金総書記の核ドクトリンを手に…

北朝鮮は7〜8日、国会に相当する最高人民会議を開催し、核の使用条件や核使用の決定権は金正恩(キム・ジョンウン)総書記だけが持つことなどを定めた法令を採択した。金総書記は8日の施政方針演説で「核を絶対に放棄できない」「核保有国の地位は不可逆的」だと述べ、核武力をより強化する方針を強調した。

核の使用条件をあえて法制化し、金総書記自ら非核化交渉に応じない姿勢を鮮明にすることで、拡大抑止を強めるアメリカや韓国に対抗する狙いと見られる。

この最高人民会議の場には、金総書記の発言以外に、注目を集めた人物がいた。今年2月以降、金総書記に随行していることが確認された謎の女性が再び公式行事の場に登場したのだ。

最高人民会議(8日)で演説の草稿と見られるファイルを手に金総書記の後ろを歩く「謎の女性」
最高人民会議(8日)で演説の草稿と見られるファイルを手に金総書記の後ろを歩く「謎の女性」
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満場の拍手と歓声に迎えられ、壇上に姿を現した金総書記。

その後ろには眼鏡をかけたロングヘア―の女性の姿があった。白いブラウスに黒のスーツを着用し、手には演説の草稿と見られるファイルを持ち、黒のバックを下げている。

金総書記がこの日、国際社会に向けて発した核ドクトリンの原稿は、直前まで彼女が手にしていたことがわかる。

顔立ちは金総書記の父・金正日(キム・ジョンイル)氏にどことなく似ているようにも見えるが、北朝鮮メディアはこれまでのところ、この女性の身元を明らかにしておらず、この女性が金総書記とどのような関係にあるのかはわかっていない。

今回の女性と同一人物かどうかは確認されていないが、新しい女性随行員は2月の初級党書記大会、4月の平壌ソンシン・ソンファ地区の1万世帯住宅の竣工式、普通江沿いの高級住宅区の竣工式、15日の金日成主席誕生日の祝賀行事などで金総書記の公開活動に随行する姿が目撃されていた。

2月の初級党書記大会では金総書記に演説原稿を手渡した
2月の初級党書記大会では金総書記に演説原稿を手渡した
住宅竣工式にも随行(4月14日)
住宅竣工式にも随行(4月14日)
金日成主席の生誕110年記念行事(4月15日)
金日成主席の生誕110年記念行事(4月15日)

当初、女性がいわゆる金日成(キム・イルソン)バッチ(金日成主席・金正日総書記の肖像徽章)を着用していなかったことから、金総書記や妻の李雪主(リ・ソルジュ)氏らのように、特別な地位にあるのではないかとの見方が浮上した。

このため、女性が金総書記の異母姉にあたるとされる金雪松(キム・ソルソン)氏ではないかとの指摘もあったが、金雪松氏は金総書記よりも10歳近く上とされており、年齢的に齟齬がある。謎の女性はもっと若いと見られることから、金雪松氏ではない可能性が高いとの見方が大勢だ。

金総書記の女性側近3人衆

金総書記似?祝賀行事にも随行
金総書記似?祝賀行事にも随行

女性は8日夜、平壌市内の万寿台議事堂で開催された建国74周年の祝賀行事となる大規模な野外コンサートと宴会でも、金総書記の近くに付き添っているのが確認された。これまで以上に金総書記の近くで行動し、顔もより鮮明に映し出されている。

金総書記に贈られた花を回収する女性
金総書記に贈られた花を回収する女性

この時は、金総書記が子供たちから贈られた花を管理するなど、金総書記に随行し補佐役を務めた。こうした役割はまず金総書記の妹・金与正(キム・ヨジョン)氏が務め、ついで三池淵(サムジヨン)管弦楽団の団長を務めた玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏が引き継いだ。いずれも金総書記の信頼が厚い人物だけに、この女性も金総書記からこの2人と同様の信頼を得ていると見て良い。

金総書記夫妻の後列で公演を見る3人の女性(左から金与正氏、謎の女性、玄松月氏)
金総書記夫妻の後列で公演を見る3人の女性(左から金与正氏、謎の女性、玄松月氏)

謎の女性随行員と金与正氏、玄松月氏の関係も密接と見られる。祝賀行事の間、3人は終始、金総書記夫妻と行動を共にし、公演の際は3人が金総書記夫妻の後列に座って観覧していた。また、宴会場でも3人が同じテーブルに着いた。

金与正氏は朝鮮労働党の宣伝扇動部副部長として体制宣伝を担当するだけでなく、アメリカや韓国に対する談話を度々発表し、金総書記の主張を代弁する役割を担っている。玄松月氏は金総書記の儀典を統括する役割を続けていると見られ、新たな女性随行員は玄氏の下で金総書記の随行役にあたっているようだ。

7月の全国老兵大会以降、金総書記の周辺に4〜5人のボディガードが配置され身辺警護が強化された。板門店での南北首脳会談や、米朝首脳会談など海外での活動ではボディガードの存在が注目されたが、国内行事でも警護が付くようになった。米韓の「拡大抑止」政策が強化される中で北朝鮮の警戒の高まりが反映された、あるいは安倍晋三元首相の銃撃事件を受けて、北朝鮮でも要人の警護が強化された、などの指摘が出ている。随行役に投入された新たな女性にも、何らかの特別な使命があるのかもしれない。新顔女性の役割に注目していきたい。

【執筆:フジテレビ客員解説委員 鴨下ひろみ】