女子フィギュア12年ぶりメダル
この記事の画像(14枚)フィギュアスケート女子の坂本花織(21)は北京五輪でショート、フリーともに自己ベストを更新し銅メダルを獲得した。スピード感あふれる力強いジャンプと4年間かけて培ってきた質の高いスケートをリンクの上でいかんなく発揮して日本女子としてはバンクーバー五輪での浅田真央さん以来12年ぶりのメダル獲得の快挙となった。
メダルへと導いた「先生の支え」
坂本は演技後にある人へ感謝の思いを口にした。
「うれしい以外の言葉が出てこないです。やっぱりここまで来られたのは先生の支えがあったからこそだと思います」
「先生の支え」、坂本をメダルへと導いた存在。それは彼女にとってかけがえのない恩師たちだ。その一人が北京に帯同し、どんな時も坂本の支えとなった中野園子コーチ(69)だ。
銅メダルを首にかける姿を見て、中野コーチはこう微笑んだ。
「本当によくやったと思います。これは夢なのか本当なんだろうかという感じでした。花織には自分ができること、そして花織にしかできないことを精一杯やってほしいと言い続けてきました」
厳しくも優しい「お母さんみたい」
中野コーチは、坂本がスケートを始めた4歳の頃から、神戸のリンクで彼女を指導してきた。その存在を坂本はこう例える。
「お母さんみたいにスケートのことだけじゃなく、私生活のことも指導される。『もうちょっとこうでしょ!』みたいな感じで教えてくれる」
ちょっぴりお調子者で、ときに自分に負けそうになる坂本に、中野コーチは「お母さんみたい」にいつも叱咤激励を送ってきた。
「遅い!」「歩かない!」「休むな!」坂本の練習中にはいつも容赦ない檄が飛んでくる。褒められることなど滅多にないが、坂本は中野コーチを信じてついてきた。
「『分かってるけど、できひんねん!』という時もあるんで、でもそれ(中野コーチの喝)がなかったら成長していけなかったと思います」
平昌五輪6位入賞後、苦楽を共にした4年間だった。そしてたどり着いた2度目のオリンピック。演技直前、緊張に押しつぶされそうな坂本に中野コーチがかけた言葉がある。
「『花織はできる』って背中を押して送り出してくれる。先生の一言で気持ちがグッと締まりました」
後ろから包み込むように坂本の両肩に手を置き、背中をポンとたたく。そして「花織はできる」とリンクへと送り出した。その支えがあって、坂本はリンクで自分の気持ちを解き放つことができた。
「第3のママ」と「気遣い上手な兄」
そして「キスアンドクライ」で坂本は顔写真を切り抜いたお手製のうちわを掲げ得点を待った。その顔写真はコロナ禍で北京入りすることが叶わなかった川原星(せい)コーチ(26)とグレアム充子コーチ(62)の2人のものだった。
「私の宝物は中野先生、グレアム先生、川原先生」と坂本自身が話すように彼女にとって2人は中野コーチ同様に大切な存在だという。
中野コーチとともに4歳から坂本を指導するグレアム充子コーチはその関係性をこう例える。
「漫才で言うところのボケとツッコミなので、中野先生がツッコんだら私がボケる。だから2人いるとちょうどいいです」
坂本も「ママ、第3のママって感じ」と、言い切る。
グレアム充子コーチは演技指導以外に、坂本のウォーミングアップアップにも付き合っているという。中野コーチから愛の叱咤を受け北京の地で戦う坂本に対しても“第3の母”は「私は毎日『アップしろ!アップしろ!』って『アップで必ずダッシュしろ!』って『神様見てますからね』って伝えています」と坂本に励ましのエールを送っていた。
そして、3人目の先生が気遣い上手なお兄さん、川原星コーチだ。現役を退いて間もないこともあり、ジャンプのテクニカルなアドバイザーとして坂本をサポートしている。
「僕たぶんのLINEの文面に緊張が表れちゃうから。緊張がうつらないように最低限の連絡にした」と坂本を気遣い見守ってきた。女子フィギュア12年ぶりのメダル獲得。そんな快挙の裏には坂本が「3人に支えられて今がある」というコーチたちの存在があった。
「これからもお尻をたたいてほしい」
取材の最後、坂本から中野コーチへこう直接メッセージを伝えた。
「北京オリンピックで3位に入れたのは本当に自分の力だけではここまで来られなかったと思うし、先生の力が9割だと思うので、本当に感謝しているし、これからもどんどんお尻を叩たたいてほしいと思っています」
この言葉に対し、中野コーチは坂本への思いを語った。
「メダルを首にかけて、過去を振り返って生きてほしくない。これから先どんな人間になっていくか素敵な女性になってほしいと思います」
平昌五輪6位入賞後、3人のコーチと苦楽をともにした4年間だった。その甲斐あって12年ぶりのメダル獲得の快挙を成し遂げたが、視線は4年後を見据えていた。そして坂本が「お母さん」と慕う関係を取材の中でも垣間見ることができた。
「足の開きをなんとかしようよ!もうちょっと斜めにやればちょっとはマシになるのに。どうしてこうなるの!?」
取材を受ける姿勢の細かいところまで目を向ける中野コーチ。笑顔ではにかむ坂本。コーチ3人との歩みはまだまだ続いていく。