あなたには毎日の生活の中で、どんな決め事があるだろうか?
日々の生活を豊かにするため、身体や心の健康を維持するため、あるいは目標に向かうため。「習慣」や「ルーティン」にとどまらず、「大切にしている価値観」や「決め事」を持っている人もいるハズ。
では過酷な競争に身を置くトップアスリートの場合、どんなマイルールがあるのか?この記事では、3月26日に放送された番組「アスリートのマイルール」から、世界で戦うフィギュアスケーターたちのマイルールをご紹介していこう。
坂本花織は「家をまるっと掃除してから試合へ」
北京五輪で銅メダルを獲得、さらに3月の世界選手権で金メダリストとなった坂本花織。
22歳ながら、日本女子フィギュア界をけん引する存在であり、頂点である彼女には、日々の生活に深く結びついたマイルールがあるという。
この記事の画像(13枚)「家をまるっと掃除してから、絶対に行くようにしています。『トイレの神様』って流行ったじゃないですか」
成長著しい演技で、昨年末の全日本フィギュアを制し、北京五輪では銅メダルも獲得した坂本は、少しはにかみながらこう続けた。
「御利益も、ちょっとあるんかなと思ったりするし、試合に行って一週間丸々いなくなると、本当にホコリがめちゃくちゃたまるんですよ。気づいたら」
「疲れた時にホコリまみれのところに帰らないように、(出発前に)きれいにコロコロもめちゃして、トイレも掃除して、お風呂も掃除して絶対行くようにしています」
シーズン中は世界を転戦してまわることも多いトップスケーターの生活。坂本自身が撮影した映像には、カーペットが敷かれた部屋を、美しい姿勢で楽しそうにコロコロする姿が映し出されていた。
「結構それでいい結果だったことが多かったので、勝手に続けています」
一見ささやかな心掛けにも映るが、試合前に部屋をきれいにすることで、演技の美しさにもいい影響が出たという。
この3月には世界選手権で、表彰台の真ん中にまでのぼり詰めたフィギュア界の“新女王”坂本。結果がそれを物語っている。
さらに演技直前の坂本には、もう一つのマイルールがある。
「(コーチが)背中を押してくれると、『よし行くぞ』って気持ちになるので、めちゃくちゃ大事です」
そのコーチとは坂本が4歳の時から指導を務める中野園子さんだ。
普段の練習では、坂本がミスをすると流れていた曲が止まり、中野コーチから練習リンクに響くほどの檄(げき)が飛ぶことでも有名だ。
そんな厳しい愛情で接する“母のような存在”に、坂本は演技本番の直前、いつも背中を押してもらっている。
「先生も『ちゃんとやれよ』って思って、送り出してくれているのかなと思います。あれがなかったらめちゃくちゃ不安です」
世界のトップクラスで戦う日本女子フィギュア界のエースには、普段の生活と戦いの舞台の中に、それぞれのマイルールがあった。
鍵山優真の「モヤモヤ、ムズムズしない」術
そして男子フィギュア界の新たなエース。北京五輪銀メダリスト、鍵山優真。
滑らかな4回転ジャンプと、膝と足首の柔らかさを使ってきれいに伸びる着地は世界トップクラス。若干18歳ながら羽生結弦、宇野昌磨と肩を並べ、日本フィギュア界を牽引する存在だ。
そんな鍵山のマイルールとは?
「『決められたことは絶対にやる』というのはルールだと思っています。時間がないから今日はちょっとこれを飛ばしておこうとか、例えばアップとかでも、時間がないからチョット短めにしておこうとか、それはもう絶対、自分の中では許されなくて。自分がこのメニューをこなせば体は動くとか、もうわかっているので、それをキッチリやるのが自分のルールです」
「決めたことは時間がなくても省かない」これはシンプルに見えて、毎日持続するとなるとそう簡単なことではない。
鍵山の場合、それは氷の外でも同じだという。
「生活の中でも出発の何分前には来て、ちゃんと朝ごはんを食べて、出発して、そして1時間前にアップして、練習してクールダウンしてという流れが自分の今のルーティンです」
「これをやれば絶対に良い1日が過ごせるとわかっているというか、いろんなことを試してのその結果たどり着いたので、それをキッチリやるというのは自分のルーティンになっています」
――いつぐらいに発見したんですか?
そうですね。去年の世界選手権くらいから、だいぶまとまってきていて。自分のペースでやれるので、一番落ち着くというか。それをこなせばモヤモヤせずに済みます。
――それは誰に言われたわけでもなく?
そうですね。自分で考えて決めました。
――それが一番、心地がいいですか?
決めたというか、それをしないとムズムズする(笑)。例えば朝ご飯を省いたりだとか、出発ギリギリまで寝ちゃったりとかすると、1日良くない気分で始まります。
18歳にして、ある意味完全主義者にも見える鍵山に、こんなことを聞いてみた。
――自分は臆病と勇敢だったらどっちですか?
臆病です。ビビリだと思います。
――何故そう感じますか?
4回転とか新しいジャンプ始めるときに、なかなか前に進めない(笑)。やる気持ちはあるんだけど、怖くて。やったことがないものって本当に未知の世界に行くようなものなので、それはすごく怖いですね、最初は。
――でも新しい事をやっていますよね。
そうですね。周りの人がみんなやっているのを見ると、「あっ、やらなきゃいけない」って、結構燃えたりするので、そういう時はできます。
――自分では臆病で進めないけど…
そうです。本当に周りに動かされているというか。1人ではちょっとできないですよ。羽生選手が1人で4回転アクセルを練習しているのは、本当にすごいなと思います。
鍵山の意外な一面が垣間見えた。
宇野昌磨は「自分で全て決定する」
そんな鍵山とライバルであり、先輩でもある宇野昌磨のマイルールとはどんなものだろう。
「特に決めているのは、本当に自分を一番尊重して、“自分を大切にする”っていうと変ですけど、自分の考えや、自分を一番に考える事は、意識しています。周りにどう思われるかじゃなく、本当に自分がどうしたいとか、自分が何やりたいかとか、本当に全て自分で。
だから僕、全日本で確か『自分』って書いた気がするんですよ。そういう全てを含めて、いろんな意味合いを込めて、『自分』というのを今年は自分の中に強く思っています」
それは昨年末のことだ。北京五輪の代表最終選考会でもあった全日本選手権。フジテレビの取材班が大会の目標を聞いたところ、宇野は「自分」と、用意されたボードに書き記していた。
さらにこの全日本では4回転ジャンプを4種類5本組み込むという、宇野自身の中で、最高難度の演技に挑戦することを明言していた。
大会前の取材では「僕が“この構成をやる”って決めているからには、間違いなく僕が選考から落ちる可能性は増えるとは思うんです。このプログラムをやることによって、大きなミスを全日本選手権でして、(五輪)選考から落ちるという可能性も絶対あるとは思うんですけど、それでも僕は挑戦したい」と不退転の決意を語っていた。
そして迎えた全日本の本番。
直前に右足首を負傷し、万全とは言えないコンディション。だが宇野は、周囲の不安の声を一蹴する演技をみせる。
「自分を大切にし、自分が何をやりたいのかすべて自分で決める」
その言葉を実行するかのように、この最高難度のプログラムに果敢に挑戦。2位に入り、五輪代表の座を獲得した。そして北京五輪では、見事2大会連続の表彰台に上がって見せた。
「どれだけ周りが反対しても、どれだけ周りから言われたとしても、自分の考えっていうのを最後まで貫き通したいし、また周りの意見を聞いて、自分が『あっ、確かにそうだな』って思ったらそっちに乗り換えたりって思っています。
本当に、“全て自分で決めたい”っていうのは、“自分で決めたくないと思ったものを他人に任せること”も、またそれは自分の考えのひとつだと。そういう大きな全部の意味を込めて、『自分ですべて決定する』っていうのを今年は考えています」
宇野昌磨、鍵山優真、坂本花織。日本のフィギュア界を担う若きトップスケーターたちには、それぞれを支えるマイルールがあった。
あなたならどんなマイルールを取り入れるだろうか?