ロシアのウクライナ侵攻開始から50日が過ぎた。戦略的に重要な拠点である東部マリウポリでは、全域からウクライナ軍を排除したとして降伏を求めるロシアに対し、ウクライナ側は徹底抗戦の構えを見せている。

BSフジLIVE「プライムニュース」では東野篤子氏、小泉悠氏を迎え、ロシアの軍事動向を徹底分析しながら、ウクライナ侵攻の行方を展望した。

マリウポリ陥落は時間の問題、それでもウクライナが徹底抗戦する理由

この記事の画像(10枚)

長野美郷キャスター:
マリウポリはウクライナの東部ドネツク州にある港湾都市。クリミア半島とドネツク・ルハンスクをつなぐ場所にあり、ウクライナ侵攻でも戦略的な要衝と位置づけられる。状況はウクライナにとって非常に厳しく、ロシア国防省は北側のイリイチ製鉄所を制圧したと主張。海側のアゾフスタリ製鉄所では、ウクライナ兵による徹底抗戦が続いています。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
残っているのがアゾフスタリ製鉄所の1カ所のみ。完全に包囲され、補給や増援を届けることもできない。アゾフ海側もロシア海軍が押さえており、陥落するのは時間の問題。だがウクライナ側としては、ロシアの兵力をここに釘付けにする意味がある。また、2015年に交渉がまとまったにもかかわらず、撤退中に騙し討ちでロシアから攻撃されて多数の死傷者を出したこともあり、徹底抗戦しているのでは。

東野篤子 筑波大学教授:
マリウポリは象徴的になりつつある。ロシア側のロジックとしては、ネオナチの拠点であるマリウポリをロシアが解放するという、ウクライナ全体の非ナチ化のとっかかりという位置づけだと思う。ウクライナはものすごい抵抗をしているが持続可能ではなく、見通しは非常に悲観的になる。

反町理キャスター:
マリウポリの製鉄所の戦いは「アゾフ連隊対チェチェン」だという見方があるが、この意味は。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
チェチェン首長であるカディロフの私兵をマリウポリに入れているという話がある。大きな構図としては、ウクライナとロシアの国家が戦っていることは間違いないが、戦いの主力がロシア連邦軍やウクライナ共和国軍だけとは限らず、いろんな軍事力が入り交じって戦っているということ。

長野美郷キャスター:
4月16日にロシア国防省は投降を要求したが、ウクライナ側は応じず徹底抗戦の構え。

東野篤子 筑波大学教授:
非常に悲惨な状況だが投降せず闘うしかない。投降すれば国際法に従って人道的に扱うとロシアはアナウンスしたが、とてもそれを信じる状況にはない。かつてのウクライナ東部、チェチェンやシリアの例を見ても、投降後に起こるのは大量殺戮。

反町理キャスター:
ゼレンスキー大統領は、製鉄所の部隊が殲滅された場合には停戦交渉はそこで終わると発言。どんどん兵士たちの行き場がなくなっていくように見える。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
行き場はすでにない。さらに、立てこもっているアゾフ連隊は、できた当初は自警団的な組織で、当時はかなりネオナチ的な人が多かった。今もいないわけではない。ロシアはネオナチからウクライナを解放すると言っており、投降してもこの人たちが真っ当に捕虜として扱われる感じはしない。

長野美郷キャスター:
アゾフ大隊はマリウポリを拠点とする部隊で、2014年5月に義勇兵部隊として設立。ドンバス紛争に参加後、ウクライナ内務省が所管する国家親衛隊に編入。

東野篤子 筑波大学教授:
たしかに2014年に結成された時には、あまり品がよくない、あるいは極右的な思想を持った人たちによって作られ、残虐行為なども一定程度あったと言われる。だがこれは過去形で、その後内務省に所属したときにあまりにも問題ある人は淘汰された。2014年のアゾフ大隊と今のアゾフ連隊を全く同一と見ること、アゾフがいるからウクライナはネオナチの国家だとすることにはかなり無理がある。

欧米諸国のウクライナ援助は「反撃に転じるための援助」に大きく転換

長野美郷キャスター:
ロシアが兵力を東部に集中すると表明して以降、欧米諸国による武器供与には質的な変化が見られる。これは東部の戦いをどう変えるか。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
これまで西側は、ロシアを怒らせる懸念から、基本的に兵隊が持って歩ける程度のものまでしかウクライナに供与してこなかった。だが3月末ごろ以降、戦車や装甲車など、ロシア軍の機甲部隊と真正面から戦えるような装備に。負けないための援助から、反撃に転じるための援助に大きく変わってきた。

反町理キャスター:
これまではウクライナの軍隊が使い慣れた旧ソ連製ものが多かったが、今回はアメリカ仕様の自爆型のドローンやイギリスの対艦ミサイルシステムなど。トレーニングが必要では。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
実はこの戦争のごく初期までは、ポーランド国境近くでアメリカ製武器の扱い方のトレーニングをやっていたのだが、危ないのでNATO(北大西洋条約機構)は退避した。今回は恐らく、隣国ポーランドなどのNATO加盟国領内でウクライナ軍人を訓練して送り返す形になる。3月末に行われたウクライナを支援する国の会議でも、武器だけではなく訓練と後方支援が援助メニューの中に入っている。

反町理キャスター:
自爆型無人機(ドローン)のスイッチブレード。例えばロシアの戦車などを破壊できるのか。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
スイッチブレード300とスイッチブレード600という2種類がある。前者は軽装甲車両まで、後者は戦車を狙える。歩兵が持ち運ぶことができ、訓練もそれほど難しくないので、今回大量に供与することにしたのでは。

反町理キャスター:
ロシアがこの大量の武器支援に対して反発した場合、今後の展開で何が懸念されるか。

東野篤子 筑波大学教授:
NATO諸国はもちろん反発も織り込み済みで、ある程度腹をくくっている。核兵器や化学兵器の可能性については3月のNATO外相会議の段階から検討され、どこで使われてもおかしくないというシミュレーションのシナリオはもう描いていると思う。

5月9日の対独戦勝記念日にロシアが宣戦布告を行う可能性も

東野篤子 筑波大学教授

反町理キャスター:
今後の戦況の見通し。停戦や和平に向かう感じではなく、続々と新兵器がウクライナに入り反撃のチャンスが芽生えてくる。長期化の可能性しか見えてこない。キーウに戻る人たちが経済を回さなければいけない、というゼレンスキー大統領の発言の真意について。

東野篤子 筑波大学教授:
キーウからはロシア軍が撤退し、人が住めない状況ではない。国として持ちこたえていくためにお金が要ることは理解できる。また、国際社会が支援し続けてくれることを信頼できないのでは。2014〜15年のドンバスの戦いも、あっという間に何事もなかったかのようになってしまった。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
ここまでどうにかウクライナが踏みとどまれているのは、本当に戦争の序の口だからという可能性がある。まだまだ激しくて悲惨な戦争があり得ると覚悟しているから、比較的安全になった人は経済を回してくれという発言にもなるのでは。

長野美郷キャスター:
5月9日の対独戦勝記念日に、ロシアは何を行うか。

東野篤子 筑波大学教授:
西側で言われているのは、5月9日に宣戦布告がなされてしまう可能性。ないことを全力で願っているが。

反町理キャスター:
その場合、当事者のウクライナはもちろん、それを支援して支えてきた西側の国々にも支援し続ける覚悟が問われる展開となるのでは。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
ロシアは緊張感を高めようとしてくるでしょう。だが忘れてはいけないのは、ロシアも西側を恐れていること。過剰にエスカレーションして第三次世界大戦になるようなことは避けなければいけないが、ロシアを恐れすぎてウクライナが侵略されるに任すこともあってはいけない。そこはまだ、うまくコントロールしながらウクライナを支え続けられる段階だと思う。

「西側である日本」が今回の対ロシア政策で失ったものは特にない

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師

反町理キャスター:
日本もロシアと接している。ロシアとの向き合い、安全保障環境は今後どうなっていくか。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
今回、日本はロシアに対して制裁を強く行い、軍事関連装備をウクライナに援助。日本は非友好国という指定になった。だが、何もせずにいれば関係は良好で、平和条約や領土問題が進んだという気もしない。西側諸国と足並みをある程度揃えられたメリットのほうが大きかったのでは。北方領土の元島民の方々が墓参さえできなくなっていることは本当に残念で心が痛いが、それでも今回、日本は守るべきものを守ったと思う。

反町理キャスター:
ロシアに対して物申す姿勢を保つことが日本の国益にかなうと。どこまで西側に付き合うのかという人も一部にはいるが、これに対しては。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
まず、「付き合う」というより我々は西側だということ。そして平和条約交渉は今回の件ではなく、2020年7月のロシア憲法改正で領土割譲が禁止された時点で事実上終わっていた。今回、日本が失ったものは特にない。あるとすれば、2年前にもう失っていた。日本にとってロシアの軍事的脅威が極端に増したわけでもなく、日米同盟がしっかりしていれば、ロシアの核の脅威もそれほど問題になるとは思われない。

BSフジLIVE「プライムニュース」4月18日放送

BSフジLIVE プライムニュース
BSフジLIVE プライムニュース
外交・安保 政策・政治 事件・裁判
記事 143