“点検漏れ”発覚

やはり自己申告に頼る「点検」では限界があった。

自民党は、党所属国会議員の半数近くが旧統一教会や関連団体と何らかの接点があったことを明らかにし、関与の度合いが強い議員については氏名を公表した。

ただ、あくまでも各議員の自己申告に基づく調査。早い段階から点検漏れを指摘する声が上がっていた。

自民党が公表した旧統一教会関連議員リスト
自民党が公表した旧統一教会関連議員リスト
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そうした中、旧統一教会の関連団体が主催した会合に木原誠二官房副長官が出席していたことが明らかに。木原副長官は自民党が公表した調査には報告していなかった。岸田政権にとっては大きな打撃となりそうだ。

「記憶を呼び覚ますと…」旧統一教会との関係を認めた木原副長官
「記憶を呼び覚ますと…」旧統一教会との関係を認めた木原副長官

木原副長官は「記憶を呼び覚ますと確かに出席していた。党の方へ追加の報告をした」と釈明。外部からの指摘で判明したという。

それにしてもだ。木原副長官は岸田文雄首相の最側近とされる人物。党所属議員と旧統一教会との接点を調査する方針を表明した岸田首相の記者会見には、松野博一官房長官のすぐ隣で同席していた。

その時、岸田首相は「実態について党として取りまとめ、明らかにする。そして党の方針として関係を断つ。こうしたことを徹底していくことによって信頼回復につなげていきたい」と訴えていたが、首相の言葉で記憶が呼び覚まされることがなかったというのは残念な話だ。

半数近くが旧統一教会と接点

自民党の調査では379人のうち179人が旧統一教会と接点があったことを認めた。党所属議員の半数弱。教団側とのつながりの広さと深さが改めて浮き彫りとなった。

このうち氏名を公表したのは、教団側に選挙支援を依頼し、組織的支援や動員を受け入れた議員や、選挙でボランティア支援を受けた議員、教団主催の会合に出席した議員などで121人。党幹部や閣僚では萩生田光一政調会長や、山際大志郎経済再生相、加藤勝信厚労相らの名前が含まれている。

山際大志郎経済再生相
山際大志郎経済再生相

茂木敏充幹事長はこう強調した。「今後は一切関係を持たない。党方針に従えない議員はいないと確信しているが、いた場合には同じ党では行動できない」。

自民党と旧統一教会との関係の広がりを公表したことは一歩前進と言える。だが、木原副長官のような「報告漏れ」が相次げば調査の信頼性は著しく損なわれ、傷口をさらに広げる結果になりかねない。

梶山弘志幹事長代行は「本人や事務所に記録や記憶がなく、十分に確認ができなかったというケースは起こりうる」との認識を示している。

自民党総務会では、「調査が不十分だ」という意見や「実態をはっきりさせるべきだ」といった声が出席者から上がった。

安倍元首相は調査対象外

立憲民主党の泉健太代表は、調査結果の公表を受けて「肝心の安倍事務所を対象から外しているということや自治体議員を対象から外しているということも含めて、疑念を解消するだけの点検、結果報告にはなっていない」と述べた。

旧統一教会との関係の深さが指摘されている安倍晋三元首相を調査の対象から外したことへの批判の声は根強い。安倍元首相は関連団体のイベントにビデオメッセージを送っていたほか、参院選挙で組織票のとりまとめに関与していたとの証言も報道されている。

旧統一教会の関連団体イベントにビデオメッセージを送っていた故安倍晋三元首相
旧統一教会の関連団体イベントにビデオメッセージを送っていた故安倍晋三元首相

安倍元首相の国葬に関する衆議院議院運営委員会で泉代表はこう質した。「自民党と旧統一教会との関係を考えた場合に、安倍元首相が最もキーパーソンだったのではないか」。

しかし、岸田首相は「本人の当時の様々な情勢における判断に基づくものだ。本人が亡くなられたこの時点において、実態を十分に把握することは限界がある」と調査を否定している。

9割に認識なし!?

茂木幹事長は、旧統一教会と接点があった議員について「会合で挨拶したケースなどでは、大半の議員が関連団体という認識はなかったとしている。だいたい9割近くがそのような状態だった」と強調した。

「認識がなかった」は繰り返し使われてきた言い回しだ。確かに旧統一教会の関連団体は数が多く、正体を見抜くのは難しいかもしれない。

茂木幹事長「9割が認識はなかったと…」
茂木幹事長「9割が認識はなかったと…」

だが、これほど多くの国会議員が、実態のよく分からない団体と接点を持つものなのだろうか。「認識がなかった」との言い訳で追及をかわそうという意図があるのではないか。

そもそも正体を隠して接近するのが教団のやり方だ。「認識がなかった」こと自体が問題であり、旧統一教会の広告塔に利用された恐れがあることを反省し、けじめをつけなければならない。

内閣支持率の下落に歯止めかからず

調査の公表を受けて実施された世論調査では内閣支持率の下落傾向が止まっていないことが明らかになった。

朝日新聞の調査では「政治家と旧統一教会を巡る問題について、岸田首相の対応を評価するか」との質問に対し、「評価しない」が66%と「評価する」の23%を大きく上回った。NHKの世論調査では「自民党の対応は十分だと思うか」と聞いたところ、「不十分だ」が65%、「十分だ」が22%という結果だった。

岸田首相は実態解明を望む世論にどう答えるのか。「今、率直に申し上げて、政治に対する国民の信頼が揺らいでいると深刻に受けて止めている。私が先頭に立ち、政治への信頼回復に取り組まなければならない」。調査方針を表明した記者会見で岸田首相はこのように語った。

国民の信頼を取り戻すためにも今回の調査で幕引きとしてはならない。求められているのは自己申告に頼らない主体的な調査であり徹底的な検証だ。対応を誤れば不信をさらに増幅させることになるだろう。

【執筆:フジテレビ 解説委員 安部俊孝】

安部俊孝
安部俊孝

フジテレビ報道局解説委員。海部政権末期に政治記者になり、以来30年あまり永田町をウォッチ。自民党、野党、外務省などを担当して第一次安倍・福田・麻生政権時に首相官邸キャップを務めた。福岡県出身。早大商卒。好きなものはビール、旅、ラグビー、ブラジリアン柔術。