一面銀世界の北極で「ホッポホッポ」と声をかけ、犬ぞりを操る男性。北極圏に位置するグリーンランド「シオラパルク」は、世界最北の村ともいわれる。この地で、福井ゆかりの探検家が活動を続けている。

男性が北極を行き来するようになったきっかけは、約40年前の幼少期に自然豊かな福井県で過ごした原体験にさかのぼる。

アマゾン川でいかだ下り 植村直己の足跡たどる

2022年7月、北極での暮らしや自然を紹介する展示会が福井県若狭町で開かれた。

この記事の画像(13枚)

北極犬ぞり探検家 山崎哲秀さん:
テント生活をしながら北極を犬ぞりで走り回っていると、テントに白熊がのこのこやってくる

小学生に北極での暮らしぶりを語るのは、北極探検家の山崎哲秀さん(54)だ。

「テント生活をしながら北極を犬ぞりで走り回っていると、テントに白熊がのこのこやってくる」
「テント生活をしながら北極を犬ぞりで走り回っていると、テントに白熊がのこのこやってくる」

人間が生活できる北限とされるグリーンランド最北端の村・シオラパルクを拠点に、1年の半分を過ごす。気温はマイナス40度に迫る。山崎さんはこの地に身を投じて30年になる。

山崎さんは現在、大阪府高槻市に住んでいるが、親の仕事の関係で2歳から10歳までの多感な幼少期を自然豊かな福井県若狭町で過ごした。

北極犬ぞり探検家 山崎哲秀さん:
とにかく家にいるより外へ魚取りに行ったり、虫を捕まえに行ったりとか。じっとしていられなくて

人生に転機が訪れたのは高校生の時だった。偶然手にした1冊の本が、山崎さんの運命を決定づけた。タイトルは「青春を山にかけて」。世界最高峰のエベレストに日本人で初登頂した植村直己さんの著書だ。

人生の転機となった植村直己さんの著書「青春を山にかけて」
人生の転機となった植村直己さんの著書「青春を山にかけて」

福井で過ごした幼少期がよみがえり、本を読み終えた翌日からランニングを始めた。そして、植村さんの足跡をたどり始めた。

北極犬ぞり探検家 山崎哲秀さん:
植村さんもアマゾン川をいかだで下っている。18歳の時に東京から京都まで歩いて帰ったが、そこで俺もアマゾン川を下れるのではと勘違いした。それでその気になって、思ったら行動に移してしまう性格なんで

東京から京都まで500kmを歩いた18歳の山崎さん
東京から京都まで500kmを歩いた18歳の山崎さん

19歳で南アメリカのアマゾン川で単独のいかだ下りに挑戦し、2年がかりで成功した。

そして21歳の時、初めて北極の地を踏んだ。

北極に魅了され…犬ぞりの技術を学ぶ

過酷な自然が立ちはだかるイメージの北極だったが、先住民の狩猟生活を目の当たりにして、その考えは一変した。強烈な生命力を感じ、一気に引き込まれた。

そして、先住民の伝統的な犬ぞり文化を吸収するため、そりの作り方や操縦方法を一から学んだ。13頭の犬と信頼関係を築くことができたが、チームが軌道に乗ったころにアクシデントが発生した。

犬ぞりの技術を学び、犬たちと信頼関係を築くことができたが…
犬ぞりの技術を学び、犬たちと信頼関係を築くことができたが…

北極犬ぞり探検家 山崎哲秀さん:
15年前に大きな事故に遭い、2月の一番寒い時期に割れるはずのなかった地域の氷が割れて…。当時13頭の犬のチームで海氷を走っていたが、犬は13頭とも割れた氷と一緒に流されてしまった。僕はたまたま陸地に逃げることができたが、そこから温暖化を気にするようになった

その後、新たな犬のチームを結成して犬ぞり活動を続けた。今では北極の観測調査に携わり、研究者のサポートもしている。

氷が溶けて活動ができない夏には日本に帰国。イベントで各地をまわり、北極行きの資金集めに奔走する。家族を養うのは妻の有佐さんだ。

妻・有佐さん:
好きなことをして30年の人。続けることに意味を感じている人なので、続けるのはすごい

山崎さんを支える妻の有佐さん 娘の多華ちゃん
山崎さんを支える妻の有佐さん 娘の多華ちゃん

長男の勇希くんは「結構、面白いお父さん」、長女の多華ちゃんは「夜には背中を踏まないといけないお父さん」と評する。

山崎さんは、「インターネットが北極の最北の村でもつながるようになったのが大きい。それがなかったら、完全に家族に忘れ去られている気もする」と笑う。

家族との時間を満喫して再び、2022年11月から半年間、北極に向かう。

(福井テレビ)

福井テレビ
福井テレビ

福井の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。