福井県鯖江市出身の書家・前田鎌利(まえだ・かまり)さんが、故郷に図書館をオープンさせた。ただその形式は、「本棚オーナー制」という聞き慣れないものだ。
図書館に込める思い、そしてなぜ鯖江市なのかを探った。

日本を代表する書家・前田鎌利氏 故郷に図書館をオープン

鯖江市本町の商店街。郊外にショッピングセンターができ、他の地方同様“シャッター通り”となっているこの商店街に建つ「市民ホールつつじ」を訪れた。

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このホールの小さな会議室で4月、木製の本棚を組み立てる作業が進められていた。
「私設図書館のオープンに向けて準備を進めている」と話すのは、鯖江市出身の書家・前田鎌利さん(49)だ。

私設図書館をオープンさせた前田鎌利さん
私設図書館をオープンさせた前田鎌利さん

書のライブパフォーマンスなどを行う日本を代表する書家で、作品は、羽田空港のラウンジに飾られているほか、福井県の老舗酒蔵のオリジナルパッケージなども手掛けている。

ライブパフォーマンスを行う前田鎌利さん
ライブパフォーマンスを行う前田鎌利さん

ただ、前田さんは書家以外の別の顔も持つ。それが、プレゼンテーションクリエーターという顔だ。
書家として独立する前の会社員時代に、社内で自分の意見が通るようプレゼンテーションの技術を磨いた。その能力が買われ、ソフトバンクグループの創業者・孫正義会長兼社長のプレゼン資料も手がけた。

孫正義氏のプレゼン資料も作成
孫正義氏のプレゼン資料も作成

そのノウハウは著書にまとめられ、ベストセラーになっている。

本棚ごとにオーナーが…思い入れのある本が並ぶ

そんな前田さんが手がける私設図書館だが、そのスタイルは一風変わっている。

書家・前田鎌利さん:
ここにできるのは普通の図書館ではなく、一つ一つの棚にオーナーがいる。オーナーが読んでほしいと、思い入れのある本が並ぶ図書館になる

この図書館では、本棚の1ブロックを年間2万4,000円で貸し出すという。通常の図書館のように、さまざまなジャンルの本を網羅するわけではない。1人1人のオーナーが好きな本を置き、それが集まって図書館になるというスタイルだ。

棚にはオーナーが読んでほしい本が並べられる
棚にはオーナーが読んでほしい本が並べられる

クラウドファンディングでオーナーを募り、全国から60人が集まった。

オーナーになった1人、鯖江市で居酒屋を営む男性は、生き物の本を置いた。
男性は、「生き物にあってみたいなとか、ワクワクしたのを思い出した。自分の本を見てくれて、人生がちょっとでも豊かになる手伝いができたらうれしい」と語る。

生き物や自然に関する本を選んだ男性
生き物や自然に関する本を選んだ男性

また、大阪のスピリチュアリストの女性は、「自分が精神的につらかったり、しんどい時期に助けてもらった本を置いた。同じようにしんどい人たちが、気づきとか楽になればいいなと思う」と話す。

「しんどい人たちの助けになれば」と語る女性
「しんどい人たちの助けになれば」と語る女性

女性は、図書館をきっかけに今後も鯖江市に足を運びたいと意欲を見せた。

故郷「僕の原点」に恩返し…「未来に継ぐ」図書館を

なぜ前田さんは、ふるさとである鯖江市にこの図書館を開設しようと思ったのか。

書家・前田鎌利さん:
ここは昔、平和堂(ショッピングセンター)だった。小さいころ、毎週来ていた思い出の場所。こっちの商店街の3階には書道教室があって、僕の原点

書家・前田鎌利さん:
故郷に恩返しがしたかった。図書館を作ることで人が集まり、鯖江が活性化してほしい

集まった本の中には、マーカーが引いてあったり、付箋が付いていたりするものもあり、選んだオーナーの心に響いた言葉を一目で知ることができる。

また、棚にはオーナーたちのメッセージも飾り付けた。

オーナーの思いが伝わるメッセジーも
オーナーの思いが伝わるメッセジーも

できたばかりの図書館には、ほんのり木の香りが漂う。

前田さんは、この図書館に「つぐみ」という名前を付けた。「つぐみ」は福井県の鳥だ。前田さんは、このつぐみの意味を「未来へ継ぐ」と解釈している。

書家・前田鎌利さん:
たくさんのオーナーの思いが詰まっている図書館なので、その思いを次世代の子どもたちに継いでいってほしい

(福井テレビ)

福井テレビ
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