凶弾に倒れた安倍晋三元首相の葬儀が7月12日、営まれた。BSフジLIVE「プライムニュース」では、官房長官として長く安倍政権を支え続けた菅義偉前首相、安倍元首相と親交を深めていた橋下徹氏を迎え、政治家・安倍晋三が遺したもの、後に続く政治家が取り組むべきことについて伺った。

「一心同体」の菅氏、安倍氏との最後の会話は駅の待合室で

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新美有加キャスター:
安倍元首相が生前、官房長官の菅さんをどんな存在と見ていたか。VTRです。

安倍晋三 元内閣総理大臣(2020年9月):
「一心同体で心をひとつに対応してきました」「国のために、人のために黙々と汗を流してきた菅さんの姿をずっと見てまいりました」。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
涙があふれる思い。あれだけ元気でリーダーシップを発揮してきた人が一瞬にして消えてしまうわけですから……。現実とは思えない。

反町理キャスター:
首相と官房長官になった当初から一心同体だったのか、徐々に心がひとつになっていったのか。

菅義偉 前内閣総理大臣(左)、安倍晋三 元内閣総理大臣
菅義偉 前内閣総理大臣(左)、安倍晋三 元内閣総理大臣

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
官房長官を務めた第2次政権では擁立を含め相談しながらやってきたので、まさに一心同体だった。いろんな配慮をしてくれた。何もなくても毎日一回は10分ぐらいお茶を飲むとか。それを7年8カ月もやってきた。

反町理キャスター:
最後に言葉を交わされたのは?

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
選挙期間中の7月1日、名古屋に遊説に行った時にたまたま安倍さんも来ていた。駅の待合室に私がいたところ訪ねて来てくれた。選挙情勢について「油断しないでいこう」と。

奈良に直行した菅氏「同じ空気を吸いたい」「信じたくなかった」

7月8日夜、安倍元首相が搬送された病院を訪れた菅前首相
7月8日夜、安倍元首相が搬送された病院を訪れた菅前首相

反町理キャスター:
安倍さんが銃撃された日の話を伺わせてください。事件の一報を、菅さんはいつどのようにお聞きに?

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
そんなに時間が経たないうちに、沖縄での遊説に向かう車の中で。党として選挙運動は停止すると。ならば会いに行きたいなと思って奈良に向かいました。

反町理キャスター:
羽田空港へ向かう車の中で判断し、奈良行きの新幹線に乗り換えた。もうじっとしていられないと。

沖縄での遊説に向かう車の中、事件の一報を聞いた菅前首相「会いに行きたいと奈良に向かった」
沖縄での遊説に向かう車の中、事件の一報を聞いた菅前首相「会いに行きたいと奈良に向かった」

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
胸を撃たれたと聞いたものですから、万が一のことを考えて……同じ空気を吸いたいというか。寂しがり屋でもありましたので、そばにいてやりたい。とにかく行ってみようと。

反町理キャスター:
到着されたのは午後6時過ぎ。途中で、残念ながら亡くなられたという情報が入ってきたと思うが……。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
信じたくなかった。自分で確かめてと思っていた。

反町理キャスター:
安倍さんにどういう言葉をかけられたか。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
感謝の気持ち、お世話になったという思いです。

当選2回の菅氏、当選3回の安倍氏を「この人をいつか総理に」

反町理キャスター:
菅さんと安倍さんの出会いについて。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
私は当選2回の時に北朝鮮の拉致問題をやっていた。当時、自民党の総務会で北朝鮮に米を支援する話があり、私が先頭に立ってそれに反対したことが記事になった。すると、そんなに親しくなかったのだが、官房副長官だった安倍さんから直接電話がかかってきて、会いたいと。菅さんの言うことが正しい、徹底して応援するからやってほしいと言われた。私にとっては非常に新鮮な人だった。この人をいつか総理大臣にしたいと思った。

反町理キャスター:
当時まだ菅さんは当選2回、安倍さんは3回。安倍さんは何が違っていた?

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
やはり国家観。その確かな先見性の中で、国のあり方について本格的に私に話してくれた。2回生や3回生で国家観について熱弁を振るう人は、なかなかいなかった。

反町理キャスター:
第1次安倍内閣で、菅さんは総務大臣に就任。しかし、安倍元首相は体調不良のため約1年で辞任することに。辞任後の安倍さんの様子は。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
当時は病気を治すことが第一だった。回復してきた段階から、当時は円高で株価も深刻であり、勉強会で経済政策を話した。それがアベノミクスになる。第1次政権であのように退陣され非常に悔しかったですし、私は機会を見ていた。総裁選が近づいてくるにつれて、やるべきだと言い始めた。

反町理キャスター:
民主党政権時、2012年8月の共同通信の世論調査「次の首相に誰がふさわしいか」。1位が石破さん、7位に安倍さんがいる。「行けるぞ」と言える数字か。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
安倍さんが候補者として名乗りをあげる前の数字。自民党支持層の中での数字も悪くなかった。この数字が出たときはすごくうれしかった。私は絶対に今回出るべきだと話した。「安倍さんしかいない」と。推測だが、安倍さんも自信を持ち始めたのでは。

反町理キャスター:
この時期、維新が安倍さんにアプローチをしていたと仄聞するが。

反町理キャスター(左)、菅義偉 前内閣総理大臣(中)、橋下徹 元大阪府知事 元大阪市長
反町理キャスター(左)、菅義偉 前内閣総理大臣(中)、橋下徹 元大阪府知事 元大阪市長

橋下徹 弁護士 元大阪府知事 元大阪市長:
2011年11月に大阪市長・大阪府知事のダブル選挙に勝ち、大阪都構想に向けて法律を作る必要があって、国政政党を作ろうとぶち上げた。そして松井一郎さんが菅さんに、安倍さんとともに維新のトップになってくれませんかとお願いをした、と聞きます。

反町理キャスター:
えっ!国政政党としての維新のトップになってくださいというお話があったんですか。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
というよりも、安倍さんを首班指名の候補にと。当時、維新は本当に第一党となるかもしれない勢いだった。安倍さんはやはり自民党で、首班指名の前に自民党総裁にならなければだめ。難しいと返事したが、そう言っていただき非常にうれしかった。

国のため安保法制に取り組む安倍氏の信念「鳥肌が立つほど」

新美有加キャスター:
2012年の第2次安倍内閣発足後、総理大臣と官房長官という関係が7年8カ月続いた。菅さん、安倍元首相が一番苦しんでおられたことは。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
経済再生と同時に悩んだのは日米同盟。民主党政権時に全くの機能不全に陥っていた。抑止力を高め戦争をなくすために、安全保障法案を3本作った。

反町理キャスター:
国会周辺でものすごいデモが日夜あった。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
プレッシャーになった。戦争法案とか徴兵制復活とか、野党は事実無根のことを盾に審議をしない。支持率も10%ほど下がった。それでも、国の将来のため成立させなければならない。安倍さんの信念は鳥肌が立つほどだった。今では多くの国民の方が平和安全法制を評価してくれている。

橋下徹 弁護士 元大阪府知事 元大阪市長:
安倍さんがいつも話されていたと聞くが、祖父の岸信介元首相の日米安保条約改定のように、反対があっても必要なことをやり、50年後に評価されるのが政治だと。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
第2次政権を作る時から、安倍さんはやらなければ国がおかしくなると。鳩山元総理の「最低でも県外」発言で日米同盟が機能不全に陥った。すると中国の漁船が尖閣諸島に、ロシアの大統領が国後島に、韓国の大統領が竹島に侵入。日米同盟をまず機能させなければならず、そのために3法案をなんとしても成立させるという思いだった。

菅氏の今後の役割「政策課題に取り組む」

新美有加キャスター:
2020年9月の安倍首相の辞任後、菅さんが首相に。コロナの対応に追われる中、総裁選が近づいた2021年5月の番組出演時、安倍元首相の発言です。

安倍晋三 元内閣総理大臣(2021年5月3日放送):
難しいコロナ禍の中で本当にしっかりとやっていただき感謝しています。総裁選の1年後にまた総裁を変えるのか。当然、菅総理が継続して総理の職を続けられるべきと私は思います。

反町理キャスター:
私の感じたところ、この日の安倍さんがご出演で喋りたかったことは1点「菅再選支持」だけ。この気持ちは伝わっていたか。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
非常に好意的に支援をしていただいた。だが私自身、緊急事態宣言の中で総裁選をすべきでないと決めており、出馬はしないと。

新美有加キャスター:
安倍元首相は、菅さんとバイデン大統領による日米首脳会談についても発言。

安倍晋三 元内閣総理大臣(2021年5月3日放送):
大変高く評価している。バイデン大統領が就任後初めて会った首脳が日本の菅総理。台湾海峡の平和と安定についても共同声明の中で明確に書いた。

反町理キャスター:
52年ぶりに中台関係にまで踏み込んだ日米首脳会談。安倍政権・菅政権においてやってきたものがひとつ形になった。今回は安倍さんが亡くなられ、その方向性をどう維持するか。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
この後、クアッド(日米豪印)の合意やG7でも明確に打ち出され、台湾海峡は間違いなく世界の関心事項になっている。岸田政権になっても同じ方向。

反町理キャスター:
前回番組にお迎えしたとき、勉強会を参院選後に立ち上げるということだったが。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
こういう状況になったから考えるところはある。政策ごとの勉強会をするとしても、新たに派閥のような形で立ち上げることはしない。

反町理キャスター:
菅さんは今後、どういう役割を果たしていこうとお考えなのか。

菅義偉 前内閣総理大臣 元内閣官房長官:
総裁選で約束したカーボンニュートラル、デジタル、地方の活性化、少子化対策。同時に行政の縦割り打破。さらに、安倍さんの掲げてきたアベノミクスや安保3法案をさらに進化させていくこと。政策課題に取り組む。

BSフジLIVE「プライムニュース」7月13日放送