5月特集のテーマは「相続」。相続とは誰かが亡くなったとき、その財産を別の人が受け継ぐこと。親子や配偶者などの間でいつかは訪れることだが、トラブルの原因となることがある。

司法統計によると、2020年の遺産分割事件数は1万2760件にのぼる。1995年は8165件、2005年は1万130件となっていて、長期では増加傾向にあると言える。どれくらいの金額で揉めているのかというと、2020年は5807件で認容・調停が成立したが、遺産の価額別で分けると、5000万円以下(2492件)と1000万円以下(2017件)で全体の7割以上を占めた。

多額でなくとも、争いが起きてしまうことが分かる。家族の仲を引き裂く問題には発展させたくないところだが、今から対策はできるのだろうか。相続の基本について知っておくことも大事だろう。

相続ってなに?基本の流れをおさらい

相続問題の解決を支援する「相続サポートセンター」に所属する、税理士の古尾谷裕昭さん、三ツ本純さんに、相続の流れやトラブルの例などを伺った。

相続は人が亡くなったとき、財産を受け継ぐことで、亡くなった人を「被相続人」、受け継ぐ人を「相続人」と呼ぶ。そしてこの財産は法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)全員が合意すれば、分け方を自由に決めていいことになっているという。法定相続人が1人だとその人が相続人だが、複数いる場合は話し合いが必要になる。

相続の簡単な概要(提供:相続サポートセンター)
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そしてこの話し合いのためには、(1)法定相続人がどれだけいるか(2)故人はどんな財産を持っていたか。この2つの把握が欠かせないという。(1)は自治体などを通じて、被相続人の戸籍を「死亡時から出生まで全て遡る」ことで、(2)は財産の情報を洗い出すことで調べるという。

準備が整ったら、法定相続人全員での話し合い(遺産分割協議)で財産の分け方を決める。これが相続の基本的な流れだ。注意してほしいのは、ここでいう「財産」は借金などの負債も含んでいて、プラスの資産だけを相続することはできないことだ。

マイナスの財産も含まれる(提供:相続サポートセンター)

相続は放棄することもできるが、期限は「相続の開始を知った日」(一般的には被相続人の死亡日)から3カ月以内なので、覚えておきたい。※例外的に相続放棄が認められることもある

相続放棄できる期限にも注意(提供:相続サポートセンター)

なぜもめてしまう?「法定相続分」や「遺言書」が背景

それでは、相続でなぜトラブルが起きるのか?というと、法律上のルールが関係してくる。

民法では、誰が法定相続人になるのかは、被相続人からみた血縁関係で定められていて、(1)配偶者は常に相続人となる(2)配偶者以外の相続人には順位がある(3)同じ順位の人は全員が相続人となり、相続割合は平等(4)遺言がある場合には遺言内容が優先する。というルールがあるという。

配偶者以外の相続人の順位は、第1順位:子ども、第2順位:父母など、第3順位:兄弟姉妹で「上の相続順位の人がいる場合には、下の相続順位の人は相続人にならない」という決まりもある。例えば、子どもが2人いる家庭で夫が亡くなると、法定相続人は「配偶者の妻と子ども2人」となる。

法定相続人の範囲と優先順位(提供:相続サポートセンター)

民法では「法定相続分」という、各相続人の取り分も定められている。例えば、遺産が1億円で配偶者と子ども4人が相続人の場合、取り分は配偶者が5000万円、子どもは1250万円ずつといった感じだ。

【相続人の組み合わせと法定相続分】
・配偶者+子ども(直系卑属)の場合 配偶者は2分の1、子どもは全員で2分の1を相続
・配偶者+父母(直系尊属)の場合 配偶者は3分の2、父母は2人で3分の1を相続
・配偶者+兄弟姉妹の場合 配偶者は4分の3、兄弟姉妹は全員で4分の1を相続

相続人が配偶者と子どもの場合(提供:相続サポートセンター)

ただ、遺産分割協議では取り分の割合も自由に決められるので、法定相続分が無視されることもある。こうなると取り分をめぐって、トラブルになることもあるという。

さらに、被相続人が遺言書を残していた場合、法定相続人や法定相続分を無視して、誰にどう渡すのかを自由に決めることができる。特定の人を相続人から排除したり、親族以外の第三者に譲り渡すこともできるということで、火種がいくつもあるようなものだ。

遺言書があると自由に渡せる(提供:相続サポートセンター)

「相続人が法定相続分の目安も分からず、自分の意見ばかりを伝えて遺産分割がまとまらない、手続きがスムーズに進まないこともあります。そうなると相続放棄が思うようにできなかったり、相続税などで高い金額を支払うことになる可能性もあります」(古尾谷さん)

最低限の遺産を貰える権利「遺留分」

具体的にはどんなトラブルがあるのか。お二方に聞くと、典型的なのは子どもが複数人いて、遺言書で特定の子どもに遺産を多く残しているパターン。また、遺言書がなくても、特定の子どもだけが親の介護などをしていると「自分が面倒を見たのに、他の子どもと同じ金額しかもらえないのはおかしい」ともめることも多いという。

「もともとは仲の良い兄弟姉妹でも、それぞれの配偶者など第三者がアドバイスをすることで権利を主張しはじめて、トラブルになってしまうこともあります」(三ツ本さん)

介護などをした子どもが不満を持つことも(画像はイメージ)

また、遺言書よりも強い権利として、被相続人の配偶者、子ども、直系尊属(親、祖父母など)には、最低限の遺産を分けてもらえる「遺留分」という権利がある。考え方の基本は、法定相続分の2分の1が遺留分になるというものだ。

法定相続分と遺留分の違い(提供:相続サポートセンター)

ただ、遺留分の請求にも手続きが必要で、相続人が話し合いに応じない場合は、家庭裁判所に間に入ってもらい、裁判での争いになることもあるという。

元気なうちに親族間での話し合いを

相続をもめごとにしないためには、どうすればいいのか。お二方に聞くと、元気なうちに親子で財産の情報を共有したり、きょうだいで話し合いすることを勧めたいという。

親の立場、将来の被相続人になる人には、残された人たちが財産の情報を確認しやすいよう、預金口座などの財産を集約してみる。遺産の扱いでもめそうな場合は、遺言書を残しておくことも一つの方法だという。子どもの立場、将来の相続人になる人には、親が亡くなったら財産はどうなるのか、分け方に納得できるかを話してみてほしいという。

「相続や財産の話はしにくい人も多いと思いますが、亡くなってから『どこに何がある?』と探すところから始まると、相続関係の申告期限で困ることもあります」(三ツ本さん)

銀行口座など財産を集約してもいいという(画像はイメージ)

近年はコロナ禍の影響で、相続の話し合いや手続きが進まないこともあるという。例えば、高齢の相続人が施設にいて、思うように会えない。相続人同士が電話やメールといった間接的な手段でやりとりすることで、ニュアンス的な部分で揉めることも考えられるという。こうしたトラブルをふせぐためにも、情報や意見のすり合わせを十分にしておくことが重要といえそうだ。

相続の手続きは残された人たちで完結するのは難しく、大枠では相続全般は税理士に、遺産分割でのもめごとは弁護士に、不動産関係は司法書士に頼ることになる。こうした専門家は無料相談に対応しているところもあるので、元気なうちに聞いてみてもいいという。

「相続の手続きは自分で調べても分かる部分には限界があります。遺産分割はなかなかまとまらないケースも多いので、早めに対応できるよう、相談先は確保した方がいいと思います」(古尾谷さん)

元気なうちに情報や意見のすり合わせを(画像はイメージ)

長期休暇で久しぶりに実家に戻る人もいるはず。相続の話はしにくいものだが、いざというときに後悔することのないよう、家族で話し合ってみてはいかがだろうか。

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