表現力が活かされるプログラムだ。
「私のこれまでの人生も詰まったプログラムになると思うので、(振付師の)デイヴィッドさんが望むような表現が出来たら良いなって思います」
一方のフリーは、「恋は魔術師」で“スパイスの効いた女性”を演じる。
これまでの清楚なイメージから一変し、情熱的で力強い演技は新たな三原が見られるだろう。
新プログラムを携えて迎える今シーズン、最大の目標は来年3月の世界選手権代表だ。
「3枠しかないので、日本代表選手にもう一度なれたらなって思います」
日本・さいたまスーパーアリーナ開催の世界選手権に向けて、その思いはさらに強くなる。

「世界選手権って聞いた時にわくわくした気持ちがすごく大きい。2017年に1度ヘルシンキに行ったきりなので、出たい思いはすごく強いです。
日本代表になるために必要な実力をつけているので、まずは練習。何事にも練習が大切だと思っています。それと、本番の“心の強さ”を練習で培っていけたらなと。
クリケットの先生方から、『Be StrongでいてBe Happy』と言っていただいたので、しっかり強くあって、その先に笑顔が待っていたら良いなって思います」
背中を押す存在の温かさを誰よりも知る三原舞依。
その人たちの思いを力に変えて、今シーズンも突き進む。
何よりの恩返し、さいたまスーパーアリーナで最高の笑顔を見せるために。
全日本までの道の詳しい概要はフジスケで!
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/figure/toJPN.html