聴覚障害者に音を感じてもらおうという漫画作品を、岡山県倉敷市の大学生が制作した。文字による擬音を体感できるよう、さまざまな仕掛けが用意されている。

デザインで人の役に立ちたい

新型コロナウイルスの特徴を説明する模型や、子どもの猫背対策について解説した展示物。

川崎医療福祉大学の卒業制作展
川崎医療福祉大学の卒業制作展
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医療や福祉分野を専門にしたデザインを学ぶ大学生の卒業制作展で、ある漫画作品が注目を集めていた。

篠田吉央アナウンサー:
女の子が朝起きた時の様子です。あっ、布団が飛び出してきました。勢いよく起きたことが伝わります

勢いよく起きた時の擬音を表現
勢いよく起きた時の擬音を表現

勢いよく起きた時の「ガバッ」っという音を立体的な仕掛けで表現し、音を「見て」感じてもらう。

川崎医療福祉大学 医療福祉デザイン学科・久冨亮さん:
僕の好きな漫画を通して娯楽という形で、特別な何かではなく障害に関係なく、あたり前に楽しめるものを提案できないかと、今回作らせていただいた

漫画を制作した久冨亮さん
漫画を制作した久冨亮さん

倉敷市の川崎医療福祉大学。医療福祉デザイン学科の特徴は、デザインと医療・福祉を融合した全国唯一のカリキュラム。病気に関する専門的な知識を分かりやすく説明する展示物を作るなど、日々さまざまなデザインが生み出されている。

子どものころから絵を描くことが好きだった久冨亮さん(22)もその1人で、これまでに学校の内外で多くの賞を受賞している。

川崎医療福祉大学 医療福祉デザイン学科・久冨亮さん:
デザインはいたるところにあるが、病院や医療機関で自分の絵を描くスキルが役立てていけるところにやりがいを感じました

デザインで人の役に立ちたい…。その思いを強くさせたのが、医療福祉デザイン学科で開発に取り組んでいる災害対応ピクトグラムだった。

火災現場で聴覚障害者を避難誘導した消防士の経験をきっかけに、案内用のマークを災害時の避難誘導に役立てようと、6年前から岡山市消防局と共同で開発している。

久冨さんも開発に関わる中、デザインを工夫することで災害時以外にも聴覚障害者に情報を届けられたらと思うようになり、卒業制作として取り組むことを決めた。

着替えのシーンに”服のボタンをとめる”仕掛け

約1年かけて作り上げた作品は、おっちょこちょいな女の子と、聴覚に障害がある女の子の友情を描いたもので、漫画では一般的な文字による擬音を体感できる仕掛けになっている。

川崎医療福祉大学 医療福祉デザイン学科・久冨亮さん:
これは、ストーリーのスピード感を(コマを)めくることで表現したかったんです

通常なら上から下に読み進めるだけだが、1つのページを3つに分け、それぞれめくることで慌ただしさを表現。

次のページでは、着替えのシャツのボタンをとめたり、カバンのファスナーを閉めたりする仕掛けで朝の準備をイメージさせる。

実際にカバンのファスナーを閉めることができる
実際にカバンのファスナーを閉めることができる

また、電車に乗っているシーンではそれぞれのコマを糸でつり下げ、「ガタンゴトン」という車内の揺れを伝える。

車内の揺れをコマを揺らすことで表現
車内の揺れをコマを揺らすことで表現

さらに雨が降っている場面では、雨粒をビーズで表現したりCGと組み合わせたりすることで、雨脚の強さを感じてもらう。

聴覚障害のある女性に読んでもらった反応は…

自分なりに生み出した工夫が当事者に伝わるのか検証するのも、卒業制作の重要な要素だ。

この日は、聴覚障害者団体に依頼し、生まれつき聴覚に障害がある女性に自分の漫画を読んでもらった。朝起きるシーンを読んでもらうと…。

岡山県聴覚障害者福祉協会・佐藤美恵子事務局長:
ビックリした~。(勢いよく起きているのが)わかりました。慌てた時は、皆さん同じではないですか?

朝起きるシーンで驚く女性
朝起きるシーンで驚く女性

上々の反応だったが、3分割したページでは読むコマの順番を間違える場面も。

岡山県聴覚障害者福祉協会・佐藤美恵子事務局長:
実際に体験してもらいたかった順番は、どうだったんですか?

川崎医療福祉大学 医療福祉デザイン学科・久冨亮さん:
上から順番に3枚をめくったあと、次のページを読んでほしかった

岡山県聴覚障害者福祉協会・佐藤美恵子事務局長:
(読む)流れがわかっていたらよかった

川崎医療福祉大学 医療福祉デザイン学科・久冨亮さん:
(読む順番を)誘導するという部分で、ご意見を聞いて直したい

ストーリーの鍵となる鈴が付いたネコのキーホルダーは、実物を漫画の上に置いて手に取ってもらった。

岡山県聴覚障害者福祉協会・佐藤美恵子事務局長:
漫画でリンリンと書いてあるが、実際には(鈴の音は)聞こえない。持つと響きは伝わる。聴覚障害の有無に関係なく、健常者と同じように平等に生活できるデザインを苦労して作ってくれたことに、とても感動した

一生懸命メモをとる久冨さん。大きな学びになったようだった。

川崎医療福祉大学 医療福祉デザイン学科・久冨亮さん:
実際に当事者の方に聞くことで、自分の中になかった視点に気付けた。今後の自分の考え方にも影響してくる

「相手の立ち場を理解して」医療現場で貢献へ

そして、開かれた卒業制作展。久冨さんの作品には読む順番を表示するなど、聴覚障害者から受けたアドバイスが反映されていた。

卒業後は病院に就職するという久冨さん。大学時代に学んだ聴覚障害への理解を医療の最前線で生かす日々は、もうすぐそこだ。

川崎医療福祉大学 医療福祉デザイン学科・久冨亮さん:
障害によって「情報のバリア」が存在することを深く知ったので、これから社会で活動していく中で、相手の立ち場を理解しようとする姿勢を大事にして、病院で貢献していけたらなと思っています

気づきにくい情報のバリアは、たくさんある。

(岡山放送)

岡山放送
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