4月から成人年齢が18歳に引き下げられた。少年法も改正され、適用年齢は20歳未満のままだが、18歳と19歳は「特定少年」と位置づけられ、起訴された時に限り「実名報道」が可能になる。

この法改正に当事者たちは何を思うのか。少年に大切な家族を殺害された遺族が抱き続ける、無念な思いとは。

加害少年の情報知らされず「少年法に守られている」

京都府に住む小谷真樹さんは、成人年齢の引き下げ後も18歳、19歳を「特定少年」として保護する今回の少年法改正に異議を唱える被害者遺族の1人だ。

被害者遺族・小谷真樹さん:
当日の夕刊になるんですけど、自分自身はこんなの見たのは、事件から日がたってからなんですけどね。怒りしか、私はこみあげてきませんね

小学2年生の次女を奪われた小谷さん
小学2年生の次女を奪われた小谷さん
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こみあげる怒りの元凶は10年前、理不尽に奪われた幼い娘の命だった。

2012年4月、京都府亀岡市で、集団登校していた小学生と保護者の列に軽自動車が突っ込んだ。
10人が次々にはね飛ばされ、2年生だった小谷さんの次女・真緒さんと、3年生の女の子、さらに身重だった当時26歳の女性の合わせて3人が犠牲になり、7人が重軽傷を負った。

軽自動車に10人がはね飛ばされ、小学生2人と身重だった女性の3人が犠牲に
軽自動車に10人がはね飛ばされ、小学生2人と身重だった女性の3人が犠牲に

車を運転していたのは当時18歳の少年で、運転免許を持っていなかった。さらにその後、明らかになったのは、あまりにも身勝手な理由だった。

少年:
2日間、ほとんど寝ずに遊んでいた。居眠り運転だった

運転免許を持たず運転 少年の供述
運転免許を持たず運転 少年の供述

小谷真樹さん:
(バッグを)当時のまま置いてるんですけど、引き裂かれていて。とても衝撃としては痛かったんやろうな、辛かったんやろうなと思います

娘はなぜ、突然命を奪われなければならなかったのか。

小谷真樹さん:
真緒が助からなかったということを聞かされて、真緒と対面して、そのあとですね。相手が少年やったと知らされました。もちろん、そういう情報はすぐに教えていただけると私自身思っていて。名前すら教えてもらえなかったですし、正式な形で警察からの情報は一切ってくらい教えていただけなくて。少年法に守られている

加害少年の名前も知らされなかったという
加害少年の名前も知らされなかったという

加害者はどこの誰なのか…。少年法の壁に直面して以来、10年の節目で迎えたのが成人年齢の引き下げだった。

今回の法改正では、責任ある大人とされる年齢が18歳に引き下げられるが、被害者の期待に反して少年法の適用年齢は20歳未満のままとなっている。

その代わり、「特定少年」と位置づけられる18歳と19歳は厳罰化され、殺人や強盗などの罪で起訴された場合には実名報道が可能となるが、小谷さんは不十分だと指摘する。

小谷真樹さん:
腑に落ちないですよ。18歳、19歳が刑事事件に関わるほどのことで、善悪の判断がそれぐらいできるだろって思いますし。「加害者の将来は?」と言われたら、いやいや、うちの真緒の将来はどないなんねんっていう話。ハンドルを握る人に年齢の差はない

この10年で重ねてきた講演活動の中で、小谷さんは訴え続けてきた。

小谷真樹さん:
少年法だろうが、車を運転してハンドルを握ってる人は年齢差がないんやと。扱いを変えるのはおかしいって、ずっと言ってたんですけど。少年によって奪われた真緒や、ほかの被害者の思い、声をもっと含んだような少年法の改正にしてほしかった

光市母子殺人事件の遺族「更生の実現は不確実」

さらに、別の被害者遺族から届いた手紙がある。差出人は、山口県に住む本村洋さんだ。

本村洋さんの手紙:
私は、18歳の少年に妻と娘を殺害された過去があります

光市母子殺人事件の被害者遺族・本村さんの手紙
光市母子殺人事件の被害者遺族・本村さんの手紙

1999年、山口県光市の自宅で当時23歳だった本村さんの妻・弥生さんと、生後11カ月の長女・夕夏ちゃんが殺害された事件。4日後に逮捕されたのは、18歳の少年だった。

犯行の残忍さに加え、その後の裁判での無反省で荒唐無稽な少年側の主張に、更生に重きを置いた少年法の意義とは何か、被害者や遺族の権利とは何かと、光市母子殺人事件は大きな波紋を広げた。

本村洋さん(一審後の会見):
遺族だって回復しないといけないんです、被害から。人を恨む、憎む気持ちを乗り越えて優しさを取り戻すためには、死ぬほど努力しないといけないんです

一審後の会見
一審後の会見

加害者が少年法で守られる一方で、ないがしろにされた被害者の実情に憤った本村さんは、犯罪被害者の権利を守る取り組みの先頭に立ち、その後の法整備を実現させる。

多くの犯罪被害者と共に闘ってきた本村さんが、自身にとっての「唯一の救い」と語るのが、加害者に下された成人同様の「死刑判決」だった。

本村洋さんの手紙:
言葉を選ばずに言えば、私は恵まれています。犯罪被害者の権利確立の活動をする中で、なぜ家族が殺害されたのか、その理由を知ることもできず、憎しみと悲しみの中で泣いている犯罪被害者の方が多くいることは付言したい

事件から2022年で23年となる。本村さんは今回の少年法改正について、本来なら適用年齢を18歳に引き下げるべきだが、段階的な措置としては賛成だとしている。

そして、少年の健全育成と犯罪抑止につながることを期待する一方で、少年法が趣旨に掲げる「更生」が、本当に実現するかは不確実だとも指摘している。

本村洋さんの手紙:
私の事件では、少年は死刑判決となり、社会復帰することはありませんが、少年が改善更生されて真っ当な人間になっていたかは、誰も保証はできないと思います。犯罪抑制や更生の可能性は答えが見つかりません

本村さんは少年法の存在は否定しない。それ故に、犯罪抑止と少年の健全育成において実効性をさらに高めるべく、立法・司法がたゆまぬ努力を継続することを期待している。

「犯罪を抑止し、加害者や被害者・遺族を1人でも減らすために、法改正や制度改善は継続実行していただききたい。そして何よりも、私たちがよりよい社会の実現を目指して行動する高い市民意識を持ち続けること、そして時に声を上げて行動することが大切」としている。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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