4月1日に20歳から18歳に引き下げられる「成年年齢」。

この年齢を迎えると、親の同意なしに賃貸契約を結べたり、金融機関でお金を借りたりすることができるようになる。そうなると、大きな消費者トラブルに足を踏み入れやすくなる。

そのような状況を避け、お金を有意義に使えるように、各省庁や自治体は学生向けの金融経済教育に力を入れ、さまざまな教材を発信している。

その内容は、すでに社会に出ている大人にとっても考えさせられるものばかりだ。その一部をチェックしてみよう。

クイズを通して気づく「契約」や「金利」に関する勘違い

まずは、消費者庁が高校生向け消費者教育教材として全国の高校に配布している『社会への扉』。この冊子の中には、消費行動に関する12個のクイズが掲載されている。

『社会への扉』消費者庁
『社会への扉』消費者庁
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『社会への扉』は、高校の家庭科や公民科などの授業で活用できる副教材として消費者庁が作成したもので、2017年3月に公表された。

消費者庁が発表している『「若年者への消費者教育の推進に関するアクションプログラム」進捗状況(2020年度【令和2年度】末時点)』によると、全国の高等学校等における『社会への扉』などを活用した実践的な消費者教育の実施は86%にのぼる。

『社会への扉』のクイズの中から、高校生が難しさを感じていた問題(※「徳島県における『社会への扉』を活用した授業の実施効果に関する報告書(平成29年度~令和元年度総括)」を参照)を紹介する。

Q1.店で買い物をするとき、契約が成立するのはいつ?
(1)商品を受け取ったとき
(2)代金を払ったとき
(3)店員が「はい、かしこまりました」と言ったとき

『社会への扉』消費者庁
『社会への扉』消費者庁

正解は(3)。
消費者と事業者とが、お互いに契約内容(商品の内容・価格・引き渡し時期等)について合意をすれば契約は成立する。つまり、口約束でも契約は成立する。契約書や印鑑・サインは証拠を残すためのもの(消費者庁『社会への扉』より)。

Q2.店で商品を買ったが、使う前に不要になった。解約できる?
(1)解約できない
(2)レシートがあり1週間以内なら解約できる
(3)商品を開封していなければ解約できる

『社会への扉』消費者庁
『社会への扉』消費者庁

正解は(1)。
契約は「法的な責任が生じる約束」なので拘束力がある。契約を守らないと、裁判で訴えられることもある(消費者庁『社会への扉』より)。

Q8.自動車教習所へ通うため金融機関から20万円を年利(金利)17%で借りた。毎月5000円ずつ返済した場合の返済総額は?
(1)約23万円
(2)約26万円
(3)約29万円

『社会への扉』消費者庁
『社会への扉』消費者庁

正解は(3)。
金融機関からお金を借りたら利息を付けて返す。利息=借りた金額(元金)×年利(利息)×借入期間。月々決まった金額を返済した後の残金に対して、また利息が付くので、少額ずつ返済する場合は返済期間が長くなり返済額の合計は高くなる。

奨学金制度(返済が必要な貸与型)、住宅ローンも借金であることは同じ。借りる前に、金融機関が提示する返済計画表を確認し、目的の実現後の返済計画を具体的に考えてみよう(消費者庁『社会への扉』より)。
 

『社会への扉』のクイズ、回答に悩んだのではないだろうか。日々の生活の中で勘違いしている部分も多いため、改めて買い物や契約について見直すきっかけになりそうだ。

クイズの中では「消費者ホットライン(188)」についても紹介しているため、いざという時に必要な知識として、把握しておくといいだろう。

「うんこお金ドリル」が家族の会話のきっかけに

金融庁では、子どもに大人気の『うんこドリル』とコラボした小学生向けコンテンツ『うんこお金ドリル』を、オンラインで展開している。『うんこドリル』のキャラクターたちが、お金の使い方について教えてくれるという内容だ。

『うんこお金ドリル』金融庁・文響社
『うんこお金ドリル』金融庁・文響社

『うんこお金ドリル』金融庁・文響社
https://unkogakuen.com/manabi/money

お金に関する知識を生活に密着した形で届ける「生活編」、世の中のお金の循環をわかりやすく伝える「経済編」の2種類があり、7問ずつで構成されている。

2021年3月に「生活編」を公表した際には多くの反響があったとのことだが、このコラボはどのように生まれたのか、金融庁の担当者に聞いた。

『うんこお金ドリル』金融庁・文響社
『うんこお金ドリル』金融庁・文響社

「『うんこドリル』を手掛けている文響社さんから『金融教育でコラボしませんか?』と、声をかけていただいたのがきっかけです。これまで中学生から大学生に向けた教材やコンテンツは展開していたのですが、低年齢向けのものはなかったので、私たちとしてもありがたいお話で、すぐに企画が進み始めました」

問題を構成する中で重視したポイントの1つに、「金融経済教育における正解は1つではない」と伝えることがあったという。

「『うんこお金ドリル』は4択問題になっていますが、必ずしも正解は1つではありません。例えば、お金が手元にあった時、『貯金をする』『車を買う』『子どものために使う』のうちのどの使い方をしても、不正解ということはないですよね。お金は自分が使いたいことに使うのが基本ですし、個々に考え方が違うことを伝えたかったのです」

『うんこお金ドリル』金融庁・文響社
『うんこお金ドリル』金融庁・文響社

「生活編」3問目の「お年玉をたくさんもらった。それをどうする?」という問題は、人によって選択肢が異なってくるだろう。大人目線になると「使わずにためておく」が正解のように考えてしまうが、どのような結果が出てくるかは、実際に体験して確認してほしい。

「低年齢向けのコンテンツではありますが、保護者の方から『参考になった』という声も多くいただいています。お金の話はタブー視されがちですが、大人になってもついてくる問題ですし、真面目に考えるべきことなので、『うんこお金ドリル』をお金について家族で話すきっかけにしてほしいですね」

「過剰借入」「ヤミ金利用」の危うさを伝えるクイズ動画も配信

金融庁では成年年齢引き下げに合わせて、新コンテンツ『新成人向けうんこクイズ』を3月2日に発表した。

『うんこドリル』のキャラクターを用いた15秒間の動画で、過剰借入やヤミ金利用に関する注意喚起を目的としている。
 

ここで新成人向けのうんこクイズを2問ほど紹介する(出典/金融庁・文響社『新成人向けうんこクイズ』)。

(1)このふたつの共通点は?
・インターネットで知り合った人からの借金
・うんこしたのに紙がない!

出典/金融庁・文響社『新成人向けうんこクイズ』
出典/金融庁・文響社『新成人向けうんこクイズ』

正解は「する前によく確かめるのじゃ!」。よく知らない人からの借金はヤミ金かも。「誰でも」「簡単に」「今すぐに」は要注意。SNSでトラブル多発。困った時は、ひとりで悩まず相談機関へ(出典/金融庁・文響社『新成人向けうんこクイズ』)。

 (2)このふたつの共通点は?
・お金がないけどモノが欲しい
・うんこがもれそう

出典/金融庁・文響社『新成人向けうんこクイズ』
出典/金融庁・文響社『新成人向けうんこクイズ』

正解は「ズバリ!ここは我慢じゃ!」。まずは収入の範囲内で生活をすることが大事。お金を借りるときは、毎月の返済額や返済期間を確認しよう(出典/金融庁・文響社『新成人向けうんこクイズ』)。

全8種類のクイズは、借金に関する事柄とうんこに関する事柄のなぞかけ形式になっていて、テンポ良く進んでいく。

「これまでも借金に関する情報発信を行ってきましたが、成年年齢引き下げによって社会経験の浅い方でも1人でお金を借りることができるようになるため、より目に入りやすい啓発活動が必要だと考えました。『うんこお金ドリル』が大好評だったこともあり、新成人向けにも文響社さんと協力して何かできないかと考え、15秒の動画に至りました」

『うんこお金ドリル』はゲームのようなコンテンツだったが、『新成人向けうんこドリル』は動画という形式を取った。

「18~19歳となると、すでに社会に出ている方もいる年齢です。学生であれば、授業をはじめとする学校生活を通じて全員に周知することができますが、社会人になると全員に届かない可能性があります。15秒のコンパクトな動画をYouTubeにアップし、SNSなどで発信していけば、お金のことに関心がない方にも届くのではないかと考えられます」

新成人向けとされているが、年齢を問わず誰もが押さえておきたい内容になっている。15秒×8種類なので、すき間時間にサクッと見られるだろう。

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また、金融庁では、新成人に向けた啓発活動だけでなく、貸金業者への注意喚起も進めているとのこと。

「貸金業法で『年収の3分の1を超える貸付を行ってはいけない』と定められていますが、50万円以下であれば年収証明書の提出がなくても借りられます。ただ、年収の少ない新成人にとっては50万円も大きな金額ですし、無理な借金を作ってしまう恐れがあるので、4月以降、業界のルールとして18~19歳に関しては50万円以下の貸付でも年収証明書を提出してもらうことになっており、金融庁としても、このルールをしっかり守るよう要請しています」

成年年齢が引き下げられることで社会が活性化していくことが望まれるが、その一方で金銭的なトラブルも増えるかもしれない。そのような事態を避けるためにも、子どもと一緒にお金にまつわるクイズを解いて、知識を深めていこう。

取材・文=有竹亮介(verb)

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。