「日本の棚田百選」の一つ、長野・上田市の「稲倉の棚田」。資金難や新型コロナウイルスの影響で保全活動は厳しい状況だ。そこに手を差し伸べているのが地元の酒蔵。2022年も「棚田を守る酒」ができた。

「稲倉の棚田」の酒米で酒づくり

2月の上田市。「岡崎酒造」で酒の仕込みが行われていた。蒸した酒米を麹室へ。タンクに仕込む前の麹づくりだ。

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岡崎酒造 杜氏・美都里さん:
麹が一番大事な酒造りの要だといわれているので、緊張しつつ、いい麹がつくれるように、酒になるように日々、汗を流しております

室温は30度。湿度も高く、文字通り、汗を流しての作業だ。仕込んでいるのは、社長の岡崎謙一さんと杜氏の美都里さん。二人は夫婦だ。

アナウンサー:
進めるスピードも息ぴったりですね

岡崎酒造 杜氏・美都里さん:
そうですね…そこは目を見つめ合って、「うん」って言うところでしょうか(笑)

この日、二人が仕込んだのは特別な酒だ。

稲倉の棚田(上田市)(提供・稲倉の棚田保全委員会)
稲倉の棚田(上田市)(提供・稲倉の棚田保全委員会)

日本の棚田百選に選ばれている「稲倉の棚田」。岡崎酒造はここで栽培される酒米「ひとごこち」で酒を造っている。それは棚田の保全につながっていて、いわば「棚田を守る酒」だ。

岡崎酒造・岡崎謙一社長:
棚田はとてもいい景観の場所なので、そこでできた酒米、その酒米で造ったお酒なので、お酒を知ってもらって棚田を知ってもらう循環にしたいなと

棚田保全へ地道な取り組み

景観を守ろうと地元の住民は協議会を設置し、保全活動をしてきた。棚田は、1枚1枚の面積が狭く、通常の10倍もの手がかかる。長年、「人手不足」と「資金不足」という課題を抱えてきた。

棚田保全のための体験事業
棚田保全のための体験事業

協議会 会長・久保田良和さん:
この地域だけでは、なかなかこれだけの面積を賄うことができない。高齢化、あるいは農業問題、今の日本の農業の縮図がありますから

資金難を解決するため、協議会は子どもたちの体験事業を積極的に取り入れ、2006年からはオーナー制度も導入した。オーナーは年会費を払って田植えと稲刈りを体験し、収穫した米を受け取る。

維持管理の大変さを実感…そして

当初、そのオーナーとして棚田に関わった岡崎さん夫婦。棚田の厳しい現状を知った。

オーナーとして稲刈りなどを体験
オーナーとして稲刈りなどを体験

岡崎酒造・岡崎謙一社長:
一緒に栽培させてもらっていくうちに、あの場所を維持管理していくのはとても大変なんだと。実際にやっている方たちも高齢で、だったらうちの会社がお手伝いできることがあればと思って

二人は協議会と連携して酒米を栽培し、オーナーを募ることにした。2017年からは酒米を岡崎酒造が買い取って酒を造り、オーナーに贈る取り組みを始めた。

2020年、協議会と岡崎酒造が協定(提供・稲倉の棚田保全委員会)
2020年、協議会と岡崎酒造が協定(提供・稲倉の棚田保全委員会)

2020年、協議会と岡崎酒造は「協定」も締結。協議会は酒米を作りながら、棚田の保全に努め、岡崎酒造は日本酒を通じて棚田を広くPRするという内容だ。岡崎酒造は棚田全体の半分、4ヘクタールの酒米を買い取ることになった。

しかし、明るい兆しが見えた途端、棚田にピンチが訪れる。新型コロナの流行だ。2021年は体験事業の子どもたちを1700人受け入れる予定だったが…

協議会 会長・久保田良和さん:
結局(新型コロナで)全部来られなかったので、それはものすごく痛かったですね。もし2022年も同じことが続くとすると、こういう団体が維持していくことは非常に難しい

見かねた岡崎さん夫婦は、酒米の買い取り価格を上げて仕込むことに。その分、酒の値段も上がるが、品質には自信があった。

岡崎酒造 杜氏・美都里さん:
棚田のひとごこちは、粒が大きくて弾力があるので元気なお米です。お米を私たちが受け継いだら、私たちの腕の見せどころではあるので、うちらしく、うちの酒らしく育ってくれれば

棚田の酒米「ひとごこち」
棚田の酒米「ひとごこち」

「棚田の酒」 新酒が完成した!

3月12日。春の陽気の中、「棚田の酒」が完成。酒米のオーナーを招き、特典でもある瓶詰を体験してもらった。銘柄は「信州亀齢」。

東京から来たオーナー:
自分で植えて、自分で刈って、それをお酒にしていただいて。春の風景と夏の暑い風景といろいろ思い出しながら味わえると思って、1人にやにやしながら飲むのでは

協議会の久保田会長も足を運んだ。

協議会 会長・久保田良和さん:
苦労が昨年1年通してあったものですから、こういうふうに当たり前に収めて、それがお酒になるというのは大変うれしく、感謝感謝です

「棚田の酒」を試飲…

アナウンサー:
飲みやすい。口当たりはとても滑らかで、米のうま味を感じます。フレッシュな味わいで、すごく香りもいいですね。切れも良くて、とてもおいしいです

岡崎酒造 杜氏・美都里さん:
皆さんの思いをのせたタンクを1本背負っているので、実はかなり緊張の日々だったんですけど、ようやくこの日が迎えられて、ほっとしています

棚田は地域の財産。魅力を広めれば保全だけでなく、活性化につながる可能性も秘めていると岡崎さん夫婦は感じている。

岡崎酒造・岡崎謙一社長:
お酒を知ってもらうことで、棚田を知ってもらう、上田を知ってもらう。この地元が活性化して、そこと共に歩んでいく酒蔵でいたい

岡崎酒造 杜氏・美都里さん:
地元の方と共に、全国にいるオーナーさんと共に、世界に発信できたらうれしいことだと思います

(長野放送)