5月特集は「相続に備える」。
相続では財産を受け継ぐことができるが「トクをする」とは限らない。ここでの「財産」は負債も資産もひっくるめたもので、プラスの資産だけを受け継ぐことはできないためだ。

特に見落としがちなのが、故人が山林などの不動産を所有していた場合。相続や不動産関係を扱う「グリーン司法書士法人」によると、相続がプラスにならないこともあるという。

山林の相続は慎重に(画像はイメージ)
山林の相続は慎重に(画像はイメージ)
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相続は放棄できる「相続放棄」という制度もあるが、期限は「相続の開始を知った時」(一般的には被相続人の死亡日)から3カ月以内なので、早めの判断が求められたりもする。※3カ月を超えても、例外的に相続放棄が認められることもある。

相続放棄ってどうすればできるの?

相続放棄は負債を放棄するには必要な手続きなので、覚えておいて損はない。相続放棄の基本的な流れと山林の相続になぜ注意が必要なのかを、グリーン司法書士法人に伺った。


――相続放棄の基本的な流れ、手続きを教えて。

相続放棄は自分が相続人と知ったときから、通常は3カ月以内にしなければなりません。この間に故人の財産調査をして資産や負債を調べてから、管轄の家庭裁判所に相続放棄の申立てをします。認められると「申述受理通知書」 が送付されて、完了となります。

必要な書類は誰が相続人になるかで異なり、オーソドックスな「親子間」相続の場合では(1)故人の死亡の記載がある戸籍謄本(2)故人の死亡後の住民票除票(3)自分の戸籍謄本が必要です。


――3カ月を過ぎてしまうとどうなるの?

単純承認 (財産を無条件で相続すること)といい、相続を認めたことになります。財産を自分のために使っていたりしても、相続を認めたとみなされることもあります。ただ、単純承認の後でも財産の返済などをすれば相続放棄できるケースもあるので、絶対ではありません。

財産を使うと単純承認とみなされることも(画像はイメージ)
財産を使うと単純承認とみなされることも(画像はイメージ)

3カ月の期限も、財産調査が進まないなどの理由があれば延長できることもあります。また、理由がしっかりしていれば期限を過ぎても放棄が認められることもあります。ここを知らずに負債を返済している人もいると思うので、覚えてほしいですね。

相続放棄のメリット、デメリット

――相続放棄のメリット、デメリットを教えて。

メリットは、(1)負債から逃れられる(2)相続に関わらなくてもいいことです。相続の手続きは面倒なところもあります。小さな頃に離婚した親が亡くなり、子どもが相続人となっていたりすると、相続に関わりたくないと相続放棄することもあります。

デメリットは、(1)相続放棄の後に資産があると分かっても受け取れない(2)相続放棄は一度すると、基本的には取り消せないことです。また、相続人には血縁関係で優先順位があるのですが、優先順位が高い人が相続放棄すると、負債を含めた財産が次の順位の人に回ってきます。相続したくない場合はその人も相続放棄をする必要があります。

相続人の優先順位(提供:グリーン司法書士法人)
相続人の優先順位(提供:グリーン司法書士法人)

――相続放棄が却下されることはあるの?

却下の要因は次のようなものです。事情によっては却下の要因があっても受理されます。

・書面に不足か不備があるが、補正手続をしない
・期限切れの申し立て
・相続財産を消費したりしている(単純承認)
・相続財産の名義書換などしている(単純承認)
・相続人でない(まだ相続権が回ってきていない)


――相続放棄で注意をしてほしいことはある?

相続放棄の後にプラスの財産が出てきても相続できないので、財産調査はしっかりすること。また、相続放棄の申立てができるのは一度きりなので、慎重に行ってほしいですね。

固定資産税に管理義務…山林の所有は悩ましい

――山林の相続がプラスにならないこともあるのはなぜ?

山林は基本的に売却が難しいです。こうした土地にも固定資産税はかかるので、継続的な出費となります。所有者には管理義務も発生するので、整備のコストがかかる場合もあります。そのため、相続はしたけど手放せず、扱いに悩むことがあります。こうした状況は山林のほかにも、過疎地の不動産、バブル景気の時代に買わされた原野などで起きています。

山林は相続はしたが手放せないケースも(画像はイメージ)
山林は相続はしたが手放せないケースも(画像はイメージ)

――山林相続のメリット、デメリットを教えて。

メリットは、山林は活用できることもあること。林業関係の事業に使うこともできますし、太陽光発電ができることもあります。購入希望者が見つかれば、売却益も得られます。デメリットは売りにくい、活用しにくい、固定資産税が発生する、管理責任が発生することです。

管理責任には注意が必要です。例えば、山林に隣接した宅地や民家があると、手入れをしていない樹木が損害を与えたりすることも考えられます。山林が崩れるなどのリスクもゼロではありません。

放置した樹木が損害を与える可能性も(画像はイメージ)
放置した樹木が損害を与える可能性も(画像はイメージ)

また、危険な場所に人間が立ち入ることも考えられます。山林は自然物なのでどこまでが責任に該当するのかというところはありますが、危険な場所はネットで覆う、樹木は伐採するなどの対処をしないままでいると、民事的・刑事的な責任につながるリスクもあります。


――山林相続でトラブルが起きることはある?

相続放棄は特定の財産だけの放棄はできないので、相続人が複数人いると、他の財産はほしいが山林の管理はしたくないと、押し付け合いになってしまうこともあります。

相続するかしないか…どう判断する?

――山林を相続するかしないかはどう判断すればいい?

財産を全体で見て考えてください。山林に活用や売却の可能性はあるか。その他と比較して相続がプラスになるかを調べてから、判断をお勧めします。山林だから相続放棄すべきというわけではなくて、活用や売却が難しいと思ったら、他の財産も考慮して放棄を検討するという流れで良いと思います。3カ月の期限はありますが、慌てないでほしいですね。

林業などに活用できることもある(画像はイメージ)
林業などに活用できることもある(画像はイメージ)

――相続放棄はせずに、山林を手放したりする方法はあるの?

流れとしては、売却できるかどうかを不動産業者に調べてもらう。難しい場合は各都道府県にある森林組合に聞いてみることになると思います。森林組合は林業の関係者で構成しているので、山林を求める方がいることもあります。太陽光発電ができるなら投資家などに販売できる可能性もありますが、素人で計画を立てるのはほぼ不可能なので、専門業者に調査面談を頼むことになると思われます。


――相続放棄を検討している人にアドバイスを。

正しい手続きをすれば、相続放棄が却下されることは基本的にはありませんが、申立ては原則的に一度しかできません。専門家に一度相談してみてほしいですね。時間と多少の費用は掛かりますが、損をしないことにつながると思います。


地方では、祖父母などから山林の相続を持ちかけられることもあると聞く。活用できる場合もあるが後悔することのないよう、相続人となった時のことを考えてみてもいいかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。