地域の野球少年に愛され40年余り。「子どもたちのために」と、思うように動かない体になった夫と、それを支える妻の“連携プレー”による営業が続いている。

オープン43年間、35球200円

軽快に打球音を響かせる子どもたち。長野県上田市の「塩田バッティングセンター」だ。

オープンから2022年で43年。料金はオープン当初から変わらず、中学生以下は35球で200円。

塩田バッティングセンター(長野県上田市)
塩田バッティングセンター(長野県上田市)
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この日も多くの野球少年が訪れていた。

小学6年生:
球数も多いし、しっかりとした球もくるので打ちやすい

小学2年生:
楽しい、プロ野球選手になる

変わらないものがもう一つある。

アーム式ピッチングマシンが現役で活躍

ピッチングマシンは人が腕を振るようにボールを飛ばす、今ではあまり見かけなくなった「アーム式」。年季が入っている。

塩田バッティングセンター・佐藤道雄さん:
今ちょっと低いからね、上げなきゃ

主の佐藤道雄さん(84)。人の手首にあたる部分の角度を微妙に変え、ボールの高さを調整する。

佐藤道雄さん:
(角度は)動いたか、動かないか。向こうに行くと角度が拡大して大きくなるからね。長年の勘ですね

佐藤道雄さん:
ちょっと下げすぎだな、それ直さなきゃだめだ

横で手伝うのは妻の節子さん(79)。夫婦で支え合い、バッティングセンターを守っている。

父から引き継ぎ…体を悪くしたあとも

バッティングセンターが建つ場所は元々、リンゴ畑だった。周りに住宅が増えると農薬の散布がはばかられ、道雄さんの父親は転用を考えるようになった。

佐藤道雄さん:
親戚の友達がバッティングセンターをつくる会社をもっていて「どうせ果樹園をやめるなら、バッティングセンターはどうだい」と。私の父が子どものころから野球大好きだったから、それはいいなというわけで

機械いじりが好きだった道雄さんは「農機具以外の機械に毎日さわれる」と大賛成。親子で県内のバッティングセンターを見に行き、当時「右打席のみ」が多かった中、全て両打ちの打席にして人気となった。

道雄さんはその後、会社勤めもして20年ほど前にセンターを引き継いだ。5年前、腰から下にしびれなどが現れる脊柱管狭窄症を患い、これまでに腰、股関節、膝を手術。今は満足に歩くことができない。

営業前のマシンのケアは欠かせない。

佐藤道雄さん:
どこまで維持できるか、部品はストックはしているけど。どこまでもつか、私の体と機械とどっちが(先かの)競争になるかの状態

道雄さんが体を悪くしてからは、妻の節子さんもマシン周りの作業を手伝うようにしている。

妻・節子さん:
えらいなと。「おれはだめだ」ということは一切言わないし、だから私もできることは手伝ってやろうなと

マシンはこの日も無事動いた。

子供も大人も、野球好きが楽しめる場所

営業が始まった。体を悪くしてからは、受付カウンターが道雄さんの定位置だ。ここで子どもたちの様子を眺める。

佐藤道雄さん:
いい当たり方だな、芯くってるな

安さもあって、センターは多くの小中学生に愛されてきた。中には甲子園に出場した球児もいる。感謝をこめて、保護者から記念のパネルも贈られた。

佐藤道雄さん:
もう金勘定じゃなくなってきている。少しでも安くしようと。子どもが喜んでくれる顔が一番、私の宝だから

宮野入大輝くん(小3)。つい最近までサッカー少年だったが…。

宮野入大輝くん(小3):
久しぶりに球速70キロとか80キロで打って。いっぱい打てたから楽しくなって、野球チームに入りたくなった

4年生になったら野球チームに入る予定だという。

宮野入大輝くん(小3):
大会とかでいっぱい打ちたい。

――これからも来る?

宮野入大輝くん(小3):

うん

もちろん、大人の利用者も。センター最速・130キロの球を打ち返す30代の男性。週1回は通っているそうだが、理由は草野球をしていることの他にもあると言う。

利用者:
特に今、コロナとかで外に出られない中で、打ってストレス発散できると

夫の指示で妻が動く 見事な“連携プレー”

マシンは朝から順調に動いていたが…。

佐藤道雄さん:
ん…空かい、空振りだね

ボールが出てこなくなってしまった。

佐藤道雄さん(電話):
95キロ、ボールが詰まっちゃってるからボール見てくれや

電話を受けてボールのつまりを直しに行く、妻の節子さん。

妻・節子さん(電話):
今、ボールが流れるようにやっているんですよ。止まっちゃってね…

佐藤道雄さん(電話):
80キロ、高いっていうからちょっと見てくれや

妻・節子さん(電話):
80?

指示を受けて動き回る節子さん。高さ調節もできるようになった。夫婦の“連携プレー”だ。

妻・節子さん:
やっと慣れてきた。本当に2人で1人前というか…2人でやらなくちゃこの仕事はだめだよね

少子化に加え、スポーツの多様化で子どもたちの「野球離れ」が進んでいる。さらにコロナ禍も重なり、最近の利用者は全盛期の半分以下。

それでも体が動く限りは、子どもたちが通ってくれる限りは、夫婦二人三脚でバッティングセンターを守っていきたいとしている。

妻・節子さん:
口には出さないけど感謝してると思うよね(笑)。お父さんは(私に)。私も感謝している。お父さんができるまで頑張ります

佐藤道雄さん:
口には出さないけどありがたいことです。子どもたちが安心して遊べる場所でありたい。みんなの役に立ちたいと、そういう思いでずっと続けてきた

(長野放送)

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