安倍元首相の国葬をめぐり賛否が分かれる中、8月召集の臨時国会で行う方向だった安倍元首相への追悼演説は、秋に延期する方向に。また旧統一教会と議員の関係、防衛費増額・憲法改正などの課題に岸田政権はどう対応するのか。BSフジLIVE「プライムニュース」では、ベテラン記者をゲストに迎え徹底議論した。

甘利氏に批判で追悼演説が延期 政権運営への影響は

この記事の画像(16枚)

長野美郷キャスター:
安倍元総理の追悼演説は、臨時国会中の8月5日に自民党の甘利前幹事長が行う方向だったが、延期する方向だとわかった。このタイミングでの延期の狙いは。

山田惠資 時事通信社解説委員:
野党が国葬について説明を求めているが、自民党内でも甘利前幹事長に対しての異論・批判が出た。

反町理キャスター:
なぜ甘利さんかという点、ご遺族の昭恵夫人の希望という話が出ている。

山田惠資 時事通信社解説委員
山田惠資 時事通信社解説委員

山田惠資 時事通信社解説委員:
それもあるが、本来は総理経験者として麻生元総理が適任と言われていた。だが弔辞を読んだので変わった。岸田総理にとって、甘利さんというか麻生派を重視することは大事。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
安倍派の高木国対委員長が甘利さんにすることを主導したと。派閥というより、高木さんと甘利さんの個人的な関係があったと思う。そこに茂木幹事長ら執行部を含め、異論の声が出てきた。

長嶋雅子 産経新聞政治部次長:
根回しに不十分な点があった。岸田総理に異論はなかったと思う。

反町理キャスター:
8月3日〜5日の臨時国会後、9月上旬に内閣・党役員人事があると見られ、9月27日に安倍元総理の国葬。10月上旬の臨時国会で追悼演説になる見通し。この先送りは、追悼演説が政権のマイナスになるならその埋め合わせに、という日程感か。

山田惠資 時事通信社解説委員:
年末にかけての予算編成では、岸田カラーを出す上で党内での求心力や政権運営の推進力が非常に必要になる。逆風が吹く形にはしたくない。

岸田首相は保守層取り込みだけでなく、安倍氏の業績の発信を

長嶋雅子 産経新聞政治部次長
長嶋雅子 産経新聞政治部次長

反町理キャスター:
国葬という葬儀について政治的な思惑の話をするのはよくないかもしれないが、岸田さんが国葬カードを切った判断、根拠は。

長嶋雅子 産経新聞政治部次長:
保守層の取り込みもあったと思う。また同期として安倍さんとの関係性。なるべく早く決めようとなったのは不自然ではないと思う。

反町理キャスター:
今までは党内外の保守派を安倍さんが一手に背負い、まとめ役でも安全弁でもあるという役割だった。これがなくなったことへの不安感が、岸田さんに判断をさせたか。

山田惠資 時事通信社解説委員:
そう受け取られたとしても保守層を優先すると。参院選で勝ったが、岸田さんは自分の政権基盤がまだ盤石ではないと思っている。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員
久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
国葬にした狙いは、自民党や世論の右派をうまく収めることだと報道されているが、強い違和感がある。これでは安倍さんは浮かばれない。なぜ国葬なのか、安倍さんは後世の歴史的評価に耐えるようなことをやったのだと、岸田総理がしっかり丁寧に説明すべき。

長野美郷キャスター:
国葬が決まったことについてのFNN世論調査では、「よかった」「どちらかと言えばよかった」が50.1%、「よくなかった」「どちらかといえばよくなかった」が合わせて46.9%と二分の結果に。

山田惠資 時事通信社解説委員:
この50.1%に対して、内閣支持率は62%。逆でなければいけない。自民党は支持しないが国葬がふさわしいと思う人が膨らむほどのときに、政治的に成功したと言うべき。岸田さんが、これから2カ月でこれを増やす説明をできるか。

反町理キャスター:
国葬で国賓がたくさん来て、世界的に安倍さんを悼む声が上がる。空前の警備体制の葬儀になる。大報道の展開後に世論はどうなるか。

長嶋雅子 産経新聞政治部次長:
比較してはいけないとも思うが、近年国論を二分する議論になったイベントとして東京五輪があった。かなり反対意見もあったが、終わってみればかなりやってよかったという空気になった。そういう形になるのでは。

旧統一教会と政治家 持ちつ持たれつの関係が表面化

長野美郷キャスター:
全国霊感商法対策弁護士連絡会によれば、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)について、違法な献金勧誘行為があったと複数の判決で明らかになっており、法人固有の不法行為責任まで認める判決も出ている。数々の違法行為が司法の場で認定されている団体から政治家が支援を受けたり、団体に名前を貸していることをどう見るか。

山田惠資 時事通信社解説委員:
金や人を出してもらうことを期待する動きがあり、違法な献金など団体の活動に対するチェックが甘くなる面はあると思う。だが政治とは、法律さえクリアすれば何をやってもいいというものではない。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
旧統一協会の関係者が、選挙の場や議員会館にいることは公然の秘密という状況が長くあった。政治家との結びつきで社会的信用を得て、それがお布施や献金につながっていた。政治家側からは、やはり猫の手も借りたい選挙における人の運動量。ズルズル続いてきた持ちつ持たれつの関係が表面化した。

長野美郷キャスター:
自民党の茂木幹事長の発言。「党として組織的関係はない」「所属議員には、厳正かつ慎重な対応をするようにさらに注意」。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
岸信介元総理の時代から、自民党内の右派と反共産主義という志向性が合っていたことはある。それは半分大義ではあるが、がむしゃらに選挙運動をしてくれる人が要るということだったと思う。

長野美郷キャスター:
創価学会を支持母体に持つ公明党の山口代表は「捜査が進展中なのでコメントは控えたい」と発言。北側中央幹事会長は「反社会的だと認められる団体との関係は慎重でなければ。宗教団体が政治活動をする特定の候補者や政党を応援するのは、憲法上保障された権利」。

山田惠資 時事通信社解説委員:
誤解する人が生まれないよう非常に言葉を選んでいる。宗教と政治にはギブアンドテークがあるが、旧統一教会が得ようとしているものは社会に還元することではなく、トップの人たちがより潤うこと。公明党の政治活動は信者以外も含めた国民に役立っていると説明しなければいけない。このコメントしかないが、言うタイミングを間違えると非常に危険だと判断したのだろう。

ポスト岸田を狙う茂木幹事長は続投か、財務相に起用か

長野美郷キャスター:
岸田首相は9月上旬にも内閣改造と党役員人事に踏み切るとみられる。何を重視するか。

山田惠資 時事通信社解説委員:
党内で最も割れているテーマは、緊縮財政か積極財政か。2023年の日銀総裁人事が一番の山場で、その前哨戦が今回の防衛費の財源問題という構図。人事では財務大臣に注目している。党内か内閣かは別に、仕切れる能力があるのは茂木幹事長。閣内で主導権を持つなら財務相にという手もあるが、幹事長人事は政局的要素も絡んでくる。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
内閣改造では、主要な部分は残す見方が一般的。党4役に関しては、選挙で勝った茂木幹事長を変えるのはどうかという声は強い。

山田惠資 時事通信社解説委員:
安倍派は今までより発言力が落ちていくが、分裂されてしまうと困る。岸田さんは岸田派の長であり、同時に安倍派も見る形で状況を収めていかなければいけない。またもう一つ大事なのは麻生派。

長嶋雅子 産経新聞政治部次長:
麻生さんは自民党の中で2大政党制という形でやっていきたい考えがあり、安倍派とのバランスもよく考えていくのでは。

反町理キャスター:
岸田派も麻生派も、今の安倍派はまとまっていてもらいたい。だが、ポスト岸田にチャレンジする茂木さんは必ずしもそうではない?

長嶋雅子 産経新聞政治部次長:
茂木さんはそうではないと思う。自身の66歳という年齢もある。

山田惠資 時事通信社解説委員:
茂木さんは次の総裁選がラストチャンスだろうから、今の幹事長ポストを死守するほうが求心力を維持できるため、続投したいだろう。

反町理キャスター:
菅前首相の役割、岸田首相との関係は。

山田惠資 時事通信社解説委員:
迷っていると思う。求心力を保つためには政権側につく方がいいが、菅さんは岸田さんに対抗意識を持っている。岸田さんは菅さんを取り込みたいが、緊縮路線と改革路線のぶつかりもある。

岸田文雄 内閣総理大臣(左)、菅義偉 前内閣総理大臣
岸田文雄 内閣総理大臣(左)、菅義偉 前内閣総理大臣

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
読売新聞が菅副総理説を書いた。理屈の上では、菅さんを何らかの形で入れるといわゆるオール自民体制になり、しかも維新や公明などとのバランサーになる。だが岸田さんの周りでは、ネガティブで慎重な意見も根強い。政治の世界だから打算もあり、まだちょっとわからない。

長嶋雅子 産経新聞政治部次長:
はっきり言えば水と油で、やはりダメではないかと思う。

改憲は解散総選挙の前か後か 防衛費は財源確保が焦点

長野美郷キャスター:
岸田政権の今後の課題、防衛費増額と憲法改正の2つ。どう進めていくか。

長嶋雅子 産経新聞政治部次長:
岸田さんは2019年9月、記者団に対し憲法改正に取り組む意思表示をした。2021年の総裁選の前にも、総裁任期中に憲法改正を成し遂げると期限を言った。防衛費は日米首脳会談での国際的な約束事。取り組むと考える。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
改憲の構えは見せていくと思う。だが中身で3分の2以上一致することが大事だと言っており、そこがポイント。防衛費は、財政健全化路線でいくかどうかで岸田さんの方針が見えてくる。

山田惠資 時事通信社解説委員:
憲法改正について大きいのは、解散総選挙の前に目指すのか後にするのか。防衛費に関しては、実質的には財源問題が非常に大きな肝になる。

BSフジLIVE「プライムニュース」7月28日放送