病院内にある店舗と言えば、コンビニやレストラン、カフェなどが一般的だろう。
こうした中、ユニクロが3月16日、東京都内の病院内に店舗をオープンした。場所は東京都済生会中央病院(港区)の1階で、店舗名は「ユニクロ 済生会中央病院店」。

医療施設の中に、ユニクロが出店するのはこれが初めてとのことだ。

「ユニクロ 済生会中央病院店」(提供:東京都済生会中央病院)
「ユニクロ 済生会中央病院店」(提供:東京都済生会中央病院)
この記事の画像(7枚)

売場面積が13坪と限られるため、店頭に並べる商品数は絞り込んでいるが、ユニクロオンラインストアの「店舗受取りサービス」などを利用すると、店舗にない商品も含めたフルラインナップから、必要な商品を購入できる。

ユニクロは、「来院された方や入院中の患者様、医療従事者の方々に、必要な服を、必要な時にお届けすることを目指す」としている。

きっかけは「済生会中央病院からの要望」

病院から出ることなく、着替えなどの衣服を購入できるのは確かに便利だ。

病院内にユニクロが出店するのはこれが初めてなのだが、どのようなきっかけがあったのか? また、病院内の店舗ならではの特徴やこだわりはあるのか?

まずは、ユニクロを展開する「ファーストリテイリング」の担当者に話を聞いた。


――病院内への出店を決めたきっかけは?

済生会中央病院から、ご要望をいただいたことをきっかけに出店の検討を始めました。

入院中の患者の方から、お求めやすい価格で様々な年代の方が着用できる服の根強い需要があったことや、コロナ禍の面会禁止によって、患者の皆さんが着替えを入手しにくくなったことなど、病院内で服を購入したいというニーズが、さらに拡大していることを受け、出店を決めました。

職員の皆様からも、「不定期な勤務時間の合間に買い物ができると便利になる」という期待の声をいただいています。


――病院内に出店することは、通常の百貨店などへの出店と比べて、どのような点で違いがあった?

売場面積が13坪と限られるため、店頭に並べる商品数を絞り込んでいます。ただし、店頭に無い商品も、ユニクロオンラインストアをご案内し、フルラインナップからお選びいただけます。

午前10時までにご注文いただき、受け取り場所を済生会中央病院店に指定いただけば、最短で当日中にお渡しできるサービスなども展開しています。


――病院内に出店するうえで、こだわった点は?

通路幅は、車いすに乗ったままでも通れる広さを確保しています。また、「お会計用のレジ」と「オンラインストアで注文した商品を受け取るための窓口」が並んだカウンターを設置しています。

このカウンターは、無機質な印象にならないよう、木を使ったデザインを採用しており、車いすのまま、カウンターで接客を受けられるよう、カウンターの下部を一部、掘り込んであります。

「会計用のレジ」と「窓口」が並んだカウンター(提供:ファーストリテイリング)
「会計用のレジ」と「窓口」が並んだカウンター(提供:ファーストリテイリング)

――「会計用のレジ」と「窓口」を並べた。これはどのような効果を狙ったもの?

「会計用レジ」と「窓口」を並べたこと自体に、特に意図はありません。対面での会計手続きや、商品の受取をご利用になるお客様が多いと予想されたため、限られた売場面積の中でも、あえて、専用のカウンタースペースを確保しました。

一部店舗のみで展開の「前あきインナー」を販売

――通常の店舗と、商品のラインナップは異なる?

入院中の患者の方からのニーズを踏まえ、下着や羽織ものを中心に販売しています。

独自サービスとしては、通常のユニクロ店舗ではお受けしていない、「ルームウェア(一部の対象商品のみ)の裾上げ」をお受けしています。


――医療従事者向けの独自の商品はある?

ありません。


――入院患者向けの独自の商品はある?

入院患者の方だけを対象にした商品ではありませんが、受診時や、医療・介護のケアを受ける際に着脱しやすい、「前が全て開くタイプのインナー」を販売しています。

これまでは、ごく一部の店舗のみで販売していましたが、病院内でのニーズも予想されるため、この店舗でも販売しています。

ユニクロの「前あきインナー」(出典:ユニクロHP)
ユニクロの「前あきインナー」(出典:ユニクロHP)

――店舗オープン後、医療従事者や入院患者からはどのような声が寄せられている?

お客様から、以下のようなお声をいただいております。

「新型コロナウイルスの感染リスクを避けるため、外出して、人混みの中、店舗に出向かなくていいから助かります」
「ユニクロの商品はコンビニの商品よりも安価で馴染みがあるので、抵抗なく購入できる。小さい店舗でも、あると助かる」
「気温差で衣類が必要なときに、その時に合った、必要なものが買えるのが嬉しい」


――今後も要望があれば、医療施設内の店舗を増やしていく?

現時点で決まっていることはありませんが、良いお話をいただける場合には検討したいと考えています。

「急な入院で衣類を持って来ていない患者さんが助かるのではないか」

病院内にユニクロの店舗をオープンしたきっかけは「済生会中央病院からの要望」だった。

ではなぜ、済生会中央病院は病院内にユニクロをオープンしようと考えたのか? また、病院内の店舗と言えば、コンビニやレストラン、カフェなどが一般的だが、病院内の店舗に関する、病院側の考え方は変わりつつあるのか?

東京都済生会中央病院の担当者にも話を聞いた。

東京都済生会中央病院(提供:東京都済生会中央病院)
東京都済生会中央病院(提供:東京都済生会中央病院)

――病院内にユニクロの店舗をオープンしようと思ったのはなぜ?

当院では意見箱を設置して、広く職員に、病院をよりよくするための意見やアイデアを求めています。

2020年1月、職員から「院内にユニクロがあったら、急な入院で衣類を持って来ていない患者さんが助かるのではないか」という投書がありました。

以下は、投書の要約です。

入院された患者さんが下着などを持ってないことがあり、また院内を検査で歩かれる際に羽織るフリースのようなものも必要です。
大掛かりな店舗ではなく、東京駅にあるような小さな店舗で十分だと思います。
患者さんが退院時にもう必要ないと思われるならユニクロリサイクルボックスに入れて退院されれば、ユニクロを通じて社会貢献もできると思います。

この投書がきっかけで、ユニクロとの話し合いが始まりました。病院の中にユニクロをという発想は、私たちの中にまったくありませんでした。

それだけに、面白いかもしれないと思いました。

「ユニクロ 済生会中央病院店」(提供:東京都済生会中央病院)
「ユニクロ 済生会中央病院店」(提供:東京都済生会中央病院)

――職員の方の声をきっかけに、その後、どのような経緯で出店が決まった?

2020年2月、当院の企画課の担当者がユニクロのカスタマーセンターへ問い合わせを行ったところ、当院へ連絡をいただき、話し合いが始まったと聞いています。

話し合いはスムーズに進んだのですが、ちょうど、新型コロナウイルス感染症がまん延の時期でもあったことから、オープンの時期について決定するのが難航しました。

ただ、新型コロナウイルス感染拡大によって、ユニクロとのつながりが深くなった側面もあります。たとえば、乳児院でクラスターが発生したとき、ユニクロから多大な支援をいただきました。そして、衣服がもつ「人を元気にする力」を実感することができました。

こうして、最初は「患者さんの利便性」のためのユニクロ出店でしたが、より大きく、衣服がもつ「人を元気にする力」を、人が健康になることに役立てられないかと考えるようになりました。

医療従事者や入院患者以外も利用可能

――ユニクロに連絡をしてから出店までには、どのぐらいの時間がかかった?

ユニクロへ連絡をしてから、出店が決まるまでに約9カ月間かかりました。そこから、オープン時期を決めるまでに1年以上かかっています。


――出店するうえで、ユニクロ側に要望したことは?

患者さんが入院する時に必要となる衣類をベースに商品を取り揃えてもらい、職員がよく使うアンダーウェアも、揃えてもらいました。

また、話し合いの当初から、病室への配送サービスや、今後、医療や介護を必要とされる方々への商品開発などを一緒に行っていくことを提案し、ユニクロ側には積極的に検討していただきました。

「ユニクロ 済生会中央病院店」(提供:東京都済生会中央病院)
「ユニクロ 済生会中央病院店」(提供:東京都済生会中央病院)

――この店舗、済生会中央病院の医療従事者の方や入院患者の方以外でも、利用できる?

はい。ご利用いただけます。

「病院をもっと気軽に足を運べる場所にしたい」

――病院内の店舗と言うと、コンビニやレストラン、カフェが一般的というイメージがある。 これまで、済生会中央病院にはどのような店舗が出店していた?

現在、コンビニエンスストアとレストランがあります。また、以前はカフェもありました。今後、カフェは新たにオープン予定で、現在、準備中です。


――病院内の店舗に関して、病院としての考え方は変わりつつある?

病院内の店舗について、「患者さん方へのサービスの充実」を、最も重視している点に変わりはありません。ただ、現在、済生会中央病院が取り組んでいる「新しい病院の在り方を考える」という事業計画の点からは変わりつつあります。

病院の敷居を下げ、病院をもっと気軽に足を運べる場所、日常生活の一場面にしたいと考えています。

私たちは、病院の主な訪問者を患者さんや、そのご家族と考えてきました。
しかし、「新しい病院の在り方」では、患者さんやそのご家族に加えて健常な方々、具体的には広く地域にお住まいの方々にも、足を運んでもらえる空間づくりを目指します。

ユニクロのオープンは、その取り組みの一つになると考えています。また、利用される方々にとって、ホスピタリティにあふれたサービスが提供でき、利便性の高い店舗があることはもちろん、楽しく、わくわくする空間づくりに貢献いただけることも期待したいです。

 

「病院をもっと気軽に足を運べる場所にしたい」という思いが込められている、今回のユニクロ出店。ユニクロに限らず、生活に関わる身近な店舗が今後、病院内に出店されることで、病院自体の在り方だけでなく、病院に対する私たちの意識も変わっていくのかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。