6月22日の参院選公示が迫ってきました。
参院選で私たちは「選挙区」と「比例区」と2票投票できるのですが、前回は「比例区」を中心に説明したので、今回は「選挙区」を詳しく説明したいと思います。

選ばれる人数の違いで何が起こる?

去年、行われた衆院選では、それぞれの選挙区で選ばれる人数は1人でした(「小選挙区制度」と呼ばれます)。このため、多くの選挙区では、与党側と野党側が、それぞれ候補者を1人に絞り、「政権選択」の色合いが濃い構図となりました。

一方、参院選では、選挙区で選ばれる人数(定数)が、投票できる18歳以上の有権者数に応じて、1人~6人となっています。ただ、定数が多いからといって、何票も投じることができるわけではなく、選挙区で投票できるのは、全国どこでも1人1票だけです。

“一騎打ち”で与野党激突の「1人区」

参院選の選挙区のうち、32の選挙区は定数「1」で、「1人区」と呼ばれています。当選するのが1人という点で、衆院選と同じですので、与党側と野党側がそれぞれ候補者を1人に絞る傾向があり、野党としてはどこまで候補者を1人に一本化できるか各党の調整が毎回大変な作業となります。

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「1人区」は「勝敗のカギを握る」といわれますが、過去の選挙を振り返るとよく分かります。

2007年の参院選は、年金をめぐる問題や相次ぐ閣僚の不祥事で、当時の安倍内閣にとって逆風の選挙でした。「1人区」は29あったのですが、自民党は6選挙区でしか勝てず、民主党(当時)を中心とした非自民の候補が23選挙区を制しました。

与党が1人区で6勝23敗となった結果は大きく、自民党は結党以来、初めて参院の第一党の座を失い、代わって第一党となった民主党は、2年後の衆院選でも勝利して政権交代に繋げました。

この選挙で当選した議員が、任期の6年間を終えて再び選挙に臨んだのが2013年の参院選です。この間に民主党は国民の信任を失い、前年の2012年の衆院選で自民党・公明党に敗北して政権から転落。安倍氏が首相に返り咲いていました。

2013年の参院選で「1人区」は31あったのですが、民主党の公認候補は全敗。自民党が実に29の選挙区で勝利し、参院の第一党に返り咲くとともに、公明党とあわせた与党の議席が参院の過半数を占めました。この選挙で安定政権の基盤ができたことが、安倍氏の史上最長の首相在職期間につながった一つの要因といえそうです。

2回の選挙を振り返っただけでも、参院選の「勝敗のカギを握る」意味で「1人区」の重要性、そして、結果が政局の行方に及ぼす影響の大きさがわかります。

「複数区」では構図が一変… “バトルロイヤル”も

一方、2人以上が当選する「複数区」では、「1人区」のような激しい争いが起きないのでしょうか。トップでなくても当選できるので、“楽な選挙”になりそうな気もしますが、こちらは、別の意味で厳しい戦いが繰り広げられることもあります。

投票する側からすると、「複数区」はたくさんの選択肢があるように感じられます。当選する人数が多いため、多くの政党・団体から候補者が出る傾向があるからです。

「1人区」では、たとえば、「A党」が、主張が近く国会で協力関係にある「B党」と、事前に協議して候補者を1人に絞る「一本化」を行うことがあります。1人しか当選しないので、主張の近い党同士で争うことは得策でないと考える訳です。

一方、「複数区」では、選挙区ごとの当選者数が2人以上です。特に、都市部の選挙区は人口が多いため定数が多く、埼玉・神奈川・愛知・大阪は4人、東京では6人の議員が選ばれるため、多くの政党が候補者を擁立し、さらに1つの政党から複数の候補者が出馬する場合もあります。

先ほどの例でいえば、協力関係にある「A党」「B党」が、ともに候補者を擁立することもありますし、定数が多い選挙区では、「A党」から2人、「B党」から1人が立候補することもあり得ます。

この結果、「複数区」では、同じ党の候補者や主張が近い党の候補者同士が争わなければならない場合が出てきます。そのため“ギリギリ当選”の1議席を、同じ党の仲間同士と争う形になってしまうこともあるわけです。

普段はタッグを組んでいる仲間とも争わなければならない…定数の多い選挙区を、プロレスにたとえて「バトルロイヤルのようなもの」と評する永田町関係者もいました。

「合区」とは…「1票の格差」と選挙区

最後に、選挙区をめぐり長年、議論が続いている課題について紹介します。

参院選の選挙区は、1947年に最初の参院選が行われて以降、都道府県を単位にしてきました。都道府県ごとに、有権者数に違いがありますが、割り振る定数を変えることで、「1票の格差」が大きく生じないよう調整してきました。

「1票の格差」とは、有権者が持つ1票の価値が選挙区ごとで異なることで、例えば40万人有権者がいて1人の国会議員を選ぶ選挙区と、80万人有権者がいて1人の国会議員を選ぶ選挙区では、1票の格差が2倍となってしまいます。

しかし、都市部への人口集中と、一部の地方からの人口流出が進んだ結果、都道府県単位で選挙区を維持したまま「1票の格差」が生じないようにすることが難しくなりました。そこで、2016年の参院選から、鳥取と島根、徳島と高知について、2つの県を1つの選挙区とする「合区」と呼ばれる措置がとられています。

「1票の格差」を最小限に抑えるためのものですが、「国会議員には地域代表の意味もある」「合区で地域の声が届かなくなる」といった声があがっています。

都市部への人口集中の傾向は、収まる見通しがありません。参院全体の議員定数を増やさない限りは、さらなる「合区」の可能性が生じます。1票の価値の平等性と地域の声の反映という難しい課題に対して、今後も議論が続くものとみられます。

次回は、「焦点」となる数字、何議席をとれば政権としては「勝ち」なのかについて、お伝えしたいと思います。

【執筆:フジテレビ政治部】
【イラスト:さいとうひさし】

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