「10年固定金利」など引き上げ
5月、住宅ローンをめぐってある動きがあった。メガバンク3行で、一部の店頭金利が引き上げられたのだ。
住宅ローンの金利には、返済期間が終わるまで金利が変わらない「全期間固定型」と、最初の10年などの一定期間、金利が固定される「固定期間選択型」、さらに、金利情勢の変化に応じて、半年ごとに金利が変わる「変動型」の3つがある。
今回、3行でほぼそろって上昇したのは「固定期間選択型」の金利だ。
10年間金利が固定される「10年固定」では、三菱UFJ銀行と三井住友銀行で基準金利が4月から0.15ポイント引き上げられ、三菱UFJ銀行が年3.69%、三井住友銀行が3.70%になった。また、みずほ銀行でも、0.10ポイント引き上げられて、3.05%になった。
この記事の画像(6枚)実際に融資される際には、基準金利をもとに、利用客ごとに優遇幅が設けられるのが一般的だが、各行とも2013~2014年以来の高水準だ。
また、住宅金融支援機構は、5月2日、民間銀行と提携して扱う全期間固定型ローン「フラット35」(借入期間21年以上35年以下、融資率9割以下)の5月の金利について、0.04ポイント引き上げて1.48%にしたと発表した。
上昇傾向にある「固定型」金利
「固定型」の金利は長期金利を反映し、債券市場の国債の利回りを手がかりに決められる。
利上げを進めるアメリカの金利情勢につられて、日本の長期金利も上がってきていて、こうした動きに連動する形で「固定型」の住宅ローン金利も、このところ上昇傾向が続いている。
「固定型」に対して、変動するリスクのある「変動型」の金利は、一般的に低く設定されている。
今回、「固定型」がほぼ引き上げられたのに対し、「変動型」の基準金利は、3行とも2.475%で据え置かれた。
「変動型」の金利は、優良企業に短期で貸し出す金利をもとに決められていることが多く、この貸し出し金利は「短期プライムレート(短プラ)」と呼ばれ、日銀の金融政策の影響を強く受ける。
日銀による「マイナス金利」政策が続くなか、「変動型」金利は上がりにくい状況が継続していて、住宅金融支援機構による去年秋時点の調査では、住宅ローンで「変動型」を選ぶ人は67%に及んでいた。
「金利上昇」が促す「借り換え」
しかし、いま、住宅ローン利用者にある変化が起きているという。
住宅ローン比較サービス「モゲチェック」を運営するMFSによると、4月の「借り換え申込数」が、去年の同じ月の1.5倍に増加し、きっかけとして「金利上昇」をあげた人がおよそ3割に上った。
MFSは、「とりあえずの負担額の低さから『変動型』を選択する人は依然として多いが、『固定型』金利が上昇するなか、金利に敏感になる人が目立ってきている」と分析している。
また、ある大手銀行関係者は「全期間固定型の利用者が、1年前のおよそ2倍に増えている」と話していて、「これ以上上がる前に、金利を確定しておきたいと考える人が増えている」とみている。
「固定型」か「変動型」か…どちらを選ぶ?
「変動型」を選んで当面の低金利のメリットを享受するか、「固定型」を選択して金利上昇のリスクを少なくするか。
「変動型」は、金利がこの先上昇すれば、利息が増加するおそれがある。
一方、「固定型」は、変動金利の水準が低いままなら、支払額が相対的に多くなる可能性があるものの、将来の資金計画は立てやすい。
実際に、この春、マンションを購入し35年固定でローンを組んだという夫婦に理由を聞いたところ、「金利がどうなるか心配で、この先の生活で返済額が増える懸念を極力なくそうと思った」との答えが返ってきた。
アメリカで進む「利上げ」と、日銀の「超低金利」政策がどうなるかを踏まえ、金利情勢をみながらの慎重な選択が必要な場面になってきたといえそうだ。
【執筆:フジテレビ経済部長兼解説委員 サーティファイド ファイナンシャル プランナー(CFP)智田裕一】