2021年、東日本大震災後に見つかった身元不明の遺体が鑑定の結果、岩手・山田町の男性と判明し、10年8カ月ぶりで帰宅を果たした。
その背景には、岩手県警の新たなDNA鑑定があった。

津波で行方不明の男性 10年8カ月ぶりに家族の元へ

2021年12月、岩手・山田町の寺で法要が営まれた。
震災犠牲者のうち、1人の遺骨の身元が判明し、家族のもとへ帰ってきた。

この記事の画像(14枚)

身元が分かったのは竹内直治さん(当時78)。
県警のDNA鑑定の結果判明し、10年8カ月ぶりの帰宅が叶った。

竹内さんの妻・マサさん(84):
見つかったよとテレビの取材が来たり、そっちこっちからみんなに言われてうれしくて。皆さんのおかげだなと

竹内さんの妻・マサさん
竹内さんの妻・マサさん

竹内さん夫婦はあの日、自宅を出ようとしたところで津波に襲われた。
マサさんは長男に助けられたが、直治さんの行方は掴んでいた手が離れたあと、分からなくなった。

竹内さんの妻・マサさん(84):
津波で手から抜けていったのが忘れられない。どうなったのかなと諦めたり、どこに行ったのかなと思っていた

当時の様子を話すマサさん
当時の様子を話すマサさん

ようやく帰ってきた遺骨は、先祖が眠る墓へ。
墓には、これまで生前着ていた服を納めていた。すっかり木の根に覆われて、10年の長さを物語る。
遺骨を納めると、マサさんは静かに手を合わせた。

竹内さんの妻・マサさん(84):
私も(直治さんのところへ)行きたいけど、まだまだやることがあるから、守ってちょうだいね

「希望もって待ってほしい」新たなDNA鑑定を本格導入

竹内さんの遺体は、震災直後に自宅のすぐそばで見つかっていて、本人である可能性が高いとされていた。
しかし、山田町では大規模な火災が発生して遺体の傷みが激しく、従来のDNA鑑定はできずにいた。

身元の特定にあたった、県警捜査一課の阿部征喜検視官。

県警 捜査一課・阿部征喜検視官:
(竹内さんの)家族にお返しできて、涙を流して喜んでくれた

釜石市出身の阿部検視官は、震災当時は大船渡市三陸町のさんりく駐在所に勤務していた。
自身もおばといとこを亡くし、身元特定には強い思いがあった。

県警 捜査一課・阿部征喜検視官
県警 捜査一課・阿部征喜検視官

今回、阿部検視官らが取り組んだのは、2021年度から本格導入された「ミトコンドリアDNA鑑定」。
この鑑定では、細胞に数百個含まれるミトコンドリアという小器官からDNAを抽出する。
母親由来のDNAしか判別できないが、傷みの激しい遺体からも抽出できることがある。

阿部検視官らは岩手医科大学に依頼して、竹内さんのミトコンドリアDNAを抽出。
すると、母系の親戚と型が一致した。
親族の中でほかに行方不明者がいないことなどから、竹内さんと断定した。

県警 捜査一課・阿部征喜検視官:
警察では、できることを今後ともやっていきたい。まず希望をもって、お待ちになってほしい

県内では、震災後に見つかった遺体のうち、いまも47人の身元がわかっていない。
県警はこの47人について、ミトコンドリアDNAの採取を進める方針。

高齢化などで難しい場合も… DNA鑑定は時間との戦い

震災からまもなく11年。
2月27日、阿部検視官の姿は山田町にあった。
県警は、沿岸各地で震災行方不明者に関する相談会を開いている。この日は、家族が行方不明という女性が訪れていた。

県警 捜査一課・阿部征喜検視官:
DNAというのがあるんですけど、本人の残っているものとかないですか?歯ブラシとか、カミソリとかあればね

身元特定は時間との戦いでもある。
行方不明者の所有物が捨てられてしまったり、家族や親戚が亡くなってしまったりすると、DNAを照合することが難しくなる。

相談した女性:
警察に何回も行っている。同じことではあるが、きょうはきょうで良かった

遺骨が帰ってきてから3カ月、竹内さんのもとを訪れた。
マサさんの趣味は観葉植物を育てること。花に水をあげることと一緒に、欠かさない日課がある。

竹内竹内さんの妻・マサさん(84):
だめだがよ、お父さん、目が見えなくなってきて…

仏壇で毎日、直治さんにその日の出来事を話す。

竹内さんの妻・マサさん(84):
(スーパーの)「びはん」に買い物に行ってくるから、見守ってください

県警の執念で実った10年8カ月ぶりの再会。
ひとりでも多く身元が判明することを祈りながら、マサさんは愛する人と共に歩んでいく。

(岩手めんこいテレビ)