ウクライナ情勢が私たちの暮らしに及ぼす影響が広がるなか、外国為替市場でも、家計を左右する動きが進んでいる。

6年ぶりの円安水準

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円売りドル買いが加速し、円相場は3月28日、一時1ドル=123円台まで値下がりし、6年3か月ぶりの円安ドル高水準となった。 

ウクライナ情勢の深刻化と円安の進行が、日本国内のモノの値段の一層の上昇を誘発しそうな勢いだ。

4月の値上げ品目は500を超える

まもなくやってくる4月に値上げが予定されている物品を調べてみた。

レトルトカレー焼きそばチーズケチャッププリンのほか、トイレットペーパーティッシュペーパーカセットコンロなど、さまざまな食料品から生活用品にいたるまで非常に広い範囲に及び、ざっと数えただけでも500品目を超える。 

これらの商品の値上げの多くは、ウクライナ情勢が緊迫化するより前に、世界経済が新型コロナによる落ち込みから回復する途上で、人々の消費が増え、供給が需要に追い付かなくなるなか、原材料や物流・燃料費が上昇していたことなどを要因としている。

そして、いま、ウクライナ情勢の深刻化でモノやエネルギーの供給が見通せなくなり、物流網が混乱して、物価の上昇にさらに拍車がかかりそうな事態となっている。

原油と小麦の値上がりで年7万円の負担増

今後の暮らしにどのような影響がありうるのか、朝起きてから寝るまでの一日の生活を例にとって想定されるケースを考えてみた。

起床して、電気をつけ、朝食はトーストで済ませるが、電気料金に加え、パンの値上がりが心配される。

出勤するとき、駅まで乗る自転車は、部品にアルミが使われていて値段の行方が気がかりだ。

仕事で車を使う時には、さらに高くなるガソリンを入れなくてはならず、帰宅途中にクリーニングに出した服を引き取る際は、クリーニング作業のほか、ハンガー、服を入れる袋にも石油製品が使われていて、原油高は料金にさらに響いてくる。

家に帰っての夕食はちょっと奮発してステーキを焼くことにするが、調理に使うフライパンや鍋の価格に加えて、牛のエサのとうもろこしの相場上昇に伴い、この先、肉の値段も上がるかもしれない。

就寝前に入浴するが、お風呂で使うガス代も懸念材料だ。

というように、影響が生活の様々な場面で出てくる可能性があるが、第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストの試算では、原油価格が1バレル=120ドルで推移した場合、2人以上世帯の家計の年間負担額は6万8000円増加するほか、来月の輸入小麦の価格上昇により2000円増え、あわせると7万円の負担増になる。

アメリカ金融政策の転換で加速する「円安」

ウクライナ情勢による資源・エネルギー・穀物相場の上昇とともに、物価を押し上げる要因になるのが「円安」だ。

そして、円安を加速させているのが「アメリカの金融政策の転換」である。アメリカでは、景気が日本よりはるかによくなっていて、人々が活発に買いものをするようになり、モノの値段が日本以上に急速に上がっている。

値段が上がっていくなら、いまのうちに、例えば、お金を借りてでも家などを買っておこうという人が多くなっているのだ。

こうした状況のなかで、アメリカの金融政策を取り仕切る中央銀行であるFRB=連邦準備制度理事会は、行き過ぎた物価の上昇にブレーキをかけるため、政策金利を引き上げる「利上げ」により、簡単には借り入れをできにくくして、過熱化する経済の動きをしずめようとしている。

そして、3月中旬に開かれた会合で、実際に「利上げ」に踏み切ることを決め、これまで続けてきたゼロ金利政策を終わらせて、金利を0.25%引き上げることにした。アメリカの金利が上がれば、アメリカの通貨ドルの価値が高まる。一方、景気持ち直しで出遅れている日本では、日銀が依然として大規模緩和を続け、金利を低く抑えているので、日米の金利差は広がり、ドルを買おうという動きが強まって、円は売られ、円安ドル高が進む。

1ドル=120円の円安水準になると、たとえば、いままで1ドル100円で 輸入できていたものが120円払わないと輸入できなくなり、さまざまなモノの値段をさらに押し上げる要因になる。

FRBのパウエル議長は、利上げを決めた際の会見で「ウクライナ侵攻に伴う原油や他の商品価格の高騰は 短期的にさらなる上昇圧力となるだろう」と述べた。

ウクライナ情勢次第で物価上昇に拍車がかかれば、政策金利の引き上げをさらに急ぐかもしれないということを示したものだが、さらに3月21日には、この先、0.5%のさらなる大幅な利上げを行う可能性にも言及している。

住宅ローン固定型金利は上昇傾向に

このようにアメリカの金融政策が「利上げ」へと大きく舵を切るなか、「物価」と並んで日本国内への影響が広がりつつあるのが「金利」だ。

世界経済をリードするアメリカの長期金利の動きは、日本の金利情勢に波及し「住宅ローン金利」にも影響し始めている。 

影響を受けるのは固定型の金利だが、 すでに上昇傾向がみられる。 実際にあった事例をみてみよう。

35年固定金利でボーナス返済を併用し5700万円の借り入れをしたケースだ。1月にローンを組んでいたら、金利は1.25%で 毎月の返済額はおよそ14万円だったのに対し、借り入れをするのが3月になってしまったので、金利は1.5%にまで上昇し、返済額はおよそ14万6000円と、 月々の負担はおよそ6000円増える結果となってしまった。

今後ローン金利がどうなっていくかは、ウクライナ情勢をみながらの アメリカの利上げの動きが関わってくることになる。

住宅ローン比較サービスの「モゲチェック」の調査では、2月は、固定金利を希望するユーザーが、去年の同じ月の約1.5倍に増えている。変動金利を選ぶ人のほうが固定金利を選択する人よりはるかに多い状況ではあるが、同社は「金利が上がる前に固定金利を借りて、金利上昇リスクを回避したい」というユーザー心理のあらわれだと分析している。

日銀は、長期金利の上昇を抑え込むため、指標となる10年物国債の利回りで0.25%を超える水準は容認しない姿勢を打ち出していて、3月28日、指定した利回りで国債を無制限に買い入れる措置を実施すると発表したが、ある銀行関係者は「固定型の住宅ローン金利は4月も上がってもおかしくない状況が続いている」と話す。

ウクライナ情勢と米金融政策が暮らしを左右する局面に

 日本は、アメリカやヨーロッパに比べると、景気回復が遅れ、人々の消費も広がっておらず、 物価上昇を受け止める力も弱いのが現状だ。

消費が底上げされ、景気が上向くという好循環のシナリオは実現されるのか。ウクライナ情勢とアメリカの金融政策が、私たちの暮らしを大きく左右する重大な局面になってきた。

【執筆:フジテレビ経済部長兼解説委員 サーティファイド ファイナンシャル プランナー(CFP)智田裕一】

智田裕一
智田裕一


経済部長兼解説委員。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了 フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップを経て、現職。 CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士 農水省政策評価第三者委員会委員

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