2022年5月16日、殺人の罪に問われている男に懲役15年が言い渡された。男は「特に言うことはありません」と言って、起訴内容を認めた。
男の名前は、「安住亮吾」被告(34)。

10カ月に及ぶ被告とのやりとり

2021年7月、福島・郡山市内のアパートに住むフィリピン国籍の田中ルビーさん(当時32)が、首を絞められ殺害された。

殺害された田中ルビーさん(当時32)
殺害された田中ルビーさん(当時32)
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殺害された田中さんと直前まで交際していて、現場のアパートの部屋を契約していた男。それが安住被告だ。

事件現場
事件現場

福島テレビの矢崎佑太郎記者は、事件後から被告に会い、取材を続けてきた。

安住亮吾被告と接触した福島テレビ・矢崎佑太郎記者
安住亮吾被告と接触した福島テレビ・矢崎佑太郎記者

なぜ記者に接触を試みたのか。被告が伝えたかったこと。記者に語った「すべてを話す」、その言葉の真意とは。
記者が判決までの約10カ月におよぶ、被告とのやりとりをつづる。

「早く犯人が捕まってほしい」という思い感じたが…

私(矢崎佑太郎記者)は逮捕前と逮捕後、安住被告と数回にわたり接触していた。
初めて会ったのは、2021年8月4日。福島・郡山市内のファミリーレストラン。身長は167cmほど、がっちりとした体格の男が目の前に現れた。待ち合わせ時間に少し遅れ、ぶっきらぼうに頭を下げた。

安住被告(逮捕前):
なんでもいいですよ。いろいろ聞きたいことがあると思うので

私は「今回の事件に関してどう感じていますか?」と聞いてみた。

安住被告(逮捕前):
一緒にいたときもあったので、なんで亡くなったのかな? とか。夏とかもやりたいことがあるとか言って…夏だから海に行きたいとか

被害女性との関係や思い出話を淡々と話し始めた安住被告に、私は「カメラの前で今思うことをすべて話してほしい」と伝えた。

安住被告(逮捕前):
誰が殺したのかと自分なりに考えて、殺した人を自分なりに憎んでいますね。犯人がいたら、何で殺したのかを聞きたいですね。理由を…本当に

落ち込んだ様子で、カメラに向かってそう答えた安住被告。
被害女性との思い出や、犯人の目星などを話す安住被告の様子からは、“早く犯人が捕まってほしい”という強い思いを感じた。

一方で、時間がたつにつれて、警察に事情聴取を受けた際の不満や、被害女性への愚痴などを話し始めるなど、違和感も覚えた。

その後もショートメッセージを通して、週1の頻度でやりとりが続く。
接触から約1カ月がたった9月下旬ごろになると、安住被告からショートメッセージだけでなく、頻繁に電話で連絡が入るようになった。
1日に数回かかってくることもあった。

その内容は、「自分が警察に疑われている」「何もしていないのに、警察が自分のことをずっと監視していて精神的にキツイ」「冤罪(えんざい)でも逮捕されることはあるのか」などという相談だった。

この頃から、安住被告の私に対する態度が少し変わってきた。まるで人が変わったかのような強い口調で話すようになった。

私(矢崎佑太郎記者):
安住さんは、やっていないんですよね?

安住被告(逮捕前):
うん。最近漫画を読んでいて、誤認逮捕で何年かたってから逮捕される人を見て怖くなった。もし自分が捕まったら、矢崎さんを警察署に呼んでもいいっすか? 電話の内容も録音していいっすよ。証拠にしてほしいし。俺が、もしルビーさんを殺害するのであれば、自分が契約するアパートでは殺害しないっすよ

そんなことを繰り返し話していた。
そして最後には必ず、「何か事件について新しいことがわかったら教えてほしい」と言ってきた。

記者の私に対し、ここまで積極的に連絡を取ってくるのは犯人ではないからか。
自分が犯人だから、犯人についての新しい情報を求めているのか?
安住被告を信じたい思いと、疑う気持ちが交錯していた。

「面会に来れるなら、その時に全てを話す」

2021年9月30日早朝に、「警察がいる」と安住被告からメッセージが届く。
私は、「何かあったら連絡ください」とメッセージを送った。それから30分後、安住被告が逮捕された。

その知らせを受けた瞬間、「やはり、うそをつかれていたのか」と思う一方で、「どんな証拠を元に逮捕されたのか」「本当に殺害したのか」といった思いが頭を駆けめぐった。

逮捕後も警察の調べに対し、容疑を否認していた安住被告。
真相を知りたいと、私は2021年12月に、安住被告が拘留される郡山拘置支所に手紙を出した。

郡山拘置支所
郡山拘置支所

手紙が返ってきたのは、それから4カ月後の2022年4月。

「手紙だと長くなるので面会に来れるなら、その時に全てをお話しします」

安住被告からの手紙
安住被告からの手紙

逮捕から約7カ月以上たった2022年5月2日、安住被告に接見した。

接見へ向かう福島テレビ・矢崎記者
接見へ向かう福島テレビ・矢崎記者

アクリル板越しの安住被告は、逮捕前と比べると、少し頬がふっくらとした印象を受けた。

安住被告:
矢崎さん、会った時の話は忘れてください…カッとなって俺が殺しました

否認を続けていた安住被告が最初に口にした言葉だった。
「どうして、うそをついていたのですか?」と尋ねた。

安住被告:
自分でも、なんでこんなうそをついているんだろうと思っていました。すぐバレるようなうそ…うそをついているときは苦しかった

続けて「今、どんなことを考えていますか?」と聞くと…

安住被告:
後悔しています。ルビーに毎日ごめんなさいと。あの時どうしたらよかったのか、自問自答しています

罪を認め、反省している態度を見せた安住被告。私は、気持ちの変化を感じた。
流している涙の意味を問うと…

安住被告:
(元妻との間の)娘と会えないというのがあって。正直ルビーでは涙が出ないんですよね。事件前から(2人のトラブルを)相談していた警察にも、ちゃんと対応してほしかったですよね

「ルビーでは涙が出ない」。
この言葉に絶句した。

否認を続けてきた理由は、交際トラブルに対応しなかった警察への不満や取り調べを行った検事に対する不満からだったと話した安住被告。
信頼できる弁護士に、“自分がしたこと”をすべて打ち明けたという。

「裁判では罪を認め、正直に話す」。
うつむきがちに、そう私に話した。
「一生償っていくと思っています」。
この言葉を最後に、1時間に及んだ接見は終わった。

"真実が語られること”期待した裁判

2022年5月16日、4日間に及ぶ裁判員裁判が始まった。
冒頭陳述で検察側は、「安住被告と被害女性の2人が写った写真をめぐってけんかになり、これがきっかけとなって殺害した」などと、交際トラブルによる犯行の経緯を明らかにした。
さらに安住被告は、田中さんのほかに、元妻と別の女性のあわせて3人と同時に交際していたこと。被害女性を殺害後、2人の女性に性行為を迫っていたことも明らかになった。

被告人質問では、私の取材についても触れられた。

検察:
テレビ局の取材にも応じていますよね?

安住被告:
はい

検察:
拘置所でも記者の取材を受けていますよね?

安住被告:
はい

検察:
その際はどんな話をしましたか?

安住被告:
否認をしていたので、それまでの経緯を…自分が殺してしまったことを、その人に話そうと思いました

2日目の裁判の終わりに、安住被告から「矢崎さん、明日も来てください」と、去り際に小声で話しかけられた。

接見の際に私に言った、「裁判で正直に話す」という言葉。真実が語られることを期待していたが、大きく裏切られた。

検察:
あなたは犯行後、携帯電話から“第一発見者”というワードを検索していますが、これは?

安住被告:
その時の精神の状態はわかりません

検察:
自分が殺害したあとに、不安だったから検索した?

安住被告:
自分がやった行動は、あまり覚えていないんです

検察:
第一発見者というワードを調べて、何がしたかった?

安住被告:
覚えていません

検察:
あなたは犯行翌日、警察に電話をかけて「彼女と連絡が取れない」「彼女が死んでいるかもしれない」「もし自分が発見したら、自分が第一発見者になりますよね?」などと電話をかけましたよね?

安住被告:
自分でもわからないぐらい、頭がおかしかった

被害女性の首を絞めた時間や、部屋の鍵を持ち去った理由などについても「わからない」「覚えていない」など、曖昧な答えを繰り返した。

裁判所が下した判決は、求刑通りの懲役15年。
「安住被告の不誠実な交際が発端で、犯行前から被害者を煩わしく思い、被害者との関係を清算したいと考えるなかで犯行に及んだ」。
「犯行後 自首するなどせず、被害者の携帯電話宛てにメッセージを送ったり、被害者のパソコン、携帯電話などを捨てたりして偽装工作、自己保身を図ったことも量刑上考慮すべき」。
情状酌量による減刑を求めた安住被告の主張は認められなかった。

判決が言い渡された瞬間、安住被告は目をつぶり、下を向いていた。

やり取り重ねても見えなかった本心

逮捕前から安住被告と接触し、直接、彼の話を聞いてきた。

逮捕前、取材にこたえる安住被告
逮捕前、取材にこたえる安住被告

カメラの前でインタビューに答えた理由は何だったのか。
マスコミを味方につけて、彼女を心配する彼氏を演じたかったのだろうか。
警察の捜査を混乱させるためだったのか。

接見の際には、「裁判では正直に話す」と言っていたのに、法廷で事件の核心部分については「わからない」「覚えていない」と自己保身を続けた。

彼の本当の言葉はどれなのか。私に伝えたかったことは何なのか。
取材を重ねても、私は、本当の“安住亮吾”という人間を知ることはできなかった。

(矢崎佑太郎 福島テレビ・記者)